第133話 神戸市東灘区住吉宮町の山椒ラーメン+ライス
「さて、どこで昼を食べたものか……」
13時から神戸住吉で予定があるのだが、家で飯を食うには半端な時間だ。
ならば、少し早めに現地入りしてそこで食事を摂った方が効率がいいだろう。
そうして昼食のことを考えながら12時前に住吉入りしていた。
改札を出て海側、つまり南に出ようとしたところで、
「ん? 新しい店か……って、油そば専門かぁ」
通路にデカデカと新店の広告が出ていたのだが、残念ながら今の腹の虫のお気には召さなかった。
そのまま南側から駅の構内を出て、少し歩けば国道2号線。
「そうか、ここにはあの店があったな」
歩道橋を越えて国道2号線の対岸に渡ってすぐ、そこそこ年期の入ってきたラーメン屋にやってくる。
モロに昼時だ。店内を覗けば結構混んでおり、奥が広いT字型の厨房をコの字に下から囲む形のカウンター席は粗方埋まっていた。
だが、幸い僅かに空きがあるようだ。
「なんとか、すぐいけそうだな」
店内に足を踏み入れれば、空いていた先に案内される。
「さて、何を喰おうか?」
白菜などの野菜たっぷりで比較的あっさり系の基本のラーメンであれば、安上がりなセットメニューがあるが、どうせなら喰ったことのないメニューに挑戦したい思いもある。
メニューを眺めていると、見慣れないものがあった。
「山椒ラーメン! そういうのもあるのか」
年単位で来ていない間に追加されたメニューのようだ。
これはいくしかあるまい。
店員に声を掛け、
「山椒ラーメンを。あと、ライスも」
と注文を通す。腹の虫の催促のせいで、反射的にライスも頼んでしまったが、まぁいい。
あと、ラーメンは平麺と通常の麺があるということなので、食べ応えがあるという平麺を選ぶ。
そうして徐に『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動するが、完成までの時間が読めない。出撃中にやってくるのは避けたいので、おでかけを仕込み、学園の試合をこなす。
学園乙女も大分馴染んできてよいのだが、全員裸眼というのが勿体ない。ステロタイプであろうと、優等生タイプのカレン辺りはめがねっ娘でよかったのじゃないか? いや、研究好きのルベリスにもグルグル眼鏡辺りが似合いそうである。
そんな妄想をしている間に、注文の品がやってきた。
「おお、これが山椒ラーメンか」
第一印象は、赤い。山椒といいつつ唐辛子も入っていそうだ。となると、麻辣麺か。挽肉が、乗っていて刻みネギが乗っているのに加え、結構たっぷりのキャベツがスープに浮かんでいるのは、通常メニューと通じるものがあるな。
「いただきます」
早速レンゲを手にスープを頂けば、
「なるほど、こういう味か」
なんだか久しぶりの味わい。挽肉とピリ辛のスープが難波にあった台湾ラーメン店(名古屋ラーメンではなく、実際の台湾のラーメンを出す店)の味を思い出す味わい。というか、端的にはあっさり系の麻辣麺的なものか。まぁ、麻は正確には花椒なので風味は異なるが、方向性はそっちだ。
麺を引っ張り出せば、平麺といいつつやや扁平な中太麺といった感じである。とはいえ、やや硬めで食べ応えがあり、スープもよく馴染んでいる。
麺もいいが、それ以上に、シャキッとした歯ごたえを残しつつスープをしっかり纏ったキャベツがいい。ピリ辛の中に感じる自然な甘みはとても心地良いのだ。
山椒と唐辛子の刺激を含みつつ挽肉と元々の出汁の比較的優しい味わいが楽しめる。
段々と、額に汗が滲んできたところで徐にご飯に行くが、そこで重要な問題に気付く。
「む、以外にご飯が進む味ではなかったかもしれない……」
麺はいい塩梅だったが、白米を求めるのとは少し方向性が異なる気がするのだ。なるほど、だからセットがなかったのかもしれないな、と思ったが大丈夫。
この店には、
「ならばこれだ」
気の利いたことに、席に薬味と共に沢庵も用意されているのだ。
「うん、こうやって箸休め的にご飯を挟むのは、いいかもしれん」
結構山椒も感じられる麺を喰って体温が上がったところで、米でクールダウン。
よし、これでいける。
具材もいい塩梅でピリ辛以外はあっさり目の味わいの麺を食してご飯を沢庵で頂いて、ある程度食べ進めたところで。
「そろそろ、これか」
備え付けの薬味に目を向ける。
おろしにんにく、煎りゴマ、ニラキムチ。
「まずは、これだな」
おろしにんにくをスプーン一杯投入し、軽く混ぜ、一口啜る。
「ああ、この味に合わない訳がないよなぁ」
元々刺激のあった味わいに、別の刺激が加わっていい塩梅だ。
「さて、他もいくか」
次に、ニラキムチだが、入れすぎると完全にニラ味になりそうなので、ほどほどに。
「当然ながら、唐辛子の辣味がパワーアップしたな」
カプサイシンで炭水化物を燃やせてちょうどいい。
とはいえ、少し、熱い。
「ここで、ゴマだ」
スプーンでそれなりにたっぷり掬って丼に放り込み、再び啜れば。
「ゴマの香ばしさがいい塩梅に刺激を和らげているな」
まぁ、ゴマだけにゴマかしているだけで唐辛子と山椒の刺激成分は摂取しているので体温上昇は変わらんのだろうが、そこは米を食ってカバーだ。
額に汗しながら麺を食み米を喰らい麺を食み米を喰らい。炭水化物に酔いしれていると。
「もう、ない……だと」
米粒一つ残らぬ茶碗と、具材が疎らに残ったスープの入った丼が目の前にあった。
「いや、これなら最後まで行っても大丈夫だ」
薬味を加えて複雑な表情を見せるスープをレンゲで啜り、啜り。
少なくなって掬うのが難しくなれば丼を手にし。
傾け。
口内に注ぎ込み。
「ふぅ」
空になった丼を机に戻し。
最後に、水を一杯飲んで一息。
会計を済ませ、
「ごちそうさん」
店を後にする。
「まだ、時間があるな」
予定の前に、ジュンク堂書店で何か本でも買おう。
駅の山側を目指し、再び国道2号線を渡る。
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