第114話 大阪市中央区難波千日前のカレーチーズ
休日の昼前。
「これが
買い物がてら難波へと出かけ、冷戦下ソビエトで遺伝子操作により生み出された超人戦士達が世界を救う物語を鑑賞していた。
古典的なヒーローものといった趣でクマがガトリングガンを打ちまくる絵面が中々印象的な作品であった。
そうして、劇場を後にすると、昼を回った頃。
当然の帰結として、
「腹が、減ったな……」
腹の虫が騒ぎ立て始めていた。
これは食事を済ませて帰る以外の選択肢がないが、今日はまだ買い物があった。
なんばパークスからオタロードへ向かう途中の業務スーパーで二、三買い物を済ませ、オタロードのメロンブックスで目的の本を確保。
買い物は、これで終わりである。
残されたのは、焦らされて焦らされて、抗議の声を上げる腹の虫たち。
これはもう、ガッツリいく他あるまい。
オタロードを北上し、幾つかめぼしい店を見て回るが、
「どこも並んでるなぁ……」
昼過ぎとはいえ、人でにぎわうオタロード界隈の飲食店は未だ列が途切れていなかった。
列を避けてめぼしい店を確認しながら北上したのだが、気づけばオタロードを抜けてしまっていた。
「ここは、久々の店へ行ってみるか」
オタロードと道具屋筋の間の道へと向かう。
「ありゃ、ここも並んでるか」
店の前には4人ほどが待っていた。
だが。
「お、続々と客が出てくる……これは、いけるかも」
一か八かのつもりで列へ入れば、更に客が出てくる。
どうやら、ちょうど入れ替わりのタイミングに当たったらしい。
おかげで、
「どうぞ」
列に入って三分と待たずに、店内へと案内される。
腹の虫をなだめながら寒空の下で待たされる事態を回避できてほっとしつつ、券売機の前に立つ。
流れ流されてきたのだ。
「せっかくだから、いつもと違うものを頼むぜ!」
醤油、塩、ポン酢、味噌、担々麺をスルーし、カレーチーズの食券を購入する。
店員の案内に従ってカウンター席について、ニンニク有無の問いには有で答えて食券を出す。これで後は待つばかり。
『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動して、おでかけと試合を済ませ、レンタル使い魔のみという実力を問われるスコア大会に挑む。今一スコアが伸びないが、まぁ、いい。今回のイベントはラガン、もとい、ラナンメインのストーリーだ。報酬にリリーはいなければ、他のめがねっ娘もいないからな。
そうして、スコアでSランクも取れない体たらくの出撃を二度ほど終えたところで注文の品がやってきた。
「これは、中々にジャンキーだな」
大きな丼に積みあがった野菜……を包み込む溶けるチーズ。その半分ほどの面積を茶色く染めるカレールー。
豪快に『カレーチーズ』を主張する見た目である。
「いただきます」
箸とレンゲを手に丼へ向かい、まずはカレーの味見。
カレーが掛かった一角をつまんで口へ運ぶ。
「ああ、こういう系統か」
一言でいうと『レトルトのカレー』だ。インスタントな味わい。
だが、それがいい。
そこに、量産型のありふれた溶けるチーズの濃厚な風味が加わることで、ジャンク感マシマシだ。
とはいえ、乗っているのは『溶ける』チーズだ。
「溶かさないと、意味がないな」
早速、麺を引っ張り上げて野菜の山ごとチーズをスープへ沈めていく。
途中で麺を食べれば。
「しょっぱい!」
豚出汁のスープ自体の塩気とカレーの味が組み合わさって、とことん濃い。
明らかに体に悪そうだ。
だが、旨い。
気取らず、細かいことは気にしない。
栄養バランスとか、難しいことを考えてはいけない。
旨いと感じられたら勝ち。
ジャンクの王道の味わいと言えよう。
そのまま混ぜ合わせていくと、野菜の山の深淵に潜んでいたニンニクが加わり、どこまでもどこまでもジャンクな味わいを加速させていく。
大ぶりの豚も、カレーとチーズの風味を纏っていつもと違うジャンクな側面を露わにしている。
しかも。
「チーズで塩気がまろやかになって喰いやすくなってきた……だと!」
口が慣れたのかと思ったが、そうではない。
チーズがスープに溶けることで加わった乳性の風味がほどよく塩気を緩和している。
勿論、塩分が減った訳ではない。
むしろ、塩分摂取が加速されると行っても間違いではない。
それでも、歓喜の声を上げる腹の虫に逆らうことはできない。
麺を豪快に持ち上げては口に運んで頬張って食べる。
いけないものを食べているという背徳感が、食の快楽を増幅していく。
背徳感に負け、我慢してストレスを溜めるより。
快楽に溺れてストレスを発散する方が体にいいに違いない。
「刺激がもっと欲しい」
そう思ったなら、表面が真っ赤になるぐらい一味を振りかけてもいい。
「ピリッとした刺激も欲しい」
そう思ったなら、表面が黒く染まるぐらい、黒胡椒を振りかけてもいい。
思うまま、自由な発想で、丼と向き合う。
問答無用で脳に叩き込まれる多幸感。
クラクラするような享楽の刻を過ごす。
「ああ、もう、終わり、か」
気がつくと、チーズと脂でとろみが加わったねっとりしたスープが残るだけになっていた。
いつまでも食欲に溺れている訳にはいかない。
人はいつか、満腹になる。
レンゲで名残を少し頂いて。
未練を断ち切るべく、水を一杯飲み干し。
「ごちそうさん」
重い腹を抱えて店を後にする。
「食い過ぎたな……」
腹ごなしに、もう少し、オタロードを歩いて帰るとするか。
足を再び南へと向ける。
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