第141話 大阪市浪速区難波中の楓G郎(300g野菜マシマシニンニクマシマシ辛めマシマシ)
頭脳労働を終えて職場を後にした私は、買い物のために日本橋オタロードへと向かっていた。
だが、オタロードへ到着した途端。
「腹が、減った……」
買い物の前に何か入れないと辛いぐらいに腹の虫が騒ぎ立て始めたのだった。
こうなっては、もう、喰うしかない。
ちょうど今、予約していたブルーレイを確保するためにソフマップなんば店ザウルス前にいる。
振り向けばそこには、飲食店が幾つも並んでいた。
「となれば、せっかくだから新しい店に行ってみるか」
気になるメニューのストックの一つがある店へ。幸い、早めの時間で空いていた。待たずに喰える。
入ってすぐの食券機で、気になっていたメニューを選ぶのだが。
「麺量がいくつかあるのか……ここは、真ん中で」
200、300、400の中から300gを選ぶ。
入ってすぐの席に案内されて食券を出せば、トッピングの量を尋ねられる。
博多豚骨ラーメンの店にある、マシできるメニューなのだ。
「野菜マシマシで、ニンニクもマシマシ……あと、辛めマシマシで」
結局、脂意外全部マシマシで頼んでしまうのは、仕方ない。
私は腹が減ってるんだ。
だが、
「今の時間、無料でライスの小をおつけできますが」
「さすがにそれは無理なので結構です……」
己の限界を越えない程度の節度は持っているのである。
さて、後は待つばかり。
騒ぎ立てる腹の虫を忘れるために、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在のイベントはカルミアの過去の御華詩。
それはそれとして、カルミアの想いをボチボチ集めるのんびりペースなので、出撃よりもリリーとおでかけしたり学園の試合をこなしたりしていれば。
注文の品が……
「先に脂になります」
と思ったら、小皿に入った脂がやってきた。この店では脂は別皿のようだ。
マシていないのでほどほどの量なのが有り難い。健康のため、脂は控えているのである。
そうしてほどなく、今度こそ本命の丼がやってくる。
「これはこれは……」
押し込められて歪に積み上がった野菜の山。頂上にはたっぷり刻みニンニク。
裾野には、最近よく見かける分厚いグルグルチャーシュー。
中々手強そうだが、
「いただきます」
行くしかない。
「これ、崩さないのは厳しいな」
押し固めてやや傾いた野菜の山は、不用意に手を入れると雪崩を起こしそうなのだ。
まず、頂上のニンニクを少しずつ、縁の僅かな隙間からスープの中に溶かしていく。そうしないと、転げ落ちそうなのだ。
次に、慎重に少しずつ野菜を箸で掴んで口へ運ぶ。
スープに浸したいが、その拍子に野菜を崩してしまいそう。そのまま口へ運ぶのが、今のベストだ。
こうしてもやしそのものの味を楽しむのも悪くないが、量が続くと少々辛い。
が、そこで気付く。
「あ、そうか。別皿があるなら、そっちに退避すればいいんだ!」
そこそこ深みのある脂の器に、慎重に野菜を移していく。
こんもりと器に積み上がったところで。
「よし、これならどんどん行けるな」
山の多くを器に移した。まだまだ油断すると崩れる程度に野菜は残っているが、今の状態ならスープとの導線が確保できている。
「おお、豚骨醤油……」
脂ぎっていたり醤油が立っていたり、この手の麺類のスープは尖った印象のもののも多いが、これはまろやかというかコッテリというか。オーソドックスな味わいの濃厚豚骨醤油味。野菜が進むというか、なんでも進む食欲を増進する味である。
先ほどまでの寂しさはどこかへ。バクバクと喰い進められる。
「ようやく、麺との対面か」
崩れる心配がない程度に減ったところで、スープの奥から麺を引っ張り上げる。
黄色みの強いツルッとした太ストレート麺。自家製の不揃いな麺もいいが、こういうのも悪くない。
というか、
「炭水化物!」
植物ばかり胃に運ばれてくることに不満を漏らし始めていた腹の虫は、待ったなし。
ズルズルと勢いよく口に入るだけ放り込んで咀嚼すれば、心地良い快感が脳に伝わってくる。
