第130話 東京都千代田区神田松永町のらーめん(野菜マシマシニンニクマシマシ)

 ケイブ。


 言わずと知れた、世界一弾幕シューティングを作って販売した会社としてギネス登録されたメーカーである。


 アーケードゲームから退いたものの、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』で、しっかり弾幕シューティングの灯は維持されているのだ。

 

 今日は、そのメーカー主催の恒例の『ケイブ祭り~アキバ戦線2018 ケイブ隊がにゅー隊式 あんなところもむちムチMAX』が開催されるというではないか。


 ならば、いかねばなるまい。


 始発の新幹線に飛び乗り、平日の始業時間より早い時間に秋葉原に赴くのも、苦ではない。


 そのお蔭で比較的早い時間の物販整理券を確保し、缶バッジのリアルガチャ水属性3連の結果、リリーも確保できた。


 物販は少々手間取ったが、ステージイベントを楽しんでいればなんということはない。リアルスコアタで熱いバトルが繰り広げられる中、欲しかったグッズも全て購入することができた。一つ、直後に売り切れたものがあった、つまり、ラス一のグッズがあったので、やはり始発できて正解だった。


 そうして、一息ついたところで、


「腹が、減ったな……」


 時刻も丁度昼時。


 スコアタはまだ盛り上がっているが、腹の虫をどうにかしないことには結局集中できないだろう。


 会場は入場無料で出入りも自由。


 ならば、腹ごしらえを優先だ。


 せっかくだから、神保町の某店に行きたいところだったのだが、流石にそれはイベント会場を離れる時間が長引いて辛い。


 近場で喰うのがベストだ。


「よし、久々にあの店に行ってみるか」


 会場であるUDXを出て東へ。JRの線路を越え、日高屋などがならぶ界隈の先で左折。


 すると、全く忍ばないよく目立つ黄色いテントのその店はあった。


 結構席は埋まっているが、幸い僅かに空いており一人ならすぐ入れそうだった。


 入り口前の食券機に向き合い、


「今日はオーソドックスに行くか」


 何気にメニュー豊富なのだが、ここは基本の『らーめん』の食券を購入し、厨房をカウンター席がL字に囲むだけのこじんまりした店内へ。


 空いていた席についてセルフの水を確保し、一息つく。


 今日は暑い。思ったよりも水分が奪われていたのか、生き返るここちだった。


 そこで店員が食券の回収に来たので、


「野菜マシマシニンニクマシマシ」


 とこれも基本内容でコールする。


 後は待つばかりとなったので『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 だが、疲れから集中力が持たなそうなので出撃は控え、のんびりとおでかけを仕込み、試合に臨んでいるうちに、注文の品がやってきた。


「ああ、ジャンクだ」


 大きめの丼にもやし率高めの野菜の山。麓に大ぶりの豚と、山盛りの刻みニンニクが無造作に並んでいる。


 いいぞ。疲れが吹き飛びそうなビジュアルだ。


「いただきます」


 席に備え付けのレンゲと箸を手に、いざ、丼へと。


「うん、もやしだ」


 シャキシャキの茹で具合のもやしは、食感と共に強烈なもやしの癖も残していた。少々鼻につくが、これもまたもやしの楽しみであろう。


「それに、ニンニクがあるからなぁ」


 もやしを少しずつ消費しながら、ニンニクと豚をスープに沈め、麺を引っ張り出していく。


 こうすれば、全てが混然一体となり、もやしの癖など誤差の範囲である。


 そこでようやくスープの褐色を纏った黄色くて太くて硬い麺を食せば。


「ガツンとくるなぁ。そうそうこういう味だ」


 醤油が立ちつつニンニクがプラスされたパンチのある味は、なんだか久しぶりな気がする。関西は醤油を立てるより出汁を前に出してくる傾向にあるのが関係するのか? などと考えたが、関西でもこういう系統の店はあるが単純に異なる系統の味の店ばかり行っているだけの気もする。


 まぁいい。


 余計なことを考えるな。


 今は目の前の健康食品をがっつり喰って回復して、ケイブ祭りを存分に楽しむことだけを考えろ。


 そこで、大ぶりの豚を齧る。


「とろっとろだ……これは旨い」


 見た目はごついのに、箸でほろほろと崩れる柔らかさ。しっかり煮込まれて豚の脂の旨みが身の方にも回って凝縮されているのだ。


 スープに浸った野菜と麺を食べる手が進む。


 だが。


「ちょっと、薄くなってきたか?」


 塩分の高いスープへ野菜を沈めた場合に避けられぬ物理法則。浸透圧による水分の抽出がおこり、どうしてもスープが薄まってしまう。


「大丈夫だ、問題ない」


 そんなこともあろうかと……というわけでもないかもしれないが、席にはかえしが用意されていて、任意にカラメにできるのだ。


 味を大復活させて更に箸を進め、


「更に刺激プラスだ」


 一味と黒コショウも加えて加速させれば、


「もう、終わり、か」


 丼の中身は大往生。スープの中には細かな残滓が残るのみとなっていた。


 名残を惜しむようにスープを啜れば、一味と黒胡椒とそこに沈んでいた刻みニンニクが合わさって蒸せそうな刺激。これもまた、食の楽しみだ。


 水を飲んで一息ついて、もう少しスープを啜り。


 最後に、改めて水を一杯のみ。


 食器を付け台に上げて、


「ごちそうさん」


 店を後にする。


 近場で済ませたおかげで、三十分ほど会場を離れただけで済みそうだ。


 足早に、UDXを目指す。



――まさか、その後ステージ上で四つん這いになって鞭打たれることになるなど、夢にも思わずに。

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