第105話 大阪市浪速区戎本町のWスープラーメン(こってり、麺かため、ねぎできるだけ多め 大盛り)
三が日でおせちも食べ終わり迎えた正月四日。
長かった冬休みも今日で終わりだ。
「せっかくだし、買い物がてら日本橋で何か喰うか」
かくして日本橋の地へ降り立ち、幾つかの店を覗きながらオタロードを南下し、メロンブックスでジャンプコミックスの新刊を確保したところで。
「腹が減ったな……」
いい感じに腹の虫が騒ぎ始めていた。
「さて、この近隣に幾つも店はあるが……そうだな。この機会に、いつでもいけるから、と思いつつ何年も行けてない店に挑戦するか」
足を南に向け、オタロードから更に南。
高速道路を抜けて最初にぶつかる大きな道路で右折。そのまま西へ進み、南海電車の線路を抜けてすぐに、目的の店はあった。
「おお、流石に並んでるなぁ」
有名店だけに、結構な列だ。とはいえ、せいぜい20人程度の島中の中堅サークルにも及ばぬ程度の列に物怖じするような私ではなかった。
そのまま列へ入り、年始のイレギュラーで木曜発売のジャンプを読んで待つ。
一作一作読み進め、『ニセコイ』の作者の書いたeスポーツをテーマとした読み切りのヒロインがとてもよいめがねっ娘で感動を覚える頃。
ようやく、店内へと案内される。
木造の昔ながらのラーメン屋といった風情の内装だった。
「ありゃ? まだ待つのか」
店内には店内で椅子に座って10人程度の待機列が形成されていた。
その前に食券を買うシステムのようなので、食券機に向き合う。
「とんこつとしょうゆがあるのか……」
これは迷うな……と思っていると。
「Wスープ! そういうのもあるのか!」
両方をブレンドしたスープが存在するようだ。
初回なのでそれぞれを味わうという考え方もあるが、初回だからこそ欲張って両方を味わうという考え方だって成立する。
ここは、Wスープだ。
「あとは……うん、今の腹具合なら、大盛り、だな」
麺大盛りの食券を合わせて購入し、店内待機列へと入る。
すると、店員が店内列へと食券の確認にやってくる。どうやら、並んでいる間に作り始めるシステムのようだ。
その際、幾つかカスタマイズできるようだ。
初めてで迷いそうだったが、幸い前の人から順次聞いていくので、要領は掴めた。
「麺はかため、スープはこってり、ネギはできるだけ多めで」
これでばっちりだと思ったのだが。
「スープの割合はどうされますか?」
と追加の確認が入る。
そうか。Wスープの場合は、とんこつとしょうゆの割合も選べるのか。
まぁ、ここは余り奇を衒っても仕方ない。
「基本の割合でお願いします」
無難なところでいいだろう。
因みに、基本はとんこつ6:しょうゆ4ということだ。
そこからジャンプの続きを読んでいるとすぐにカウンター席へと案内された。
徐々に麺に近づいて行き、腹の虫が騒ぐのを感じながら、水を一口飲んで一息吐きつつ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい~』を起動する。
時間が読めないので出撃は控え、おでかけと試合をこなしたタイミングで、注文の品がやってきた。
「これは、見るからにこってりだな」
茶褐色の白湯スープに、チャーシューは半ば沈み、うっすらと黄色い中太ちぢれ麺がのぞいている。
その上には、緑と白の混合物がある。
どっさり載った刻みネギに白くどろりとした背脂が塗されたものだ。
あとは、もうしわけ程度に、一枚だけ海苔が載せられている。
また、黒い丼の内側がぬらぬらと光っているのは、脂に違いあるまい。
背徳的な美を示す佇まいに圧倒されるが、何、今日は休みの〆だ。
喰らってやろうではないか。
「いただきます」
レンゲを手に、まずはスープを一口。
「なんだ、これは?」
どろり濃厚な舌触りと、強烈な旨み。豚骨と脂、そして醤油の風味が口の中で暴れ回る。だが、決して不快ではない。むしろ、快感。
なるほど。これが、この店の個性か。
次に麺を喰らえば、しっかりとスープを纏って口へと至り、脳に旨さを叩き込んでくる。
「これは、箸が止まらないぞ」
たった一口で持って行かれた。
スープを啜り麺を飲み、チャーシューを食む。
だが、すぐに手が止まる。
「流石に、重いな……」
普段、アブラは増さない派なのだ。デフォでアブラマシマシなスープに体がついて行っていない。
薬味のネギがこれだけ入っていてもスープに軽くひと味足す程度の控えめな働きで、そこに加わった海苔の風味は癒やしになったが、たった一枚では焼け石に水だった。
「こんなときは、付け合わせだ」
幸い、テーブルには小皿と高菜、紅生姜が置いてある。
遠慮なく、それぞれを小皿に取り、箸休め的に味わえば。
「うん、これなら、続けられるな」
高菜のピリリとした辛味、紅生姜の爽やかな風味。
それらでラーメン全体の重みを軽減するといい塩梅だ。
そうなってくると、もう一声、刺激を足したくなる。
欲しい刺激は決まっていて、その刺激の元も置いてある。
「やっぱり、ニンニクが欲しいよな、うん」
ニンニク醤油の容器からスプーンでひと掬いすれば。
「お、ニンニクそのまま入っているのか」
スライスしたニンニクが大量にスプーンに乗っかっていた。
「こいつは、ますますいいぞ」
山盛り二杯を注ぎ込み、混ぜ合わせ、口へと運べば。
「すげぇな。あれだけニンニク入れてもスープが負けてない」
殴り合って高みに至る、そんな味わいに昇華されていた。
「あと、こいつもいれよう」
胡麻もあったので、こちらもスプーン二杯ほど振りかけて、更に混ぜる。
「うんうん、ごま風味が加わったところで、簡単には壊れない味、強い」
足し算しても主張を変化させないスープのお陰で、薬味を加えても安心だ。
ここまで来れば、もう御託は必要ない。
麺を啜りチャーシューを食み紅生姜を囓り麺を啜り高菜を摘まみスープを飲む。
腹にズンズン響く重さだ。
腹の虫たちに気合が満ちていくのが感じられる。
かくして、麺とチャーシューを食い切り、スープだけが残る丼が目の前に洗われる。
スープはまだ残っており、替え玉の誘惑に駆られるが。
「駄目だ。そこまで喰うとヤバイ」
腹はいい感じに満たされている。
なら、ここで終わるべきだろう。
汝、完飲すべからず。
戒めに従うべきだが。
「しょっからい。だが、上手い」
レンゲを動かす手が、己の意志から離れてどんどん口へとスープを運んでいく。
どろり濃厚豚骨味が口内に満ち満ちて、心も体も満たされていく。
なら、いいか。
何かが麻痺したように、どんどんスープを胃の腑へ流し込み。
「なくなった、か」
気がつけば、完飲していた。
最後に、水を一杯飲んで、
「あかん。まだ足らん」
それでも、口内の強烈な余韻は未だ残っていたので、更に水を追加で一杯飲み。
ようやく口内が清められたところで。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「旨かったが……こいつはヘビーだな」
腹ごなしに、電気街を歩いて行くか。
心地良くも重たい胃を抱えながら、恵美須町へと足を向ける。
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