しっかりと濃厚なスープを纏ってこってり味の麺は、ずしりと腹に溜まるのだが、箸が止まらない。
麺を引っ張り出して天地が返ったことで、ニンニクが全体に行き渡って更なるパンチが加わったのも大きな要因だろう。
ズルズルもぐもぐゴクリと、腹の虫に煽られるままに麺を胃に届ける。
ああ、旨いなぁ。
「と、チャーシューを忘れていたな」
グルグルチャーシューを囓れば。
「おお、焼き豚」
タレが掛かっていない、文字通りの焼き豚はストレートに豚味。
なるほど、これをスープに浸せば、うん、ちょうどいい塩梅だ。
炭水化物にタンパク質。
お陰で、腹の虫もそろそろ落ち着きを取り戻してきたようだ。
では、
「そろそろ、味変してみるのもいいな」
この店は、メインが博多豚骨ラーメンだからか、この手の麺定番の一味と黒胡椒がない。
代わりに、
「紅生姜とか、どうだろうか?」
器からトングで軽くつまんで麺に乗せ、そのまま食べてみる。
「なるほどなるほど……これはこれでサッパリしていいな」
紅生姜のピリッとした刺激は、濃厚さを和らげてくれるのでとても食べやすくなる。それは、確かだ。味のバランスとしても悪くない。
だけど。
「いや、今は、濃厚なままいきたいんや……」
残念ながら、今の口には合わなかった。
紅生姜はそれで済ませ、粉末の白胡椒を掛ける。
「こちらも、少々パンチが弱いか」
胡椒は胡椒だが、致し方ない。
やはり今は、こうして色々な味を試しても負けない芯のある味を楽しんでいこうではないか。
そこで、器に移したままの野菜を思い出す。
「そろそろ、戻すか」
余裕の出てきた丼に野菜と、元々入っていた脂を投入。
少し混ぜて馴染ませてから口へ運べば。
「お、重い……」
マシていないのでそれほどの量ではなかったはずだが、それでも脂の威力は凄い。一気に濃度が増してズシリがズシーンぐらいの重さになっている。
やはり、脂は抜いておくべきだったか? いや、そうなると器がなくて最初に積んでいたかもしれない。
この選択には意味があったと、信じることにしよう。
とはいえ、こうなるとさっきまでの余裕が無くなってくる。
まだ、そこそこの量が残っているが、マシて残すなどあり得ない。
大丈夫。胃の容量的にはいけるのだ。
これは、限界を越えた重みの問題。
なら。
「薬味に活躍して貰おう」
手のひらを返して味変に頼ることにした。
だが、そのまま紅生姜に頼るのは芸がない。
「ここは、辛子高菜だ」
トングで二、三回掴んで丼に放り込み。
混ぜればうっすらとスープが赤み掛かる。
一味がなくても、唐辛子はあったのだ。
スープを啜れば。
「辛い……いいぞ。これで脂の重みを押しのけられる」
高菜のピリ辛風味に頼りながら、勢いで麺を野菜を胃に叩き込んでいく。
この状況でも、腹の虫は無邪気に喜んでいるのが救いだろう。
だが、あと一歩のところで。
「麺、200gでよかったかも……」
思わず弱音が口を衝く。
いや、いける。いけますよ?
でも、少し休憩が欲しい。
水を飲んで深呼吸。
そうして、まだ使っていない薬味を見つけ。
「これで、ラストスパートだ」
手回し式のすり胡麻をバラバラと丼に回し掛け。
酢を同じく一回り。
更なる味変に。
「いける、な」
ゴマの風味と酢の酸味で新たな味の扉が開き、食欲は再び甦る。
このまま、何も考えず腹の虫の導きを信じて。
箸を動かし。
レンゲでスープの中を浚え。
スープを口に含み。
スープを、口に、含み。
更に、スープを、口に、含み。
「あれ?」
気がつけば、丼の中はスープを残すのみ。
あれだけ、重さを感じていたにも関わらず。
ここに来て名残を惜しむようにスープを飲んでしまう。
ああ、旨かったんだ。
余韻に浸り。
最後に、水を一杯飲んで一息つき。
テーブルを付近で拭いて、後始末をし。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「雨、か」
いつの間にか降り出した雨の中。
ほんの少しの道のりだ。
傘も差さず、目の前のソフマップなんば店ザウルスへと、ブルーレイを買いに向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます