第100話 大阪市北区角田町のラーメン大盛り
今年も残すところあと二週間。
年の瀬である。
師走である。
翁……は多分関係ない。
さておき。
本日はSNS繋がりの方々と茶屋町メキシカンな店での忘年会で楽しい一時を過ごしていた。
メキシカンと言えば、小麦の皮で巻いた料理が主体。
日本でも有名なメニューとならば『タコス』だろう。
『タコス』と言えば東場に限り強いキャラを思い出すが、それは『咲-Saki-』脳である。因みに、『咲-Saki-』を擁するヤングガンガンはきっと編集方針に『学園対抗の物語では各校一人めがねっ娘を登場させるべし』という決まりがあるとても信頼性の高い編集部である。
『BAMBOO BLADE』と『咲-Saki-』しかエビデンスがなかったりするものの、双方相当数の学校が登場するにもかかわらずこのルールを守っているのである。
この話をすると『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A』の阿知賀にはいないじゃないかと突っ込まれるだが、宥姉さんは夏でもマフラーめがねっ娘だということを忘れないで欲しい。阿知賀の眼鏡枠は宥姉さん。みんな、覚えたね?
これだけ言いながら、『咲-Saki-』で一番好きなキャラを問われると思わず『タコス』と答えてしまう我が身は業が深い。
そうして、特に場の風を気にすることもなく店に置いてあるメキシコビールを制覇してオフ会も終わった後。
もう少々何か欲しいとなれば、〆のラーメンへと向かうのは必然の流れであろう。
「ふむ、茶屋町だと……どこがあるかな?」
梅田の茶屋町は中津寄りの北側。駅前ビルがある南側とはそれなりに趣を異にしている。
主に駅前ビル方面をメインとしている身には馴染みのない土地ではあるが。
「いや、こっちには創業五十年を超える老舗の塩ラーメン屋があるな」
それに気付けば、後は早い。
思い描いた店へと向かうのだが……
「あれ? ここじゃなかったっけ?」
大観覧車で有名な地区の南。かつては単館の映画館が並んでおり、現在TOHOシネマズの分館となって生き延びた映画館の並ぶ JR 高架沿いを東に向かった場所には、目的の店はなかった。
「あ、そうか……最近移転したんだったな」
半世紀に比べれば短い時間の前に、場所を移していたことを思い出す。
「えっと、この通り沿い、のはずだな」
南へ下れば比較的よく訪れていたつけ麺屋のある道路沿い。
「おお、あったあった」
雑居ビルの地下に居を構える小綺麗な店舗となっていたが、ここが現在の総本店となるのだろう。
「ああ、やはり〆狙いが多いか」
日曜の20時台という早めに飲み終わるとちょうどいい時間帯。
それなりに席は埋まっているが、少し待てば入れそうだった。
ならば、待つ。
「こちらの席へどうぞ」
対面カウンターが並ぶ一角に、ほどなく案内される。
「さて、何を頼んだものか……」
ラーメンの味は基本の塩のみであり、トッピングなどでそれなりのバリエーションがあった。
とはいえ、久々のシンプルな麺だ。
注文もシンプルに行こう。
「ラーメン大盛りで」
これしかないだろう。
あとは待つだけだが、細麺のこの店で『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しないさい!~』をプレイしている時間はないだろう。
実際、すぐに注文の品がやってきた。
直径が大きな薄型の丼には、透き通るスープ。水菜、チャーシュー。
とてもシンプルな塩ラーメンである。
更に加えて。
「こちらは追加スープになります」
大盛りで薄まることを想定して小鉢でスープが提供されるのがなんとも心難い。
久々の総本店の味。
「いただきます」
早速味わおうではないか。
「しかし、これは予想外に麺が多いな」
箸で麺を引き上げれば、細麺でありながらも大ボリュームである。恐らく、大盛りは景気よく二玉になるようだ。
とはいえ、量は多くとも、ベースのスープの味は変わらない。
「本当、あっさりでこれだけいい味なのは貴重だ」
流石は半世紀以上の店。特に、呑んだ後にサッパリできる塩と鶏ガラの旨みのシンプルな味わいは他にない。チャーシューにも味付けはなく、豚と塩スープの風味でいくストイックさが店の矜持を感じさせる。
とはいえ。
「水菜、なんだよなぁ」
時の流れの中で、菊永水菜に変わっていたのだ。これはこれで合うのだが、かつての菊菜の苦みのアクセントを覚えている舌には少々物足りない。
「まぁ、それならアクセントを足すのみ」
座席に薬味として設置されている『揚げ玉葱』をスプーンで掬って全体に振りかければ。
「うんうん。こういう刺激が欲しかったんだ」
塩ラーメンの風味からは出てこない脂風味の玉葱の味わいは、想定通りのアクセント。これは、更に箸が進む。
「と、スープが足りなくなってきたが……ここで追いスープか」
至れり尽くせりだ。
大ボリュームの麺に絡み、薬味と共に啜って失われたスープが、いい具合に復活する。
「ここで、更なる刺激を加えるのも、アリか」
揚げ玉葱の香ばしさで深みの増したスープを味わいつつ、卓上のラー油と胡椒が目にとまる。
「むかしの人はいいました。やっちゃえ! やれるとこまで!」
ヴァンサンカンの眼鏡さんが能登麻美子の声で歌い上げるのを思いだしながら、ラー油を回し入れ、胡椒をパラパラと降りかける。
「おお、この刺激……」
ありがちな刺激ではあるが、その中でも県境に主張する塩風味。
ぶれないベースが感じられるのもまた、食い道楽で飲食店に厳しい大阪の地で半世紀以上この店が愛されてきた理由かも知れない。
そこからは、御託は無視して欲望のまま喰らう。
幸せを腹の中に叩き落としながら、ガッツリと。
そんなことをすれば当然。
「もうない……だと……」
丼には澄んだスープが残るのみ。
かの十戒の一つ、『汝完飲するなかれ』を思い出すが、
「ここまできたらスープを飲み干すしかあるまい」
状況と感情でルールをねじ曲げ、両手を添えて丼を持ち上げる。
経常的に、杯を受けたような形である。
ならばと、堂々中身のスープを飲み干し。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を後にしたのだった。
「さて、年末に向けて打てるては打っておくか……」
まだまだ、忘年会などのイベントは多い。
己を戒め、大阪梅田の街へと足を踏み込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます