第136話 大阪市北区小松原町の赤まみれ濃厚豚骨らーめん+半大根焼きめし
「いやぁ、正に大暴れ《ランペイジ》だったな」
現在は観たい映画目白押し状態なので積極的に映画を観るべく、職場から早く抜け出ることができたのをいいことに梅田に出て獣が大暴れして人間に牙を剥く映画を鑑賞したのだった。
いがみ合うだけでなく獣と人の心の交流もあったりしてほっこりしたりユーモラスな台詞回しも多かったり、とても素敵なエンタメ映画で月曜からとても充実した時を過ごすことができた。
流石は、世界的に有名な『ピーターラビット』の実写映画化である。
心地良い興奮に包まれて劇場を後にし、HEP NAVIO の前に出たところで、
「腹が、減ったな」
痛快娯楽活劇を観たのだ。カロリーも消費している。
ここは、ちょっとばかりガッツリ目にいってもいいのではないだろうか? 炭水化物重ねる感じで、こう?
そんなことを考えながら、 阪急百貨店を横目に少し南下して左折。東通り商店街へと足を進める。
この辺りは飲食店に困らない地域。早速、チェーンの麺屋を見つけたのだが、
「ここは、あちこちにあるしなぁ」
となって気分が乗らずスルー。
そういえば、もう十五年ぐらい前になるかもしれないが、東通りの北に折れたところに、とても気に入っていたラーメン屋があったのをふと思い出す。
店の名前にその色を冠している唐辛子の入った辛味豚骨ラーメンが売りの店だった。ちょくちょく行っていたがある日唐突に姿を消してしまったのだ。
その後、一時期心斎橋で再開していたものの、今は、もう、ない。
少しセンチメンタルな気分になりながら、かつて店のあったところに足を運べば。
「そういうば、別の店があったな」
同じ場所ではないが、少し西側に商店街を外れたところに、麺屋があったのを思い出す。
そうして、フラフラとそちらに向かって見れば。
「赤まみれ……だと」
今月からの新メニューの看板が出ていたのだ。辛味豚骨ラーメンの思い出に浸っていたところで、タイムリーすぎる。
もう、ここしかないだろう。腹の虫大納得である。
引き戸を開けて店内へ足を踏み入れ、食券機で目的のラーメンの食券を買う。
更に。
「今日は、これも行くのだ」
半大根焼きめしの食券を追加する。今日は、腹が減ってるんだ、仕方ない。
そうして、案内されたカウンター席について食券を出せば、
「辛さは普通と激辛とあり……」
「激辛で」
店員の確認に被せる勢いで激辛を指定する。二段階しかないんだ。むしろ普通にしたら後悔するだろうからな。
そうして、待ち時間は『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動するも、時間が読めないのでおでかけを仕込むに留め、ジャンプを読んで過ごすこと少々。
注文の品がやってきた。
「おお、なんだか緑でヘルシーそうだ」
まずは、半大根焼きめし。
麺と揃うのを待ちたいが、できたてに手を付けないのも勿体ない。
レンゲで一口頂けば。
「ああ、紛う事なき焼きめしだ」
中華な出汁の味などは一切なく、米を塩胡椒で炒めた味わい。具材は溶き卵と刻みチャーシューと看板になっている大根の葉。
パラパラではなくしっとりした、焼きめしなのだ。
久々だなぁ、こういうの。
素朴な味わいで腹の虫を楽しませていると、すぐにメインの麺がやってきた。
「なるほど、赤まみれ、か」
具材はチャーシューと刻み白ネギと煮卵のみ。
スープは、クリーミーなタイプの豚骨白湯。
そして、その上に、大さじ山盛りぐらいの赤い粉がまぶされている。
看板に偽りなし、だ。
「まずは、混ぜる前の味を……」
レンゲでスープを掬って口へ運ぶ。
「お? 見た目の割には優し目の味だ」
豚骨白湯だと背脂こってり系を見た目で想像してしまったが、脂感はなく、恐らく野菜等のポタージュ系と思われる。
こってりせずに豚の風味を楽しめる塩梅。
今度は麺を。
スープの中から姿を表したのは、中細ストレート麺。しっかりとクリーミーなスープを持ち上げて、豚骨ラーメンとしては破格の食べやすさである。
なるほど。ベースがしっかりしているな。
だが、だ。
本番は、ここからだ。
「では、まみれようではないか」
ここからは、赤の時。
塗された粉をガシガシスープに混ぜ込んでそれを麺に絡めていく。
面白いぐらい全てが朱く紅く染まっていく。
「さぁ、楽しませてもらおうじゃないか」
しっかりスープで紅く染まった麺を多めに頬張れば。
「おお、唐辛子が旨い」
この赤い粉は数種をブレンドしたものらしいが、激辛という割にはそんなに辛くない。とてもよく唐辛子の風味が味わえる逸品。激辛で正解だった。※スパゲティ食うと一食でタバスコがセンチ単位で減ることもざらな人間の感想です
唐辛子と豚骨の旨みで攻める、クリーミーなスープは中々新鮮な味わいのようで、懐かしさもある。
箸休めに大根の焼きめしを喰らいながら、ときにそこにスープを飲んで濃厚な味わいにしてみたりもしつつ、麺と向き合っていく。
並盛りで食の進む味わい。玉子もいつの間にか腹に収まり、チャーシューも呑むように胃に放り込まれ。
楽しい、嬉しい。
久々に、素直に麺と触れあえた気がする一時。
だが、そういう時間はすぐに過ぎる。
「もう、終わり、か」
名残惜しく、赤いスープだけが残る丼を見詰める。
「いや、まだ、終われない、な」
やれやれ、だ。
レンゲを手に、残ったスープのサルベージ作業へと入る。
サルベージ先はマイストマック。
ああ、ぽかぽか温まる。
とても、温まるなぁ。
そうして、最後には丼を持ち上げて最後の一滴まで胃の腑に沈め。
水を一杯飲んで一息。
食器を付け台に上げて。
「ごちそうさん」
店を後にした。
思い出から衝動的に選んだメニューだが、大正解だった。過去から未来へのメッセージ、こういうのもあるんだな。
映画も満足。食も満足。心も体も満たされて、素晴らしい月曜の夜となった。
さて、駅へ向かいがてら地下街に降り、コミックランドを覗いてから帰るか。
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