第121話 大阪市北区堂山町のラーメン
日曜の午後。
所用で訪れた梅田の街で、遅めの昼食を取ることになった。
普段は流行に疎い身ながら、ついつい流行に乗ってインフルエンザで寝込んでみたりしたお蔭で減少した体力を戻すべく、こってりしたものを摂取する機会が多かった。
ここは、あっさりしたものを食すのが吉だ。
「梅田であっさりしたものと言えば……」
半世紀を超える老舗の名店がある。
ここで一つ、注意が必要だ。
最近は万人向けにするためか、あっさりしたものの中にあってアクセントになっていた癖のある付け合わせまでもあっさりしたものとなってしまい、それはそれで旨いながらも物足りなさを感じていた。
だがしかし、のれん分けで独自路線を行く店舗は、未だ元の付け合わせが残っているという情報を得ていた。
「なら、そちらに行くべきだろう」
かくして、東梅田方面の都島通を東へ進んでドンキ・ホーテの前を通り過ぎ、高速を越えたところでわき道に入り、商店街との合流点の手前にあるこじんまりした店舗。そこが目的地だった。
「うん、空いてるな」
〆に向いたラーメンで夜は込んでいるイメージだが、半端に昼時を過ぎたこの時間は比較的空いていた。
厨房前にカウンター席がまっすぐ伸びて、片側の端が円形のテーブル席に合流する特徴的な店内へと足を踏み入れ、空いているカウンター席へと付く。
メニューは色々あるが、これからまだ飲み食いする用事がある。
余計なものは頼まず。
「ラーメンを」
と注文を通す。
後は待つばかりで、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい~』をプレイしたいところだが、ここはそこそこ早く麺が出てきてしまう。
リリーのおでかけもまだ帰ってこない時間ゆえ、おとなしく待てば、すぐに注文の品はやってきた。
「おお、これだよ、これ」
やたらと直系の大きな丼に盛られたラーメンのスープは、僅かに出汁の色合いで黄色っぽさを帯びつつも透き通っていて、中に眠る細麺がよく見える。
塩ラーメンだ。
具材は、チャーシュー、もやし、ネギ。そして、菊菜だ。
「やっぱり、これだよなぁ」
本店では水菜に変わってしまったそれを愛おしく愛でつつ、
「いただきます」
早速食に入る。
すぐに手が届く麺を啜れば、あっさりながら、しっかりと出汁の風味を感じさせるスープを纏って口を楽しませてくれる。
チャーシューも、ややパサついた感じのものであるが、スープを潜らせれば上品に豚の味わいを感じることができてよい。
総じてするする入るが、きちんと味わいも残る、まさにいい塩梅である。
もやしのシャキシャキした食感や、ネギの風味を交えて更に楽しみつつ、満を持して菊菜を食せば。
「いいアクセントだ」
さらさらと食べれそうなところに、フックになる苦み。だが、このスープと合わさると絶妙な加減のアクセントになる。
ラーメンの付け合わせに菊菜というのは、一見なさそうに見えて、この店のラーメンには抜群の相性を示している。
問題は、菊菜自体苦手な人が結構いることだろうが、まぁ、私は得意なのでそこは考慮しないでおく。
「本当に、あっさりだが……」
勢いで三分の二ほど一気にいってしまったが、このまま終わるのはなんだかもったいない。
「おや、こんなところに何やら金属製の壺があるな」
覗いてみれば。
「なるほど。これは入れるしかないな」
早速スープん一掬いの中身を振りかけて混ぜ、食せば。
「うん、少し脂感が出て、楽しみが増えた感じだなぁ」
投入したのは、フライドオニオン。
玉葱の香ばしい風味と、フライの適度な脂感が、あっさりの中に紛れ込んでくるのは、とてもいい。
入れすぎると元の味わいが失われるが、スプーン一杯ぐらいだと、これもアクセントとして生きてくる。
あっさりしたものを、さらりと流さず存分に楽しんで。
「空、か」
気が付けばスープも飲み干していた。
まぁ、このあっさりスープなら問題ないだろう。
最後に水を一杯飲んで少々塩分過多になった口内をリセットし。
勘定を済ませ。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、まだまだこれから、だな」
その後の予定に向け、梅田の街を歩く。
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