第152話 大阪市中央区道頓堀のラーメン(白菜・ニラキムチ、ニンニク入れ放題、ごはん食べ放題)

「夏も終わったなぁ……」


 台風の影響が危惧されつつも無事に東京で『夏』を過ごし、大阪へと帰ってきていた。


 一晩ぐっすりと休んで大分回復したが、身体の芯には未だ疲労がわだかまっているのを感じる。


 ここは、精の付くものを喰って回復させるところだろう。


 ちょうど、上京中に発売したコミックを色々と確保できていない。


 買い物も兼ねて、私は日本橋へとやってきていた。


「さて、どこで喰ったものか……」


 ここは食い倒れの街。


 醤油、味噌、塩、豚骨、鶏、牛、白湯、清湯……切り口によって選択肢は無数にある。


 今日の気分に合わせると。


「そうだな。しばらく離れていた大阪に戻ってきたんだ。大阪らしいの、行ってみるか」


 日本橋の駅を出てすぐに地上に出て、相合橋筋を北上する。


 途中に、伝説の豚丼とやらも売りにしたラーメン店の支店ができているのを横目に、アーケードを通り抜ければ、道頓堀。


 その手前に、巨大で派手な龍の看板がある。


 ここが目的の店だ。


 厨房は店舗の南西角にあり、外に面していて創っている様子がよく見える。


 そのすぐ横に食券機があった。


 メニューは、ラーメンとチャーシューメンのみ。


 別に肉々しい気分でもないので、シンプルにラーメンを選び、店内へ。


 厨房と直結のカウンターに食券を出せば、番号札を渡される。


 できあがれば番号を呼ばれるので、それまでに席の確保だ。


 店内には、特徴的な畳敷きの小上がりの座席が並んでいる。


 その一つを確保し、カウンター上の薬味を取りに向かう。


 発泡スチロールの小さな器に、ニンニク、ニラキムチ、白菜キムチを適量ぶち込んで、座席へ。


 次は、ご飯だ。


 店の南奥の巨大なご飯釜から、お焦げ混じりのいい感じのご飯を器によそう。


 最後に、水を入れて一息。


 『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動して、プレイしようとしたところで、番号が呼ばれた。


 水着リリーは既にガチャでゲットしている。今回のイベントでこれ以上リリーは出てこないだろう。そこまで頑張る必要はない。


 即座にアプリを終了し、カウンターで麺を受け取り、箸とレンゲも確保して座席へと。


 さぁ、腹の虫お待ちかねの食事の時間だ。


「シンプルだなぁ」


 褐色の白湯スープの上から、刻みネギが掛かっている。不透明なスープの中にチャーシューの姿がうっすら覗いていた。


「こういうのでいいんだ」


 イン○タ映えする盛り付けとかそういうのとは全く無縁な、素朴な外見がとてもいい。


 スープの中から引っ張り出した中細ストレート麺を啜れば、甘辛い風味の鶏ガラ豚骨味。子供の頃から慣れ親しんだ安心感ある味わいに、大阪に帰ってきたことを実感する。


 ご当地ラーメンというには大阪要素はないし、特別な何かがあるわけでもない。


 だけど、長く親しんできて、ときおり無性に食いたくなる。


 そういう味なのだ。


 次に同じくスープに沈んで姿が見えなかったチャーシューを穿り出して囓れば、少々パサッとしつつもしっかり豚。シンプルに旨い。


 また、このスープの味わいは米にも抜群に合う。


 ああ、そうか。


 麺をおかずにご飯を食う。


 立派に大阪風じゃないか。


 どうして、地方によっては麺をおかずにしないのか?


 そばにご飯を付けて色々言われた信州旅行を思い出す。


 炭水化物に炭水化物を合わせることに否定的な人が、パスタについてくるバケットにソースを付けて食べていたりする哲学的な問題もあったな。


 いいじゃないか。


 炭水化物×炭水化物。


 麻薬になど走らずとも、炭水化物、つまり糖質で人は充分にトリップできるのだ。


 勢いに任せて半分ほど食べたところで、そろそろ、味変の時。


 このラーメンは、取り放題の薬味で自分でカスタマイズできるところがよいのだ。


 先ほど確保した薬味を、一気にぶち込む。


 ニラキムチ、白菜キムチ、そしてマシ程度の刻みニンニク。


 ほどよく混ぜ合わせて再び食せば。


「よし、今日は抜群のスタミナラーメンができたぞ」


 それぞれのバランスがよかったのか、キムチニンニクとベースのスープが絶妙に組み合わさり今までになくいい味になっていた。


 いつも入れすぎるので気持ち全体に少なくした(特にニンニク)のがよかったのか。


 とはいえ、もう一度やれと言われても再現できない味わい。


 一期一会のカスタマイズ。


 なら、


「おかわりせずにはいられないな」


 どこぞの団体戦決勝のIKDと略したくなる奴の台詞を連想しながら、ジャーへと向かいご飯をおかわり。


 再び丼に向かい、麺を啜り米を食めば、脳に幸せが押し寄せる。


 腹の虫の欲求に従い、ただただ食を楽しむ。


 心地良い時が流れていく。


 気がつけば、丼の中はスープだけに。


 ここで終わる訳にはいかない。


 丼を持ち上げ。


 絶妙な味わいになったスープを最後まで楽しみ。


 水を最後に一杯飲み干し。


 食器を返却口に戻し。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


 想定以上に食を楽しめた満足感に浸りながら、姫カットめがねっ娘が男子を怖がらせて鼻血を垂らしてハァハァするマンガなどを買うべく南のオタロードを目指す。 

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