第78話 大阪市浪速区難波中のチャ―マヨ丼セット(ラーメンこってりネギ多めにんにくたくさん入り)
「これで、夏の準備は万全だ」
オフの土曜日の朝。
来る夏へ向けての上京に備え、JRなんば駅で新幹線のチケットを確保した帰りである。
「さて、昨日買い損ねたコミックスの新刊を買いに行きたいところだが……」
そこで、腹の虫が騒ぎ出したのである。
「少し早いが、昼飯にするか」
JRなんば駅は、難波といっても繁華街からは西に外れた場所にある。ゆえに、東にある日本橋へ向かうならば、途中に店は豊富に存在する。
そこで、いきがけに何か喰っていくとしよう。
そうして、 OCAT 経由で地上へ上がり、南側の出口から外へ出れば、湿った空気が肌にまとわりついてくる。
台風が近づいているのもあるのか、雲の切れ間の日差しは強いが、その雲は分厚い。今しばらくは大丈夫そうだが、午後にはヤバいかもしれない。
これは、手早く済ますべきかもしれないな。
手早くいくなら、麺類だ。
最近、地球の好感度調整に勤しんでいるだけに、蕎麦などで軽く済ますべきだ、と頭ではわかっていた。
だが、なぜだか猛烈にアレが喰いたくなってくる。ここのところ喰っていなかったから禁断症状だろうか?
ラーメンであれば、いつもなら新しい店を開拓しようとか考える流れなのに、もう、今は、あのアレしか腹の虫が受け付けてくれそうにない勢いだ。
あっさりという選択肢も排除され、どうやら地球の好感度調整は今はお休みせざるをえないようだ。
まぁ、いい。
丁度、こっちからだと日本橋への経路上にあるのは解っているしな。
そうして、西梅田の出口を過ぎ、高島屋の北西のスクランブル交差点を南西側に渡り、高速道路下のマクドの向かって右側を少し南下。
屋台の味と銘打たれた看板が見えてくる。そこが、目的の店だ。
開店からそう時間が経っていないこともあって、まだ客は少ない。
「空いてるカウンター席にどうぞ」
と案内され、適当な席に陣取る。
「お、限定で黒マー油入りのがあるのか」
チェーンではあるが、店舗の裁量で色々個性を発揮する店である。中華屋の定食風のセットがある店や、極端なところではハンバーガーがメニューにあるぐらいの自由度だが、ここは比較的ラーメン屋的方向性だ。
黒マー油には惹かれるが、久々だからこそ、オーソドックスに行きたい。
とはいえ、せめて頼んだことのないものを頼んで新しい味に触れたいのも事実。
そうすると、ピンときたものがあった。
かくして店員に、
「チャ―マヨ丼セット、ラーメンはこってり。ネギとニンニクは多めで」
と注文を通す。メニュー上はネギは『多め』ニンニクは『たくさん』という使い分けがなされ、店員は「ネギ多めニンニクたくさん入りですね」と復唱するのであるが、まぁ、これぐらいの横着は許して欲しい。
さて、待ち時間は『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイしようかと起動する。だが、今は秘書姿で眼鏡を掛けたファネルが活躍するスコアタ開催中。比較的出てくるのが早いこの店で、注文が届くかどうかを気にしながらでは集中を欠いてしまう。
ならばとおでかけだけを仕込み、読みかけの本の続きを読むことにする。
ラーメン屋でラーメン喰ってるところに突っ込んできたトラックに命を奪われ、異世界でサキュバスに転生させられてしまった思春期少年の物語。TSジャンルにこだわりのある作者によるものとあって、TSというものの勘所が色々と見えて勉強になる作品とも言えよう。
って、
「あ、無性に喰いたくなったの、この本のせいだ」
そもそも、こいつがサキュバスに転生させられたのは、天一っぽいこってりラーメンを美味しく頂いていたのが原因だったような。
まぁ、いい。
『 AIR 』をプレイしていたときに頻繁にラーメンセットを喰っていたのと同じようなものだ。ご飯がチャーハンになるとご褒美だ。今日はまた違うものだがな。
読んでいる本に食を影響されるのは、それはそれで楽しい体験であろう。
牛丼バニラアイス肉まん苺のデザートたい焼きで一食構築は若気の至りだ。
そんなことを考えているところ注文の品がやってきた。
「ああ、これは逸品だ」
今では濃厚鶏白湯は増えたが、昔からある屋台味からの発展形のこの店のものはやはり格別である。濃厚スープに、具材は定番のメンマ、ネギ、チャーシューというオーソドックスさ。
久々に前にすると、心が高鳴るものがある。
そうして、初のチャ―マヨ丼だが。
「なるほど。ツナマヨのツナが刻みチャーシューになったと考えればよさそうだな」
そのまんまであるが、そんな感じだ。薬味でネギが乗っているのが、御飯とチャーシューとマヨネーズの白系の中にあって彩である。
「いただきます」
早速、この店の売り、濃厚スープをレンゲでいただく。
「ああ、ドロリとした感触が胃の腑に落ちていく感覚……これだ」
昔から続く、安心する味だ。
やや柔めだがしっかりとスープを纏う麺を食むのがとても楽しい。
我慢せず、チャーシューもスープに沈めてから喰えば、豚の比較的淡白な味わいに旨みが加算されて幸せになれる。
やっぱり、いいなぁ、ここは。
そうして、一通り麺を味わったところで。
「さて、こっちは」
見た目からが大体想像は付くが、チャ―マヨ丼の方へと向きあうことにする。
「うん、見た目通りだが、チャーシューだと返って淡白か」
豚の旨みはあるが、ツナはオイル付けのものが多いのでそれがない分さっぱりしている。とはいえ、マヨのこってり感は麺に負けていない。
というか。
「思いの外、重いな、これ」
こってりなのに淡白目なのが、裏目に出ている。旨いのだが、一口一口がボディブローのように胃の腑を打つ。
麵を箸休めに食べる始末だ。
これではいけない。
そこで閃いた。
「む、これだ! もともとジャンクなら、もっとジャンクにすればいいんだ!」
逆転というか、ドツボに嵌る発想で、席に備え付けの調味料を手に取り、回しがける。
そうして口に運べば。
「大正解。ガツンとくるタレが食を進める。これなら、幾らでもいけるな」
べつに軽くなったわけではない。あくまで、強烈な旨みで上書きしただけだ。
因みに、使ったのはラーメンのタレ。その中身は、出汁醤油的なもの。私はラーメンんよりチャーハンに使っていたので、チャ―マヨ丼に掛けるという発想になったのだ。それが、功を奏して脂肪フラグを立てる。
いいんだ。休日ぐらい、ジャンクとジャンクを合わせてもっとジャンクにしてもいいんだ。
こうなったら、開き直って休日を楽しもうじゃないか!
後は本能の赴くまま、こってりラーメンとこってりチャ―マヨ丼のこってりコンボに多幸感をアップしながら脂肪フラグをため込んでいく。
食の喜びを存分に味わえば、すぐに終わりは訪れる。
ラーメンの丼もチャ―マヨの丼も、どちらも綺麗に空っぽなのだ。
「終わった、のか」
一抹の寂しさを感じながら、最後に水を一杯飲んで一息。
それは、幸せな食空間から属性へ戻るための儀式。
さぁ、ここからは現実の時間だ。
「ごちそうさん」
レジで会計を済ませ、店を後にする。
「さぁ、メロンブックスで『ぼくたちは勉強ができない』の新刊を買って帰ろう」
もちろん私は理珠派である。
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