第113話 大阪市中央区千日前の紅(キムチ+ほくほく揚げにんにく無料)

 早くも一月が終わり、二月が始まった。

 毎月一日は、割引きで映画が観れる素敵な日である。


 ゆえに、仕事を定時で片づけて難波へ繰り出したのである。


 上映時間を調べたところ、コミック原作の状況的にあり得ず罪に問えない犯罪を扱った映画が観れそうだな。上映時間までは、余裕がある。


 ならば、だ。


「腹ごしらえ、だな」


 昨日読んだ漫画のせいで、腹の虫がラーメンを食わせろと煩い。


 幸い、ここは大阪ミナミ。ラーメン屋には事欠かない。


 醤油、豚骨、味噌、塩、鶏白湯、トマト、煮干し、家系、二郎系、天一なんでもござれ、だ。


 こういうときは、何か条件を付けるに限る。


「最近、身近なところでインフル出てるしな。ニンニクを摂取できるのが望ましいな」

 

 うん、絞れないぞ、これは。


 マシマシできたり、薬味として置いてあったり、ラーメンとニンニクは近しい関係だ。


 ならば、ニンニクの喰い方だ。


 きざみ、おろし、クラッシュなどがあるが、そうだ!


 揚げがあった、な。


 かくして私は千日前通り沿い、某心霊スポット前にある店へとやってきた。


「さぁ、喰おう」


 趣のある木の引き戸を開けて店内に入り、食券機に向かう。


「今日は寒いし、あったかいのにしよう」


 忘れられがちな阿知賀の眼鏡枠で実写映画ではPCに向かうために眼鏡を掛ける描写が素晴らしかったドラゴンロードの姉を思いながら、紅を選ぶ。


 店員に入ってすぐのLカウンターの最奥に示され、阿知賀の深い山の主を思い出したりする。


 食券を出せば、麺の方さを尋ねられるので「かため」とオーダーする。


 席を見れば、一回無料の替え玉券と、小さな壺に入ったキムチが用意されている。小皿にキムチを持って、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイしようかと思うが、硬めだと茹で時間も短い。出撃する時間はないだろうな。


 ではどうしたものか? と考えてる間もなく、注文の品がやってきた。


「看板に偽りなしだな」


 紅い。深い赤味が目に入る。


 具材は、チャーシュー、ネギ、海苔、メンマとオーソドックスなのだが、とにかく赤い。


 早速食べるのだが、店員が去る前に大事なことがある。


「ほくほく揚げニンニク一人前、お願いします」


 ある意味、今日の目的。インフルエンザへのカスペルスキーを頼む。ラーメンを頼めば無料での提供なのがありがたい。


 これで、仕込みは万端。


「いただきます」


 早速、箸とレンゲを手に麺に向き合う。


 まずは、スープだ。


「おお、これはいい旨辛だ」


 この店のベースは豚骨醤油だが、そこに加わる韓国鍋的なコクのある唐辛子風味はとてもいい。

 

 博多豚骨的な細ストレート麺に、しっかり絡んでくるのもいい。


 阿知賀の眼鏡枠に従って正解だった。心があったかい。


 すると、注文したほくほく揚げニンニクがやってくる。


「一人前、3、4個って書いてるんだがなぁ」


 小皿には、8片の衣をまとったニンニクが乗っていた。


「揚げたて、いかなきゃな」


 と早速一つ口に放り込めば。


「うん、これ無料はあかんやろ」


 揚げることでえぐみが消え、ニンニクの旨味が衣の香ばしさでブーストされて口内に広がっていく。これ、一人前三百円ぐらいなら払うぞ、というか居酒屋で頼んだらそれぐらいなものだ。


 ニンニクでのウィルス対策を挟んだところで、同じく無料でいただけるキムチへ。


 辛みより旨みが強い、食べやすい味だ。


 これらの味が口内に残った状態で、麺を啜れば。


「当然、旨み増幅されるよなぁ」


 ニンニクとキムチが旨辛に合わないわけがない。先ほどまでよりワンランク上の多幸感が脳に叩き込まれ、腹の虫が歓喜に騒ぐ。


 と。


「む、麺がもうない、か」


 細麺をつるつるいっては、すぐになくなるのも道理。


 だが、大丈夫。


「替え玉、かためでお願いします」


 一回は替え玉できるのだ。二回目以降も五拾圓と非常に安価である。


 まぁ、そこまではしないでおこう。


 すぐに追加された麺にボリュームを復活させた丼に再び向き合う。


 今度は、紅に染まったチャーシューもかぶりつけば、豚の味わいがしっかり感じられて更なる幸せに包まれ、その勢いで麺を啜る。


 更に、いつのまにか沈んでいた海苔が溶けてまとわりついてくるのもいいアクセントだ。


 ぶっとい麺をごきゅごきゅもっちもっちと噛み締めるのもいいが、細麺をこうして具材が絡まるに任せてするするといくのもまたおかし。


 腹も心も満たされていく。


「あれ? 替え玉も終わり、か」


 丼には、深い紅の池。


「これはもう、行くしかあるまい」


 スープが残っていたら、替え玉しかねないからな。これは、総合的に観て、脂肪フラグ回避になるんだ。


 己に言い聞かせ。


 丼を両手で持ち上げ。


 口元へ運び。


 紅の唐辛子風味のスープを。


 ごくごくと。


 飲み干した。


「ぷはぁ」


 席に備え付けのティッシュで口元をぬぐい。


 水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、劇場を目指すか」


 千日前通りを渡り、ビックカメラの脇を抜けて一路 TOHO シネマズなんばを目指す。



 

 

 

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