第106話 大阪市中央区日本橋のカレーラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)
「ちょっと、勢いで頑張りすぎたな……」
三連休の中日。
上映時間の都合で普段の出勤時間よりも早い時間に家を出て梅田で映画を観たのだ。
人形を一コマ一コマ動かして撮影するという莫大な労力で紡がれるストップモーションアニメの映像美に圧倒され、タイトルの意味に感じ入り、とても有意義な休日の朝を過ごすことに成功した。
だが、そこでふと、今からなんばへ向かえば、別の映画に間に合ってしまうと気づいたのだ。気づいてしまえば止まれない。
シリーズもので一時間足らずだし、なんとかなるだろう。
余裕で上映には間に合い、茶道と華道と共に戦車道が存在する世界線の物語の最終章第一話も鑑賞して、昼時を迎え、今に至る。
短いながらも映画二本鑑賞は集中力を消費する。
脳が疲れる。
そうすれば、必然的に。
「腹が、減ったな」
栄養補給を体が求めていた。
カレーか、ラーメンか。
今の腹の虫が求めるのはそんな二択だった。
CoCoから壱番近いカレー屋は、色々トッピングできて辛みも選べる店だ。
久々に行ってみたい気がしていたが。
「寒い、な」
こう寒いと、あったかいラーメンも捨てがたい。
カレーか、ラーメンか?
再び問いを発した時、一つの気づきがあった。
「あ、そうか。カレーラーメン喰えばいいんだ」
かくして、カレーラーメンを喰える店を脳内検索。
この近くでは、カレー屋が提供するこだわりのカレーラーメン、大盛り系のラーメンにルーがトッピングされるもの、そして、スパイシーないかにもジャンクなカレースープのラーメン、三店がヒットした。
三択。
「いや、今の腹具合なら、あの店でいいだろう」
選択肢を選んだ瞬間、脂肪フラグが爆上げされた効果音が響いたような気がするが、気にしていてはいけないだろう。
劇場から南下し、なんばグランド花月を越えて、左折。
右に左にいくつかの小道を抜け、オタロードに合流する道へ出たところで、目的の店へと着く。
「少し、並んでいるか」
店内の待機列が丁度埋って、一人店外で待つぐらいの順番だった。
「いや、この時間なら開店直後に入った客が続々出てくる頃。そう待たされることもないだろう」
これからスパイシーであったまるカレーラーメンが待っているのだ。寒空の下待たされるのも追加スパイスと、ここで待つとしよう。
おもむろに『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい~』を起動する。そういえば、ギルドバトルの時間だった。
せっかくなので、ギルドバトルに出撃し、敗北に終わったところで、店内の列に動きがあった。
「暖かい……」
冷気から解放され、一息付いて、店内の待機用の席へ座る。
もう一勝負挑んで敗北したところで、大きな動きがある。
続々と客が出ていったのだ。
どうやら、読みは当たっていたようだ。
あっという間に、待機列は短くなっていき。
目的の食券を買ったところで、タイミングよく案内される。
「計算通り」
いや、十分も待たずに席に着けたのは嬉しい誤算だろう。
さっとつけ麺の食券を出し、
「カレーラーメンで」
と告げる。魚介つけ麺、カレーつけ麺、カレーラーメンが同じ食券なので、申告が必要なのである。
「麺の量は?」
「並で」
「ニンニク入れますか?」
「マシマシで。あと、ヤサイマシマシ、カラメ、魚粉」
儀式めいた店員との対話により、オーダーが通される。
後は待つばかり。
ギルドバトルは連戦連敗し、アクティブポイントも残っていないので、学園の評価指標では0点ながら別の能力が突出していることで快進撃するという、少し前のトレンドでアニメ化もされたライトノベルを読んでいると、注文の品がやってきた。
「こじんまりしてるが、やはりいいな」
控えめにみえるのが間違いというのは解っているが、敢えて軽めといいたくなる山盛りの野菜。キャベツ多めなのが嬉しい。そこにカラメにしたことでカレー粉と魚粉が斑にかかっているのも趣があってよい
麓には、白い刻みニンニクの塊と、肉塊。
見ただけで騒ぎ立てる腹の虫を鎮めるため、即座に箸とレンゲを手に取って丼に正対する。
「いただきます」
まずは、スープを。
「カレーだ……」
洒落た味じゃない。だが、それがいい。
この味に、野菜を浸せばいくらでもいけそうだ。
そのまま勢いに任せて野菜を減らし、そこから麺を引っ張ってニンニクを混ぜつつ野菜と肉を沈めていく。
「ここからが、本番だ」
カレー味に染まった太くごわごわした麺を喰えば、カレーとラーメンを同時に楽しんでいる多幸感に包まれる。
野菜をつまめばニンニクまみれで風邪には負けない力をくれそうで、肉は元のタレの味にカレー味プラスでとても贅沢な味わい。
このまま勢いに乗って食べてしまいたいが、
「やっぱり、あるものは使いたいのが人情だな」
席に備え付けのあらびき黒胡椒を振りかけ、更に表面が赤くなるぐらいに一味をぶっかけて食せば。
「ああ、生きてるなぁ」
とても、生を実感できる刺激がプラスされ、幸せは更に加速する。
カレーという料理の懐の深さが、この多幸感を演出しているのは間違いない。
がつがつと無心に。
カレー味の野菜麺肉を。
貪る。
原始的な食の快楽に浸る。
悦楽に酔いしれるときをしばし堪能し。
わずかなスープを残すだけになった丼を前に、水を一杯飲み。
「ごちそうさま」
享楽の余韻を胸に、店を後にする。
「さて、オタロードで買い物して行くか」
進路を南へ。
私は、歩き始める。
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