エピローグ”X”

2015/10/18 side”X” PM17:11

 マリが台所で夕食の下ごしらえをしていると、

「ただいま!」マリカの声が玄関から聞こえてきた。

「おかえり。意外と早かったのね。コーヒー飲む? アイスとホット、どっち?」

「そんなことよりさ、ママ、ねえこれ見てよ」マリカが興奮しながら台所に飛び込んできた。

 じゃーん、と言いながら左手の甲をこちらに向けて、何やら誇らしげな顔をしている。

「どうしたのよ……え?」

 マリカの姿を見て、マリは手に持った包丁を落としそうになった。

「ほらほら、これすごいでしょ。ママのとおんなじタイプの腕時計。いくらだと思う? なんとリサイクルショップで税込み108円だったのよ」

 それはまちがいなく、マリとカズコがお揃いで持っていた時計と、まったく同じものだった。

「ちょ、待……。ウソでしょ。冗談やめてよ」

「冗談じゃないよ、本当に108円だったのよ」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「ほら。しかもちゃんと動くの。同じのがふたつ売ってたから、トンちゃんと一緒に買ってペアにしたのよ。……でも、使いかたわかんなくて。説明書もついてなかったし、メイドインなんちゃらってのも、どこにも書いてないのよね。なんかボタンついてるけど、押してもいいのかな。壊れちゃったりして」

 ピッという音が鳴った。

「あれ? 時間が止まっちゃった」液晶を凝視してマリカが言う。「どうやってもとに戻すんだろう。こっちのボタンかな?」

「マリカちゃん、ちょ、ちょっと待ちなさい。そのボタンを押したら……やめっ!」


(了)

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multi-side Lovers 台上ありん @daijoarin

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