第134話 大阪市中央区日本橋のラーメン(麺220gヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)

 最近、同じような系統の麺率が上がっている気がしないでもない。

 だが、食は健康の元。

 喰いたいものを、喰いたいと思ったときに喰うことこそが健康の秘訣。


 マンネリなんかはなんのその。声だけでお仕置きを言い渡されてシラケても構わない。


 そう、疲れが溜まっているなら、ガッツリ喰うべきなのである。


 そんな訳で、仕事を終えた私は御堂筋線難波駅に降り立ち、南海方面から地上へ上がり、東から出て道具屋筋を通り抜け、行列のできる肉吸いの店の横を抜けて更に東、堺筋へ出る手前で北へ折れたところにあるいつもの店を訪れていた。


「開店直前、か」


 先客がいるが十人足らず。


 これなら、すぐありつけるだろう。


 列に加わり、週刊少年ジャンプを読んでいるとすぐに開店となった。


 順番に細長い店に吸い込まれる列に従い、ここは久々なので基本のラーメンの食券を確保して水を確保して席へと着く。


 やってきた店員に麺の量とニンニクの有無を問われれば、


「麺は並、ニンニクマシマシで。あと、ヤサイマシマシ魚粉カラメ」


 淀みなく、注文を通す。


 さぁ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイしよう。今はパジャマパーティー的なイベントで、パジャマ姿の五乙女五悪魔が順次実装されている最中。


 そして、本日、遂に【氷寝】リリーが実装されたのである。


 溜め込んでいた石で半額を11連+単発を回すも出ず絶望に染まりかけたところで、大安売りの石であと一回だけ11連回したところ、無事に確保。


 というか、11連で★5が3枚という大盤振る舞いであった。


 お陰で心穏やかにイベントステージを回すことができている。


 めがねっ娘と弾幕と戯れていれば時の流れはキングクリムゾンの攻撃がごとし。


 気がつけば注文の品が目の前に現れていた。


「なんと癒やされる料理であろうか」


 比較的穏やかながら充分に山盛りの野菜。キャベツ率が高いのがとても嬉しい。

 魚粉で褐色に色づいた山肌も趣深い。

 ゴロゴロと塊の肉が麓には転がり、丼の周囲の実に四分の一ほどの半径を覆うように降り積もるニンニクの白が眩しい。


「これだ、これが、今の我が腹の虫が求めて止まぬものだ」


 箸とレンゲを手に、待望のマシマシに挑む。


 魚粉の掛かった野菜をガツンと豚が効いたスープに浸せばそれだけでもう旨い。


 表面に油膜のあるスープを直接いけば、出汁の効いた甘めの豚醤油味。


 馴染んだ味だ。


 ここに、野菜を食べながら段々とニンニクが溶け込んでいき、味わいが。変化していく。


 その過程で、引っ張り出した麺は、太く、硬く、黒ずんで、食べ応え、麺の風味にしっかり纏ったスープの味わいが映え、脳に多幸感と言う名の打撃を与えてくる。


 これだけ気持ちよくなれるのだ、身体に悪いわけがない。

 

 心身の健康のため、モリモリと野菜と麺を頬張る。


 そして、徐にスープに沈めておいた豚を囓れば。


「硬くパサついているが……だからこそ、スープを絡めて楽しめる」


 強い味に強い食感はそれだけでマッチする。


 更に、


「ここで、朱く染めるのもいいだろう」


 一味を豚に大量にふりかけて口に放り込めば。


「唐辛子と豚の相性は良すぎるな」


 幾らでも唐辛子がいけそうな心地よさ。


 元々、そこまで辛く無い一味だ。


※暴◎ハバネ◎を流し込んで食える程度の辛党の感覚です


 スープを朱く染めたところで大したことはあるまい。


※タバスコをそのまま舐めて平気な程度の辛党の味覚です


 とはいえ、お楽しみは後に残して、風味を変えるために粒コショウをばらまく。


 こちらも豚との相性は抜群。


 スープとも麺とも勿論合う。


 粉っぽくなる程度丼の上からふりかけ、麺と野菜を箸で掴めるだけ掴んで口へ

放り込めば、腹の虫達が滂沱と涙を流して解脱する。


 昇天しそうな旨みの奔流を、何に妨げられることなく自由に楽しむ。


 ああ、生きている。


 己が命ある存在だと実感する。


 クラクラするような食の悦びに浸り。


 気がつけば丼の中は野菜の切れ端がスープに残るのみ。


 今の私を戒めるものなどない。


 スープをレンゲで掬って、残り滓さえも許さないと追い駆ける。


 唐辛子と胡椒と大蒜で粉っぽくなった趣深い液体を口に運び。


 もう、全てを救い、スープが清められたところで、我に帰る。


 これ以上は、戻って来れなくなる。


 具体的には、もう一杯食いたくなる。


 だから、ここで快楽を堪えねばならない。


 コップに水を満たし。


 深呼吸して心を落ち着け。


 グイとあおって口内をリセットする。


「ふぅ……」


 大きく息を吐いたところで、理性が甦る。


 卓上のティッシュで口の周りを拭い。


 もう一杯水を飲んで完全に名残を断ち切り。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「さて、ガッツリ喰ったし少し歩くか」


 人の心を丸裸にしてしまうカメラを巡る恋物語と、アイドルが飲んだくれるコミックが出ていたはずだ。


 まずはそれらを確保するため、オタロードを南下してメロンブックスを目指す。

 


 

 

 


 


 

 

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