第153話 大阪市北区梅田の醤油ラー麺(濃口)
人は呑むと、麺を啜りたくなる。
なぜだろうか?
生物学的な本能なのか?
後天的文化的に育まれた習慣的性質なのか?
はたまた、哲学的な問題なのか?
疑問は絶えない。
だが、ただ一つ言えることがある。
「麺を啜りたい……」
今、呑んだ後の己が麺を啜りたい衝動に駆られているということである。
ところは梅田駅前ビル。
幾らでも麺を喰らう場所はある。
肉醤油ラーメン、煮干しラーメン、豚骨醤油ラーメン、家系ラーメン、鯖出汁系ラーメン etc.
選択肢は幾つもあるが、今は、穏やかにいきたい。
ならばと、このラーメンに限らず飲食店の激戦区である駅前ビル地下で十年以上親しまれている店を目指すことにする。
場所は、駅前第二ビル地下二階のほぼど真ん中。
和風の外装の店が、目的地だ。
厨房をL字に囲むカウンターだけの店内には、そこそこの客入り。
それでも、すぐに入ることができた。
ここは、食券ではなく、注文するスタイル。
メニューを眺めて、今の気分に適したものを注文する。
「醤油濃口で」
焦がし味噌や辛味噌、つけ麺、汁無し担々麺など豊富な品揃えではあるが、ここはオーソドックスに行きたい気分だったのだ。
後は、待つばかりだが、ここはそう待たされる事はない。
『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動することなく過ごす。大丈夫。今回のイベント報酬にリリーはいない。頑張らなくていいんだ。
そうして、ほどなく。
注文の品がやってきた。
「う~ん、正統派だねぇ」
褐色のスープの上には、大ぶりのチャーシュー、ナルト、メンマ、海苔、ほうれん草、刻みネギがトッピング。
飾らない、実にシンプルな外見だ。
「いただきます」
まずはスープをレンゲで一口頂けば。
「おお、和風……」
醤油ラーメンという範疇ではあるが、うどんやそばなどの出汁に近い魚介系の風味を感じる。勿論、関西風で甘みを含んだ旨味だ。
こういうのを食べると、逆に醤油ラーメン的なスープにうどんを入れた店が十五年前ぐらいにあったのを思い出す。
それはさておき、シンプルに旨いスープだ。
やや固めの中細ストレート麺の食べ応えにもとてもマッチしている。
具材もスープを邪魔しない。
大ぶりなチャーシューはタレなどの味付けはなく、スープを浸して食うタイプ。それがまたいい。濃口だけに、タレに付けるのと同等の味わいとなる。
目に楽しいナルト、彩りであり食感と味わいのアクセントになるほうれん草、コリコリと楽しむメンマ、一層魚介を感じさせる海苔。
どれも相乗効果で腹の虫を喜ばせてくれるないか。
非常にバランスがいい。
全く派手さはないが、どこをどう食べても美味しい。安心の一杯だ。
アルコールの導きで、今日もまた、いい食の体験ができている。
麻薬など必要ない。麺があれば多幸感は味わえるのだ。
人は、旨いラーメンを食うと己の悪事を思わず吐露してしまうという殺し屋の物語があったぐらいだ。
麺は、尊い。
そんなことを考えながら、麺を啜り具材を食い尽くし。
戒めなど忘れて丼を抱え。
滋味溢れるスープを最後の一滴まで飲み干す。
めがねっ娘が好き、めがねっ娘が好き、めがねっ娘が大好き!
と、思わず、己の秘めた想いを告白しそうになる命のスープだった。
余韻に浸り。
最後に、一杯の水で現実に返り。
「ごちそうさん」
会計を済ませて、店を後にした。
「さて、帰るか」
ここからだと西梅田の方が近いか。
駅前第一ビル方面へと、足を向ける。
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