第135話 大阪市浪速区日本橋の担々麺(野菜マシマシラー油マシマシ)
今日は映画の日であるからして、仕事帰りに劇場に飛び込んだのである。
不死のヒーローの活躍を描く『デッドプール2』! 色々と酷い導入から気がつけば場内に笑いが起きてほろりとする場面もありつつ綺麗に決着つけてつけまくってたりして、とても楽しい映画体験だった。
今月は、気持ちよく過ごせそうだ。
良質のエンタメを楽しんだところで、まだなんとか開いているメロンブックスまで足を伸ばしてコミックスとラノベを少々確保したところで。
「腹が、減ったな」
となれば、帰りがけに何か食って行くとするか。
メロンブックスが入っているアニメイトビルを出て、北へ少し。
右に折れたところにある店にフラフラと引き寄せられる。
「並んでるか……」
待ちがあるので避けようかと思いながら、何気なく食券機を見ると。
「期間限定メニュー……しかも、担々麺だと」
そんなものを見つけてしまったら話は別だ。
迷わず限定の食券を確保して列に入る。
何、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイしていればすぐだ。
現在は、弾幕神イベント第二弾。今回の弾幕神はライコウ。左右後方に極太レーザーを撃ってくる、怒首領蜂から登場しているシリーズお馴染みのボス。うっかり発射口の後ろに陣取って自機を減らされることしばしの憎い奴が、女の子の姿となって参戦してきたのである。
ショットがそのままでとても欲しいが、残念ながら眼鏡を掛けていないので無料で溜め込んだ石だけで回してゲットならず。
いいのだ。
今回のイベントはアクティブポイントを溜めることで『ぱふぇ★』
が貰えるのだから、それで充分だ。
という訳で、アクティブポイントを使命感と共に稼いでいれば時の流れは速い。
いや、実際思ったより待ち時間少なく店内へと入ることができた。
案内された狭い店内のカウンター席で食券を出すと、トッピングを尋ねられるのだが。
「野菜とラー油の量を選べます」
なんと、ニンニクではなくラー油か。ニンニクをマせないのは寂しいが、ラー油も好物だ。
「野菜マシマシラー油マシマシでお願いします」
どっちもマシマシいくしかないだろう。
これで、後は待つばかり。
再びゴ魔乙の出撃を重ねてアクティブポイントを溜める=ぱふぇ★への道のりを一歩一歩踏みしめていると。
注文の品がやってきた。
「おお、豪快だ」
赤灰色とでもいうようなゴマの色合いに赤みが差したスープが、付け台に出された丼の縁から盛大にスープが流れ、受け皿へと滴っている。
慎重に台から下ろして目の前に下ろす。
積み上がった野菜の上には、見るからにしっかり味の付いた挽肉。ただ、充分一人前の量は入っているのに少々寂しくみえるのは野菜の量の見せる錯覚か。その上には軽く刻みネギも散らされていて彩りも鮮やか。
そして、挽肉が乗っていても、大ぶりのチャーシューも二枚、野菜の斜面に寄り添っている。
その野菜の山にはたっぷりラー油がかけられて赤みががかっているのがなんとも新鮮な風景だ。
「いただきます」
箸とレンゲを手に、挑む。
「こいつは、油断ならないな」
野菜の山だけでも厳しいのに、その上に挽肉だ。
慎重に慎重を重ねて、野菜を少し口へ運ぶ。
「おお、ラー油でしっかり味がして、このままでもいける」
これなら、無理せず野菜だけをしばらく攻めていけば状況は好転しそうだ。
と、思って油断したのがいけなかったのだろう。
「やっちまった……」
わずかではあるが、挽肉が野菜の山を滑り落ち、机の上にダイブしてしまったのだ。
「すまない……」
口に運んでやれなかった肉に謝罪しながら、備え付けのティッシュで包んで処理する。
「気を引き締めないとな」
どんぶりをできるだけ奥にやってズボンに具材やスープがこぼれないように体制を整え、できる限り前かがみになって丼と向き合う。
退路を確保した上で、より安全に食せるよう、野菜を崩して確保した導線から、挽肉をスープの中へと沈めていく。
さらに、野菜に少し絡めて食えば、鼻にふわりと漂う香気。
「これは……花椒」
四川料理に欠かせない麻辣の麻である。
しびれるような感覚はないが、この独特のかぐわしい香りは『花』を関するのがよくわかる心地よさ。
このまま食べて熱い四川の人になれば、きっと地球を回すことができるに違いない。ソフマップの店内で聴いたことがあるぞ。
などと、よしなしごとを考えつつ食を進め、ようやく安心してスープに手を付けられる時が来た。
「ああ、担々麺だ」
このゴマダレ風味、大好きなのである。さらに、出汁はこってり豚骨。旨みもガッツリ。これはとてもいい。
さらに。
「これ、ニンニクも入ってるよな?」
それらしい風味もある。マシマシできなくても、基本の調味料で使っているようだ。もしかすると、そのバランスを崩さないために、あえてマシマシにさせないのかもしれないな。
ともあれ、ここからはラー油オイリー、もとい、ラー油オンリーの味わいで食べ進んでいた野菜も、ほかの全ても、このスープで楽しんでいける。
「なんでもマシマシはどうかと思う嫌いもあるかもしれないが、これはありだなぁ」
ようやくお出ましの麺を引っ張り出して頬張りながら、しみじみ思う。
太くて不揃いで硬めの麺は、しっかりスープを絡み取りながら噛むたびに口内に喜びをもたらしてくれる。
どんどん食が進む味わいだ。
と、何かこれまでと違う風味が漂ったかと思ってよく見れば。
「これは……刻み高菜!」
野菜の山に埋もれていたのか全然気づかなかったが、刻んだ高菜が現れたのだ。いや、担々麺だと芽菜か? さすがにそこまで詳しく判別はできるほどの知識と経験は持ち合わせていないが、そんなことどうでもいい。
これはいい。他と異なるピリッとした味わいとコリっとした食感がとてもいい。
食も後半に入ってこんな発見があるなんて、侮れない。
だが、時は残酷で。
「やっぱり、薄くなってきたか」
野菜をスープに浸せば、どうしても水が出て薄まってしまう。
かえしが置いてあるので、いくらでもカラメにはできるのだが、この担々麺にそれは少し違う気もする。
そうして、備え付けの調味料を見れば。
「これだ!」
容器に入ったイリゴマをぶっかける。
薄まった分をゴマの風味で埋めるのだ。
「ああ、なんだか優しい味わいになって体によさそうだぞ」
どぎつめだったタレと出汁の主張は鳴りを潜め、ゴマの風味だけ立つこれはこれでいいスープになった。
そうして、啜っていれば、中の固形物もやがて姿を消し。
そこに沈んだもろもろをさらえ。
危うくすべて飲み干しそうになったところで、久しぶりに戒めが思い出された。
汝、完飲すべからず。
これを飲み干すのは、胃の容量的にもやばい気がする。
代わりに、水を一杯飲んで口内をリセットして食欲を退散させ。
付け台に丼とコップを戻し。
机を布巾で拭いて。
「ごちそうさん」
店を後にした。
飲食店を除いて閉店した、いつもと違う顔を見せるオタロードを北へ向かい、家路を辿る。
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