第119話 大阪市中央区難波5の塩ラーメン
仕事帰り。
気になっていた映画がそろそろ終わりというのをみて、激情にかられて劇場へと足を運ぶケツイを固めていた。丁度、今日は映画が安い日だしな。
だが、その前に。
「腹が、減ったな……」
幸い、目的地付近に飲食店は事欠かない。
駅から続く地下街にも沢山の食い物屋が軒を並べている。
その中で。
「そういや、ここ、気になってたんだよな」
劇場へ向かう経路の途中、奥まった場所にある店の前で足を止めていた。
豚料理屋なのだが、なぜか。
「ラーメンも、あるんだよなぁ」
というか、まぜそばと塩ラーメンというちょっと変わった組み合わせだ。
最近はこってりしたものばかり食べていた。
なら、たまにはこういのもいいのではないか?
かくして、私は店へと足を踏み入れる。
こじんまりした店内には入ってすぐのテーブル席と、厨房をL字に囲むカウンター席。
適当なカウンター席につき、
「塩ラーメンを」
と注文する。
後は、待つばかり。
『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい~』を起動するが、時間が読めないので出撃は控える。リリーとのおでかけと試合をこなしたところで、すぐに注文の品がやってきた。
「おお、綺麗だな」
直径が小さめで深いタイプの丼の中は、白を基調とした色合い。
細切りの白髪ネギが全体に散らされ、その中に唐辛子と思しき赤い糸が混じる。
手前には緑の刻みネギ、メンマ、そぼろ、そして、奥には二枚の丸くスライスされた大きなチャーシューが丼の壁面に沿うように鎮座している。
「いただきます」
ここは、いきなり麺を行こう。
出汁の濁りのみの白いスープの中から箸で摘まみ出されたのは、細縮れ麺。そういえば、久しぶりだな、こういう麺。
懐かしささえ感じつつ口へと運べば。
「おお、塩ラーメンだ……」
飾り気のない、海藻メインという出汁の風味を塩で立てた、オーソドックスな味わい。無化調を強調しているが、なるほど、素朴な味だな。
絡んでくる刻みネギもいい感じだ。
そぼろは……これは、鶏か? あっさり目な味わいが邪魔にならなくていい。
細切りの白髪ネギと唐辛子も、食感のアクセントがメインでそれほど強くこない。
愚直にスープの味わいを前に出そうという一品なのかもしれない。
「さて、ここでチャーシューだが」
薄切りながら大ぶりなチャーシューを一枚一気に頬張れば。
「うん、豚メインの店だけあってか、旨いな、これ」
タレは掛かっていない、こちらも塩で豚の味を立てたタイプのチャーシューだが、スープを邪魔せずに、それでいて存在感があって、よい塩梅。
するすると麺も進む。
そうして、素朴な味に浸っていると。
「あれ、もう、終わり、か……」
最近、こってりの上に量が多いものばかりだったので、少々拍子抜けするが、まぁ、いい。
残ったスープを丼を持ち上げて啜り。
「ふぅ」
完飲して空になった丼の前には、腹八分目というところで騒ぎは止めたが釈然としない腹の虫を抱えた男一人。
「まぁ、いいだろう」
最後に水を一杯飲んで足しにし。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を後にする。
「いい頃合いだし、劇場へ向かうか」
店から近い階段から地上へと上がり。
商店街を東へ進み。
北へ折れ。
戦乙女達の激情を鑑賞するため、劇場へと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます