第137話 大阪市福島区吉野のやまとラーメン+サービスライス(お替わり自由)
「さて、どこで飯を食ったものか?」
所用で伊丹に14時頃に居ないといけない。伊丹へ繋がっているJR東西線へ乗るため、大阪メトロ野田阪神駅まで出てきていたのだが、ちょうど昼時。
現地で食事というのも考慮して早めに出ていたのだが、そういえば、この辺りで食事をする機会は少ない。
この機会に、どこか開拓するのは悪くない。
そんな訳で、地下で連絡しているJR海老江駅へ向かわずに地上へと上がった。
とりあえず、飲食店がありそうな商店街方面へ向かおうと信号待ちしていたのだが。
「ありゃ? 雨か」
なんとかギリギリで降らずにもっていたが、ダメだった。結構大粒の雫がボタボタと空から落ち始めた。
慌てて折り畳み傘を出して凌ぎつつ、変わった信号を渡っていると、渡った先に気になるのぼりが見えた。
商店街へは向かわず、そのまま道路沿いに真っ直ぐ進むと、
「ピリ辛こってりにんにく風味で醤油味……だと。これは、よさげだな」
雨の中歩き回るのも面倒だ。ガラス戸越しに見える小さなL字型のカウンターが厨房を囲う店内には、空席がある。
直観を信じて入るとしよう。
好きな席に案内されたので入ってすぐの席に陣取り、水が出るや否や
「やまとラーメンと、あとライスを」
と注文する。これから少々体力を使うのだ。ガッツリいこう。
店内の表示を見れば、ライスはランチタイムはサービスライスとなり、一膳分の価格でお替わり自由ということ。麺を大盛りにしなかったのは、こちらなら足りなければ補えるようにという布石でもある。
サクッと注文を済ませたところで、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。時間が読めないので試合だけをこなしていると、すぐにラーメンとごはん、そしてごはんに付け合わせの漬物が現れた。
「これは、お替わりはいらないな」
ごはんは茶碗に山盛りだ。
そしてメインの麺は。
「ああ、やまと=奈良か」
白菜と人参と思しき刻んだ野菜が表面を覆う佇まいは、奈良の天理方面のご当地ラー麺的だ。
早速レンゲを手にスープを頂けば。
「おお、ニンニク!」
卓上におろしにんにくがあるが、必要性を感じないぐらいにデフォでガッツリニンニクが効いている。その上ピリ辛。これは旨い。そして、食が進む。
思わずご飯をかき込んでしまったじゃないか。
麺がメインなんだから、ここで麺にいかないと不公平だな。
麺は一般的な中細麺で典型的な『ラーメン』という赴き。だが、このスープを纏ってくると重い。ずしんと腹に来る。いいぞ、いいぞ。
この味で、更にご飯だ。
米麺米麺。
ああ、幸せだ……
と、しばし炭水化物の愉悦に浸ったところで、ようやく具材に目を向ける余裕が産まれてきた。
大量の白菜だ。
「なるほど、これは、癒やしだ」
しっかり煮込まれてスープが染みてるのがいい。淡泊ながらほのかに甘みが香る白菜は、このガッツリ系スープとの相性が抜群だ。バランスが取れる。
この癒やしを挟みながら、更に麺を、米を運ぶ箸が加速していく。
とはいえ、腹の容量は有限。
「結構、クるな……」
あと三分の一ほどのところで、少々胃が重くなってきた。
だが、腹の虫はバカになってまだまだウマイモノを寄越せと煩い。
どちらに従うか?
そんなもの、決まっている。
お残しはいけないだろう?
諦めたら終わり。気持ちをリセットして、だ。
大丈夫。布石はある。ここで、漬物だ。
「ああ、なんだか落ち着く」
大根の桜漬けで食べるご飯は、ここまでのガッツリとは一線を画した安心の日本人の食卓。
更に、水を一杯飲み干す。
これで、リセット完了。
再びピリ辛にんにく醤油味に挑めるぞ。
「うむ、旨い」
リセットを挟んだことで、パンチが戻ってきた。食欲が掻き立てられる。
これなら、いける。
残った麺を、野菜を、米を。
腹の虫に促されるまま胃の腑に収めれば。
あっという間に茶碗は空に。
丼にはスープが残るのみ、となっていた。
「ぐっ……これは、悩ましいぞ」
残されたスープの量。これだけあれば、ご飯もう一膳余裕。
だが、一度限界を向かえ駆けたところに追い討ちすると、この後の予定に支障があるかもしれない。声を出す替わりに違う物が出ては大変だ。
ああ、きっと、このスープで米を食うのは幸せなのだろう。
きっと、なんだかんだでもう一膳余裕なんだろう。
だけど。
直近の未来を守るために。
私は、選択する。
「最後はせめて味を変えよう」
おろしにんにくと共に備え付けられている豆板醤的な辛味噌をスプーン一杯スープへ投入する。
レンゲで軽く混ぜ。
一口味見。
「思ったより濃くないが……それでもまた違う味。今日は、最後に違うスープを飲んだということにして、ご飯はやめておこう」
そう。
お替わりの代わりに味のお変わりだ。
これなら、絶対的な量は変わらない。
それに、スープなんだから、完飲してなんぼ。
新たな味わいをレンゲに乗せて口へと運び。
掬うのがツライ量になれば丼を傾け。
飲み干す。
「ふぅ」
終わってみれば、胃が過剰な充実感に満たされている。
とはいえ、口内には食欲を無理矢理引き出す魔性の味わいが残っていた。今なら、これだけでご飯一杯はいけてしまう。
これ以上いけない。
コップに水を満たし、グイッと飲み干す。
口内がさっぱりする。
これで、大丈夫。
食器を付け台に上げ。
勘定を済ませ。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「まだ時間余裕あるし、腹ごなしに少しこの辺歩くか」
ふらりと商店街の方へと足を向ける。
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