第6話 東京都青梅市野上町のブラジル産ハラール丸鶏の金色中華そば
夏である。
東京まで来ている。
なら、遠出してでも気になる店にいってみるべきではなかろうか?
そうして、東京都区内から外れ、青梅市まで足を伸ばしていた。
「ここ、か」
すだれの上に暖簾の掛かったひっそりしつつも自己主張の強い佇まいの店だった。ここは、某ラーメン漫画の作者も来店したりしているらしい。
「あるな」
食券機の側の本棚には件の漫画があった。だがそれは、来店より前からあったらしいので偶然なのであろう。
「部活?」
つけ麺や中華そばの中に、そうそうラーメン屋では見かけない文言がある。
それはこの店の限定メニューを意味するらしい。
レギュラーメニューをいくか、一期一会の限定を選ぶか? それが問題だ。
次いつ来れるか解らないという意味では全部一期一会と言えなくもないものの、やはり、本当の一期一会、限定に行こう。
部活の食券を買い、先に店員に渡して席が空くのを待つ。
ほどなく、カウンターが空いて席につく。なにやら色とりどりの落書きに満ちた、雰囲気のあるテーブルだ。謎のキャラクターがいるが、それはこの店のマスコットなのだろうか?
そうして、今日の限定メニューの内容を改めて確認する。『ブラジル産ハラール丸鶏の金色中華そば』。ブラジル産ハラール丸鶏と言われても、それだけでは何だかイメージしにくいものがある。地鶏のようなものだろうか? というぐらいの理解。
それよりも、『丸』からは『デススマイルズ』の『フォレット』を連想せずにはいられない。現在『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい~』のイベントにて報酬となっている、あのフォレットだ。丸さには定評がある。色々丸い。
何より、半円形アンダーリムのめがねっ娘であり、稼働当時は隠しキャラだった彼女が解禁したことで『デススマイルズ』をプレイし始め、ケイブ祭りに参加するようになり、この夏初参加のケイブに真っ先に突撃する準備をしているのだ。
彼女を手に入れるために頑張るのは必然なのだ。
そんなことを考えていると、限定メニューの丼が届く。
「ほぉ……金色中華そばとは、言い得て妙だ」
スープの見た目は若干色が濃いめながら、オーソドックスな醤油スープ。
具材は、むね肉らしき見るからにあっさりしていそうなチャーシューと、鶏のつみれ団子。あとは、三つ葉と、緑のメンマのようなのは……山くらげ、か。
「では、頂こう」
まずは、スープを一口。
「鶏だ!」
なんというか、猛烈に鶏の出汁が効いている。そこに醤油の味も立っていて見た目のオーソドックスさに反するパンチの効いたスープである。
「なるほど、これならむね肉と合わせれば……うん、丁度いい」
チャーシューをスープに浸せば、淡泊なむね肉がジューシーに。
「三つ葉も、いいな」
味が強いスープだけに、三つ葉は箸休め的にさっぱりしてよい。
「なんだかメンマみたいだけど、食感が違う……か。でも、合うな」
山くらげと思しきものもよい。
肝心の麺は、やや固めの細麺でスープと絡んでバランスがいい。何より、ここのところ太めの麺ばかり食べていたので新鮮でもある。
新鮮と言えば。
「中華そばにもスープ割りがあるのか……」
大本がつけ麺屋というのもあるのか、日替わりで出汁の変わるスープ割りを提供しているらしい。今日は、本節と昆布出汁とのこと。
これも、行っておかない手はない。
一通り食べ終わったところで、
「スープ割りを」
ほどなくしてやってきたそれは、見た目は変わらないが。
「あ、これは、和のテイストだ……」
元の鶏と醤油のドギツサはすっかり緩和されて、ほどよい旨みのスープになっている。なるほど、つけ麺のつけ汁を飲みやすくするのと同じ感覚だ。いつもこんなドギツイスープかは解らないが、それでも、今日の限定にはスープ割りは理に適っている。
丼を持ち上げて残ったスープを一気に飲み干す。
「旨い……ん? なんだ、これ?」
丼の底から子供の落書きのようなキャラクターが表れた。店内そこここに描かれているマスコットキャラ(?)だ。
最後にそんなサプライズを味わいながら、
「ごちそうさん」
店を、後にし駅へと向かい、そのまま帰りの電車へと乗り込んだ。
ただ、麺を食べただけで。
ホテルから一時間半ほどの距離をやってきた。
交通費も中々に掛かっていても、構わない。
短いながらも充実した食の体験ができたのだから、十分だ。
そうして、長い道中。
『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい』の easy を回し、黄色い猫を集めるのだった。すべては、フォレットのため。
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