第2話 難波千日前のラーメン(ごはん食べ放題、キムチ・ニラ・ニンニク入れ放題)
「さて、何か喰って帰るか」
仕事帰り。
映画の日を利用して『トランボ~ハリウッドに最も嫌われた男』を鑑賞した後のことである。
ハリウッドでかつてあった思想弾圧とそれに屈せず表現を続けてアカデミー賞を二度も受賞した哀しくも爽快な男の物語に心地良い疲れを感じつつ、難波の街を歩く。
「久々に、行ってみるか」
なんばグランド花月にほど近い、一件のラーメン屋に足を向ける。朱色を基調とした店舗には、派手な龍がラーメンを啜る看板が出ている。
「そういや、ここ綾香シナリオのエンディングの元ネタだったなぁ」
かの名作『 To Heart 』のプレイステーション版で追加された、オカルト大好き来栖川芹香嬢の姉にして格闘家の来栖川綾香エンディングに登場するラーメン屋である。まぁ、店舗は御堂筋沿いの方でここではないのだが。あと、あれは屋台じゃなくて立ち食いの店舗である。
因みに、当時はまだ覚醒に至っておらず、来栖川芹香嬢推しだった。とはいえ、プレイ前は保科委員長が一番気になっていた辺り、己に眠る真理には近づいていたのだ。ただ、芹香嬢はそれを凌駕するだけの魅力を秘めていただけなのだ。マジです。
そのため、今の至高の嗜好への覚醒は『こみっくパーティー』まで待つことに……などと、思い出に浸っていても腹は膨れない。
「入ろう」
入り口にある券売機のメニューは『ラーメン』と『チャーシュー麺』のみ。『ラーメン』の食券を購入し選び、奥の厨房に食券を出す。
店舗内は独特の雰囲気である。
テーブル席ではあるのだが、テーブル単位に小さな畳敷きの座敷になっているのである。当然、靴を脱いであがる。あぐらをかいて座れるのが、落ち着いてありがたい。
できあがりを待つ間に、発泡スチロールの使い捨て容器に、保温ジャーからごはんをよそう。更にもう一つ容器を取り、厨房前のカウンターに並ぶ生ニンニク、ニラ、キムチを適量取っておく。
週刊少年ジャンプを読みながら待つことしばし、厨房から声が掛かり、カウンターにできあがったラーメンが置かれる。
席から動く度に靴を脱いだり履いたりするのは面倒ながらも、それはそれでこの店舗の味。靴を履いて席を立ち、カウンターからラーメンを取り、テーブルへと戻る。
そうして靴を脱いで畳にあぐらをかき、ようやくラーメンと対峙。
薄褐色に濁った豚骨鶏ガラスープに、中細ストレート麺。具は、大ぶりのチャーシュー三枚に、刻みネギ。とてもシンプルな様相である。
「いただきます」
まずは、そのまま麺を口に運ぶ。そこに絡む豚骨の強い味に、鶏ガラの甘みを感じる旨みがミックスされたスープの味。久しぶりの、それでいて子供の頃から馴染んできた味が身に染みる。
口に味が残ったまま、御飯をかきこむ。これがまた、旨い。
次は、チャーシューだ。
「チャーシュー麺じゃなくても、これだけ入ってれば十分」
存外厚めで大ぶりのチャーシューには、甘辛いタレが付いていてそのままでもしっかりした味だ。それをスープに浸して食べるのも、また、よい。塩分摂りすぎ? 夏で汗かくから大丈夫だ。
そのまま、麺を半分ほど食べ、ごはんはすっかり食べ切ったところで。
「いよいよ、出番だ」
元の味をしっかり楽しんだ後は、好みで味を変化させる。
そのための、生ニンニク、キムチ、ニラである。
「おりゃ」
ためらわず、器の中身を全てスープに放り込む。
かきまぜれば、それまで褐色だったスープが紅く染まる。因みに、ニラもニラキムチになっていて唐辛子をまとっているのだ。
「辛! だが、旨い」
投入した全てがどぎつく味を変えてしまうが、これもまた、美味。結構な辛さだが、この汗で塩分を出すのだ。計算通り、ということにしておこう。
しかし、すっかり減ってしまった麺だけでは、何か寂しい。
「この味でも、ごはんは外せないな」
食べ放題なのだ。遠慮することはない。保温ジャーからお代わりをよそい、存分に食を楽しむ。
「ふぅ、喰った喰った」
何かを言いそうになったが、前も同じ事を言った気がするのでやめておく。ラーメン喰ってめでたしめでたし。かくあれ《アーメン》。
「ごちそうさま」
食器返却口に丼と使い捨て容器を返して、店を後になる。
「今からじゃ、店は閉まってるな……」
特に急ぎで欲しい本があるわけでもなし。大人しく帰って、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!』の総選挙イベントでリリーを応援する作業に勤しもう。
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