第112話 大阪市北区梅田のみそラーメン(ヤサイ増し増しカラメ増し増しニンニク増し増しカツオバカ増し)

 未だに漫画の実写化にアレルギー反応を起こして観ようともせず己の価値観の更新を怠っていながら批判だけは立派にする哀しい人間が多々いる昨今。


 そんな方々にこそ観て考えて欲しいと思える、個人的には今まで観た数多の実写化作品の中でも群を抜いて良質な作品を鑑賞するため、私は梅田まで足を伸ばしていた。


 原作を見事に実写として表現した内容に、目から汗を流すこともしばし。期待以上のクオリティで満足してスクリーンを後にする。一言で感想を述べるなら「すばら!」な作品だった。


 心が満たされたところで劇場を出たのは、昼も大分回った時分。


「腹が、減ったな……」


 当然と言えば当然だろう。


 幸い、劇場の入った商業施設の真っ正面には大阪駅前第四ビルがある。


 第一から第四まで連なる巨大なオフィスビル群だが、低層階は様々な店舗が入っていて地下は飲食街だ。喰う場所に事欠かないだろう。


 道路を渡って第四ビル地下へと足を踏み入れる。


 まず目に付いたのは昼呑み営業の居酒屋だったが、どうにも今はそういう気分ではない。呑むよりガッツリ食いたい。


 ん? ガッツリ?


 なら、あの店があったな。


 地下一階の端、南へ向かう隣のビルへの連絡通路を抜けて第三ビルへ。第三ビル地下一階には、今日日貴重なシューティングゲームが充実したゲーセンがあるが、今はそこへ行っている場合ではない。


 腹の虫を喜ばせるために、食事に向かっているのだ。


 誘惑を振り切って地下二階へ降りる。


 西側、第二ビル側の壁沿いに目的の店はあった。


 店頭の看板にメニュー紹介が載っているのだが。


「お、みそラーメンあるのか」


 どうやら、しばらく来ていない間に始まったらしい。


 ならば、今日の昼餐は決まりだ。


 幸い、すぐに入れたので店頭の食券機でみそらーめんの食券を確保し、席に着く。


 水を出しにきた店員に、


「ヤサイ増し増しニンニク増し増しカツオバカ増しカラメ増し増しで」


 と注文を通す。ヤサイが食い切れるか確認されたが、


「いつも喰ってるので大丈夫です」


 と請け負う。増すなら残すな、残すなら増すなの精神で増しているという自負があるのである。


 腹の虫が期待に活動を活発にし始め、鳴き声が聞こえてきたりしつつ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在のイベントはショット別アクティブポイントランキングで【くく…】リリーが貰えるので頑張っている。この調子なら、最後まで限界突破できる枚数は確保できるところまで来ている。


 出撃するかと思ったが、もうすぐランクアップで不用意に出撃してAPが回復しても勿体ない。


 細々とおでかけと、学園の試合をこなしていると、注文の品がやってくる。


 堆く積み上がったヤサイの山は、カツオとカラメの茶色に染まり、麓に寄り添うように鎮座する二枚のチャーシュー。


 豪快ながら、ガッツリ生きたい食欲を刺激する姿である。


「いただきます」


 箸とレンゲを手に、挑む。


 不用意に触れると崩れそうなみっしり野菜山を慎重に崩し。

 口へと運べばカラメと鰹の風味でそのままで旨い。


 お陰で、モリモリと食べ進められる。ほぼもやしの野菜はしっかり噛んで喰えば胃の中に入る嵩は大幅に減る。


 余裕を持って半分以上の山を食い尽くしたところで、ようやく出来たスープへの導線。レンゲに掬って一口啜れば。


「すばら!」


 濃厚豚骨味噌味。味噌は風味で豚骨味がガツンときて、更にスープに溶けたニンニクが更なるアクセントとなった、強い味。そうそう、こういうのを期待してたんだ。


 とはいえ、未だ麺と対面できていない腹の虫が不満を訴え始めている。


 レンゲで野菜の隅を押さえながら、逆側のスープの中から麺を引っ張り出す。


 まだ少々野菜が妨げになるので、スープにしっかり浸して豚骨味噌味野菜にしてモリモリ食べ。


 今度こそ、麺が姿を現す。


 太く黄色い出で立ちは定番だが、こういうタイプのラーメンにしては柔めなのもまた個性。


 豚骨味噌を纏った麺を豪快に口へ運ぶ。


「糖質をガツガツ喰らう背徳感は最大の調味料だな」


 ゆえに、麺を喰らうと脳に多幸感が湧き上がるのである。


 ここまで来れば、もう、あれこれ考えている場合ではない。


 温存していた脂多めで旨み走ったチャーシューも躊躇わずに頂いて更なる幸福を得。


 野菜と麺の混合物をモリモリ食い進めて行く。


 が。


「しまった! 薄まった、か」


 沈めた野菜から出た水分が、スープに出てしまったのだろう。浸透圧による必然だ。


「ならば」


 備え付けの一味と胡椒をぶっかける。


 刺激によって、元の味を引き出す試み。


「うん、いける、まだまだ、いけるぞ」


 辛味で味の輪郭を浮き彫りにすることで、豚骨味噌の旨みが再び甦る。


 勢いに乗って、バクバクモリモリガツガツと。


 丼へ向かって貪る。


 腹の虫が喜び。


 やがて。


「終わり、か」


 店主の心配など杞憂。


 あっさり全てを食い尽くし、丼にはスープが残るのみ。


 完飲すべからず。


 戒めを心に留めながら二口三口、豚骨味噌ニンニク風味のスープをレンゲで飲んで名残を惜しみ。


 水を一杯飲み。


 食器を付け台に戻し。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、帰るか」


 駅前ビルの地下を抜け、駅へと向かう。





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