エピローグ

2015/10/18 side”A” PM17:11

 マリが台所で夕食の下ごしらえをしていると、

「ただいま~」マリカの声が玄関から聞こえてきた。

 振り向いてリビングに入ってきたマリカの姿をちらりと見ると、手に薄いピンク色の紙袋を持っている。マリカがお気に入りのアパレルショップの紙袋だ。

「おかえり。意外と早かったのね。コーヒー飲む? アイスとホット、どっち?」

「ホットでいいや。お砂糖五つ」

「ダメよ。二つね」

 ホットコーヒーをテーブルの上に置くと、マリカはそれを飲まずに、ソファーの上に広げた派手な柄のTシャツをじっと眺めている。

「また、お洋服買ってきたの? 腕時計は?」

「いちおう見てきた。実際に見てみると、けっこういろいろあるのね。腕時計なんて時代遅れのツールだと思ってたけど、意外とオシャレかもね。迷っちゃって、結局買わなかった」

「いったい、何しに行ったのやら」とマリは少し呆れて言った。

 マリカは洋服をたたんで紙袋に片付け、コーヒーを一口飲んだ。

「パパはまだ?」

「さっきメール送ってきてたけど、ホールインワン出した人がいて、そのまんま祝賀会するから遅くなるって」

「またぁ? ホールインワンって、そんなに毎月バンバン出るようなモンなの?」

「そんな訳ないでしょ。プロゴルファーでも無理よ」

「でもまあ、それじゃちょうど良かった。ねえ、ママ。お昼の話の続き、聞かせて」

「お昼?」

「ほら、ママの初恋の話よ」

 マリは少しためらったが、決心して、

「聞いても、引かない?」と聞いた。

「うん」

「信じてくれる?」

 マリカは首を縦に振る。

「じゃあ……」と言って、マリは咳払いをした。「ママは、高校三年生のころからバス通学に切り替えたんだけどね――」

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