第9話 東京都千代田区神田小川町の濃厚ラーメン

 もうそろそろ、旅も終わりが近づいてきた。


 今夏東京の地で過ごす最後の夜に食すものとして、何が相応しいか?


 これといったものはないが、何となくラーメンな気分になってきた。


 だからわたしは、近場の情報を集めてよさげな角煮ラーメンの店を見付けたのだが、


「閉まってるか……」


 行ってみると、仕度中。

 店舗の案内によれば、どうにも基本は昼営業のみで夜は特定の曜日しかやっていないらしい。イレギュラーな営業時間について、ネットの情報と食い違っていることは、ままあるものだ。


「ならば、違うものを食せばよいのだ」


 どうせなら、喰ったことのない店がいいだろう。

 幸い、この辺りにはやたらとラーメン屋がある。すぐに見つかるだろう。


 案の上、すぐに店は見つかった。


「あ、ここはつけ麺がメイン、か」


 今回の旅でつけ麺は食べていない。だから、それはそれでいいのだが、


「どうせなら、魚介豚骨のラーメンの方が……」


 と思ってみれば、


「あった! 何々、濃厚ラーメン。特に出汁について言及はないが、十中八九つけ麺と同じだろう」


 敢えて確認せず、運に任せて『濃厚ラーメン』の食券を買い、店に入る。


 厨房を木製のカウンターが囲む形の小綺麗な店舗だった。一番奥の角が空いていたので、そこに陣取る。


「魚介か……魚介と言えば寿司。寿司と言えば、この夏のケイブだな」


 今回の夏コミに初参加したケイブは、やはりケイブだった。スペースには『超乙女寿司』の看板が掛かり、スタッフは「へいらっしゃい!」「まいど!」と威勢のいい声を上げている。並べられた生け簀風の飾りには、五乙女五悪魔の姿が揺らぐ。


 そして、完全に寿司屋の大将に仕立てられたIKD(=池田恒基ケイブ取締役)の等身大像は余りにも嵌まり過ぎて独特の雰囲気を醸し出していた。


 どうせならショッパーはカトレアさんにするならリリーも出して欲しかった……などと思っていると、麺がやってきた。


 薄茶色に濁ったスープに、中太麺。具材は、チャーシューと刻みネギとメンマとノリ。


「ふむ、オーソドックスだ」


 れんげでスープを一口すする。


「味の方は……うん、期待通り。あのつけ麺の定番の味をラーメン用に調整した、紛う事なき魚介豚骨だ。そうそう、これが欲しかったんだ」


 特に捻りのない直球の味が嬉しい。『濃厚』というだけあってややとろみを感じるモノの、くどさはなく丁度いい塩梅。


「麺も、いい感じに絡むな……チャーシューは、お?」


 大ぶりで厚めに切られたチャーシューを口にしたところで、少し意表を突かれる。


「なるほど、ハムに近いチャーシューか」


 タレに漬け込んで味を付けたものもあるが、これは、塩気で豚の旨みを引き出しているのだろう。オーソドックスな中にこのサプライズは、いいな。


「こちらは……噛めば噛むほど味がでる、か」


 色の濃いメンマは歯ごたえがありつつもしっとりしていて、しがむようにすると味が出てくる。


 次は、麺や具材を包んだり色々と食べ方の応用の効くノリに向き合う。


「いや、細かい事はいい」


 スープに浸し、しっとりしたところを一気に口に入れる。


「うんうん、これでいいんだ」


 ノリの風味がプラスされた魚介豚骨の旨みを一時味わう。当然、一枚しかないノリでは一回しか味わえないが、それはそれで一期一会の旨みなのである。


「ネギも、いいアクセントになっているし、うん、もう小難しいこと考えずに、喰おう」


 一通りの具材を確認したことで、腹の虫の騒ぎは最高潮だ。


 麺を引っ張り上げ、適当に絡んだネギと共に咀嚼し、大ぶりのチャーシューをがぶりと囓り、メンマをしがみ。


 最後には、スープの一滴を残さず、平らげていた。

 旨かった。


「ごちそうさん」


 丼をカウンターへ上げ、声を掛けて店を後にする。


 さて、旅の終わりの準備もしないといけないが、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』のイベントの黄色い猫も集めてしまわないと。あと18匹で800匹集まるのだ。


 今晩中には終わらせて、明日の夏の祭典に備えよう。


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