第131話 大阪市北区梅田のまぜそば(ヤサイ増し増しカラメ増し増しニンニク増し増しカツオバカ増し)

「よし、映画行こう」


 仕事を早く切り上げることに成功した私は、ずっと気になっていた映画を上映している劇場のある梅田の地へと、降り立った。


 即座にチケットの確保は完了。


 とはいえ、勢い余って会社を最速で後にしただけに、上映まではまだ一時間ほど余裕があった。


 デスクワークの頭脳労働も、栄養は使う。


 つまり。


「腹が、減ったな……」


 劇場は梅田の南東部、東梅田近辺だ。


 梅田の南側といえば、


「ここは、駅前ビルへいくが吉だな」


 御堂筋線の最南端の改札を出て右折。阪神百貨店を左手に見ながら地下通路を進み、阪神百貨店を回り込むように最初の角を左折。


 阪神百貨店を左手に、右手に阪神電車の改札を望みながら真っ直ぐ進めば、開けた円形広場に出る。


 そこでは、五つに道が分岐している。来た道を入れて六叉路。更には地上や別の建物へ連絡する通路や階段もあったりして、便利な反面土地勘がないとどこがどこか解りにくい場所ではある。


 向かって一番左の道は、劇場の入った建物の地下に連絡。そのまま進めば東梅田駅方面だ。


 次の道は駅前第四ビルから駅前第三ビルと第二ビルに挟まれて北新地駅へ。


 次は駅前第二ビルと第一ビルに挟まれて北新地癖へ。


 次はマルビル方面。


 次は第一生命ビルに通じて西梅田方面へ。


「まぁ、ここまできたら、やっぱりあの店、だな」


 左から二番目の道を進み、第四ビルを左手に見て通り過ぎ、左が第三ビル、右が第二ビルとなったところで左へ。


 第三ビルの地下二階へと足を踏み入れてすぐに右折。


 そのまま直進すれば、中程に笑う門には福来たりそうなその店はあった。


「うん、すぐ入れそうだな」


 食事時には少し早いのもあって、席は空いていた。


 入ってすぐ、小さな食券機を前に、何を喰ったものか考える。


「ここは、まだ喰ったことのないものに挑戦するか」

 

 ここではラーメンばかりだった。他には、つけ麺とまぜそばがある。


 どちらかというと、今は、


「まぜそばにしよう」


 そんな気分だった。


 入ってすぐの席に着き、水を出してくれたところに合わせて食券を出す。


「ニンニク入れますか?」


 お決まりの問いに。


「ニンニクは増し増しで。あと、ヤサイ増し増し、カラメ増し増し、カツオはバカ増しで」


 とお決まりの答えを返す。勢いで答えたが、どうやらまぜそばも同じシステムのようで、そのまま通って一安心。


 と。


「紅生姜とマヨネーズ入れて大丈夫ですか?」


 追加の問いが来たので、


「入れて下さい」


 これも即座に答える。


 どちらも好物だ。というか、そんなものが入るのか? っと期待が膨らむというものだ。


 注文を通せば、後は待つばかり。


 『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、学園篇のイベント開催中で粛々と進めているが、一方で、三周年記念でコラボガチャの期間限定復活を順に行っていた。


 現在『魔法少女育成計画』とのコラボガチャが復活しており、取り損ねたリリーの衣装持ちのルーラを入手して、ようやくリリーの衣装をフルコンプしてご機嫌である。


 おでかけを仕込みながら埋まったクローゼットを眺めたりしていたら時間を使ってしまったのか、厨房ではそろそろ出来上がりそうな気配。


 出撃は控えて待つこと少し。


 注文の品がやってきた。


「お好み焼き?」


 まず、メインの丼には、バカマシにしたカツオにまみれ、刻みニンニク、チャーシュー、紅ショウガ、刻み玉ねぎ、メンマ、刻みネギがぐるりと並んでいる。


 だが、カラメの返しで黒々としたカツオが丸く乗っていてなんだかお好み焼きのような色合いなのだ。


 更に、マシマシにした野菜は、別丼で来ているのだが、これを混ぜて鉄板に広げるのかどうなのか?


 まぜそばのはずが、奇妙な既視感を感じていたが、腹の虫はそれでは喜ばない。


「いただきます」


 箸とレンゲを手に、まずはメインの丼の中身をぐちゃぐちゃにまぜる。


「ああ、こっちにももやしが入ってるのか」


 カツオの下から丼中央に盛られていたもやしが現れる。更にその下に潜んでいた黄色く太い麺と合わせて一気に混ぜ合わせる。


 ある程度混ざったところで、麺を一口すすれば。


「ああ、なんだか大阪の味だ」


 ソースは入っていないはずだが、ベースの豚の出汁にマヨネーズと紅ショウガとカツオが混ざってくると、どうにも粉もん的な味を想起させられずにはいられない。


 想像とは少し違うが、むしろ、いい。


 ニンニクのパンチが後からじわじわ効いてくるのも心地よい。


 別丼のもやしを適宜混ぜ合わせつつ、少しずつ喰うのだが。


「思ったより、ボリュームがないな」


 マシマシの野菜も、ラーメンではマシ程度の量。


 麺も基本は200gと思われるので、そこまで多くはない。


 だが、だからこそ。


「のんびり味わおう」


 映画までまだ時間はあるのだ。


 紅生姜にまみれたもやしの味。マヨネーズと組み合わさっていつもと違う顔を見せるチャーシュー。ニンニクと抜群の相性の刻み玉ねぎを纏った麺。


 なんというか、総じてジャンク・オブ・ジャンクス、という感じでハレルヤな味わい。


 いつもと違う顔を見せる食材の表情を楽しみながら、箸とレンゲを動かせば。


「もう、終わり、か」


 流石に、あっけない。


 丼には、マヨネーズで白っぽく染まったタレが残るのみ。


「これぐらい、大丈夫だろう」


 丼を持ち上げ。


 一気に啜れば。


 Junk of junks and load of load.


 ヘンデルのハレルヤのテナーの高いとこが頭の中に鳴り響き、最後の最後までジャンクな味わいを楽しめたことを祝福する。


 最後に、水を一杯飲んで一息。


 食器を付け台に戻し。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、劇場へ向かうか」


 まだ時間があるからと、せんべろ系居酒屋の誘惑と戦いながら、駅前ビル内を通って劇場を目指す。

 

 

 


 



 

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