第67話 大阪市中央区日本橋のラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)
――ましますか? ましませんか?
一つ大きな目標を達成して一息吐いたのも束の間だった。
ここのところ、仕事が少々立て込んでいて、変わらず忙しい日々が続いている。お陰で、どうにも疲れが抜けずにじわじわと溜まっていくのを感じずにはいられない。
――ましますか? ましませんか?
だから、今日のところは仕事を早く切り上げて、ゆっくり休むべきだろう。
かくして、どうにかキリのいいところまで仕事を進めて、職場からの脱出に成功した。
「さて、何か作るのもしんどいし、喰って帰るか」
最近は、行ったことのない店に入って新たな食の体験を積極的に求めていくことを心がけている。
――ましますか? ましませんか?
だからこそ、ここは、行ったことのない店に……と思っているのに、なんだかずっと頭の中に問いが聞こえている気がするのだ。
そういえば、最近『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』が『ローゼンメイデン』とコラボイベントを開催していたのを思い出す。
残念ながらのり姉ちゃんとは契約できなかった(※そもそも実装されていない)ものの、真紅や翠星石や蒼星石や雪華綺晶とは契約でき、いつでも共に戦いに馳せ参じることができる状態だ。
そのせいだろうか?
なんだずっと、それっぽい問いが、
――ましますか? ましませんか?
聞こえている気がするんだよなぁ。
っと、そういえば夕食をどこで喰うか考えていたところだった。
今まで行ったことのない店へ入って……
――ましますか? ましませんか?
と思っていたのに、どうして私はこの店の前にいるんだ?
――ましますか? ましませんか?
しかも、すでに食券を買い、席に着き。
「ニンニク入れますか?」
「ニンニクマシマシ。ヤサイもマシマシ。あと、魚粉カラメで」
と店員の問いに応じて注文を済ませてしまった。
どうやら私は、ました世界の私だったらしい。いずれ、まさなかった世界の自分に助けを求めることになるかもしれない。
と、馬鹿なことを考えつつ、ゴ魔乙のおでかけを仕込んでいると、早くも準備が整いつつあった。出撃は控えて待つこと少し。
注文の品がやってきた。
「ましました」
黒い丼の上に聳えるヤサイマウンテン。ガーリックの白さが頂きに映え、山肌を魚粉の褐色が飾り、巌のような肉塊が麓にごろごろと転がっている。
「ああ、そうだよ。疲れてるときは、やっぱりこれだよ……」
きっと、本能が求めていたのだ。それがあの奇妙な問いのリフレインに繋がったに違いない。
「いただきます」
本能に従い、箸とレンゲを手に目の前の丼へとむしゃぶりつく。
「ああ、今日はなんだか味も濃い目で、ガツンと来る。いいぞ」
いつになく醤油が立ったスープに、黄色いバキバキの麺の表面が明らかに黒みを帯びている。ニンニクはとっくにスープに沈み、その香りを全体に行き渡らせているのが、また旨みを増幅させている。
「うまい、うまいぞ」
野菜を肉をスープを麺を、己の欲望の赴くままに食す。
疲れが癒えていく。それは、肉体的な疲れだけでなく、精神的な疲れもだ。
食は、心身の癒しなのだ。
地球ともう少しぐらいなら仲良くなったって、いいじゃないか!
「ああ、もう、終わり……なの、か?」
気が付けば、あれだけあった野菜も麺も肉も、手品のように消えていた。
種も仕掛けもない。
すべては、胃袋の中だ。
「流石に、スープはきついな」
醤油が効いている、つまり、少々塩分過多だ。これを飲むと、少しばかり血圧に影響がありそうだ。
汝完飲するなかれ、という有名な戒めもある。
ここは、スープは諦めよう。
最後に水を一杯飲んで一息。
「ごちそうさん」
丼とコップを付け台に戻し、店を後にする。
「さて、腹ごなしがてら、オタロードを歩くか」
進路を、南へと取る。
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