第132話 大阪市城東区今福西の博多豚骨ラーメン(もやしマシマシネギマシマシニンニクマシマシ)
ゴールデンウィーク真っ最中。
昼食どきにはまだはやい時間なのだが、腹の虫は時期など知ったことではない。盛大に空腹を訴えてくる。
やるべきことばかり沢山ありすぎて机の前でじっとしていないといけない気もするが、せっかくの休みだ。
「そうだ、ラーメン喰おう」
閃きを信じて、日頃気になっていていけなかった店に行ってみるのもいいだろう。
かくして私は大阪メトロに揺られ、今里筋線蒲生四丁目駅へと赴いていた。
今里筋線は今里筋をもう少し南下すればJR阪和線東部市場前駅に連絡できるのだが諸々の事情でそこまでは至らず、今里駅が南端となってしまっている。そのため、生活圏的に使い所が微妙な路線で中々利用しないのだが、だからこそ、日頃足が向きづらいその沿線の店に休日を利用して赴くのは有意義であろう。
腹の虫の欲望への答えを論理的にまとめ、地上へと。
「ん? すぐそこか」
ネットの地図を頼りにすると、出口から50mとあった。
少し歩けば、すぐに目的の店に。
腹の虫に急かされたせいで、開店直後。まだほとんど客が入っておらずすぐに入れそうだ。
入ってすぐの食券機の前に立てば、
「おお、メニューが多い」
同じ系列の別の店にいったことはあるのだが、そこは店の規模が小さいためかメニューは豊富だが、麺の種類が限定されていた。
ここは、メインの太麺以外を用いた麺も扱っているようだ。
「う~ん、腹の虫的にはガッツリいきたいところだが、せっかくなら喰ったことないメニューがいいな」
豚骨醤油味噌カレー、ラーメンにまぜそば。
それらは、別店舗でも喰える。
「肉そばか、博多豚骨か……」
どちらも旨そうではあるが、
「ここは、博多豚骨にしよう」
かくして食券を確保し、入って左手に厨房。その前にストレートのカウンター。更に右手にはテーブル席、と別の店舗の四倍はありそうなゆったりとした店内へと。
とはいえ、一人なので手近なカウンターへと。
早速店員が食券回収に来たところで、博多豚骨らしくまずは麺の固さを尋ねられる。
「カタでお願いします」
続いて、丁寧に一枚モノの説明ポップを手にトッピングのあれこれを尋ねられる。
「もやしマシマシ、ネギマシマシ、ニンニクマシマシで」
普段とは少し異なる詠唱を済ませれば、注文は完了だった。
細麺ゆえに麺が伸びるのを回避するため麺増量は替え玉になるのだが、
「替え玉一玉無料券です」
一玉は無料というのがありがたい。
かくしてあとは待つばかり。
となれば、現在『怒 DawhParty!~伝説の魔人と魔弾の雨~』イベント開催中の『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
新ショットが『シヌガ★ヨイ』というネーミングで自機を中心とした半透明楔弾を螺旋状にまき散らす通称『フグ刺し』というのが中々楽しいのである。
だが、博多豚骨では麺の茹で時間が恐らく短い。『シヌガ★ヨイ』限定のスコアタに挑戦したいところだが控え、最低限のおでかけと試合をこなすと、注文の品がやってきた。
「余り見たことのない博多豚骨の絵面だな」
通常のマシマシの半分ぐらいの高さの、ドーム状に詰まれたもやしと刻みネギ。
山に寄り添う厚切りの二枚のチャーシューと煮卵半分。
そして、もやしの麓に鎮座する大量の刻みニンニク。
「いただきます」
箸とレンゲを手に丼に向かう。
この量なら、いきなり麺もいけそうだ。
もやしの裾野から箸をツッコンで麺を引っ張り上げる。
「おお、細麺」
とはいえ、見た目は博多豚骨定番のストレートではあるが、黄色味が強く質感が他のメニューと同じ麺のように見える。
さっそく口へ運べば。
「しっかり博多豚骨だ」
ガッツリした見た目に反してどちらかといえば獣臭さもなく食べやすいタイプの味わい。麺が細くとも密度が濃いのか食べ応えがしっかりあるのもいい。
「とにかく、伸びないうちに、麺をしっかり喰わないと」
腹の虫に急かされるまま、麺を口へ運ぶ。また、天地を返すのは一気にスープが薄まりそうなので避け、
「これがあればいけるな」
席に備え付けの出汁入りの塩を振り掛けてシャキシャキしたもやしを味わう。
麺をメインに、もやし、そして、段々と混ざって絡んでくるネギを楽しみつつ、大ぶりなチャーシューに齧り付けば。
「ガッツリ豚って感じだなぁ」
味付けはされているのではなく豚自体の味が前面に出て口内に広がってくる。
黄身がスープに溶けてきた煮卵も、こってり感があっていい。
普段はサクッと食べることが多い博多豚骨ラーメンを、ボリューミーなもやしと共に頂くのは、中々楽しい食の体験である。
そして、楽しい時はすぐに過ぎ去り麺が尽きてしまったのだが。
「替え玉、お願いします」
仕組まれたシステムに抗うことはせず、無料券で発注する。
今度もカタで頼んだお陰でほどなく更に乗せられた麺がやってくるのだが。
「結構ボリューム合ったんだな」
細ストレートながら、十分なボリューム感。
「よし、早速投入」
麺としっかりからめて頂けば、
「ん? やはり、少し薄まってきたか」
食べている間にもやしが大分スープに浸ってきたのもあるだろう。
「ならば、これだ」
こちらも備え付けられたかえしを回し掛けし、
「おお、豚骨醤油」
醤油の風味が強まってすっかり豚骨醤油味に。
替え玉はこちらの味で楽しもう。
とはいえ、山盛りの具材も無くなってきている状況での細麺である。
麺を食む幸せに浸りつつ、モリモリ食べればモリモリ減っていく。
炭水化物がもたらす多幸感に身を委ねて、
「食べ終えてしまった、か」
スープの中はすっかり寂しいことになっていた。
替え玉したことで、スープも大分減っている。
「これなら、いいか」
最後の一滴まで、楽しんでも。
徐に丼を持ち上げ。
口元に運び。
傾け。
ぐびりぐびり、と。
飲み干し。
「ふぅ」
空になった丼を、卓上へ。
心身が満たされた喜びをしばし甘受し。
最後に水を一杯飲み干して現世に立ち返り。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、少し食い過ぎたし少しぶらついてから帰るか」
蒲生四丁目駅近辺へ、気の向くまま足を向ける。
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