柳と赤子
空木真
柳と赤子
昔々、ある深い山の中に、
山神様のお住みになられている森がありました。
そこは
なので、
木々の精霊達は安心して毎日を過ごしていました。
そんな木の精たちの事を、
山神様は守っておられましたが、
たった一つ、悩んでおられる事がありました。
それは、
この
誰の話も聞きません。
それに、他の木の精と違い、
人間が大嫌いでした。
なぜかというと、
人間はそれを見ると
「
「幽霊がいそうだ」と、
勝手に悪く受け取って、
ですから、
わざと葉をつける事をやめて、
いつでも枝だけの姿でゆらゆらとゆれては
旅人を
夏でも冬でも葉を付けず、
風も無いのにゆらゆら揺れる
とうとう旅人達はこの
「お化け
と呼ぶようになったのです。
山神様や仲間達がいくら
「皆、お前の事を心配しているのだ。
彼らはお前を切り倒してしまおうとするだろう。
そうならない
他の者の話を聞きなさい。」
山神様がそうおっしゃっても、
「嫌です。
私は、私のしたいようにします。
何かあっても、
私が責任を取ればよいのでしょう?」
そう言うだけで、
またそっぽを向いてしまいます。
山神様はただ深い溜息をつき、
そんな柳を困った顔で見つめていました。
そんなある日。
この
布の
通りがかりました。
旅人は立ち止まって
「本当に、葉が無いのねぇ。
他の人の言う通り、なんて気味が悪いのかしら。」
それを聞いた
このとても失礼な旅人に怒りました。
(ここで迷わせて、出られなくしてやろう。)
力を使おうとした時です。
どこからか
大きくてうるさい泣き声が辺りに響き渡りました。
旅人は
それに向かって話しかけます。
「よしよし。
もう少し、我慢してね。
もうすぐ村に着くからね。」
よしよし。
と、繰り返しそれに語りかける旅人が気になり、
すると、
そこには泣きじゃくる小さい顔があったのです。
ここを通る旅人は、
皆大人ばかりだったので、
柳は
泣いている
そのまんまるな目と
すると、
やがて
人間に笑いかけられたことが無かったので、
大変
泣き
嬉しそうに通り過ぎていきます。
(今の、小さい人間はなんだろう?
どうして、嬉しそうに笑ったんだろう?)
考え込む
他の木の精の声が聞こえてきました。
「あら、久しぶりに人間の
「
(あかご。あの小さい人間は、赤子というのか。)
その日から、
泣き声はうるさかったけど、
笑顔を向けられたのがとても嬉しくて、
そんな事を毎日考えているうちに、
(どうやって
と、そんな恐ろしい事を考えるように
なっていったのです。
冬になって、
突然大きな泣き声が、
そこには、
元気よく泣いていたのです。
「人間の
「誰かが
「
他の仲間が口々に言う中、
柳はあの旅人と同じように、
そっと大事そうに
(温かい。小さくて、
「よし、よし。」
口に出して言いながら、優しく揺らしてみると、
泣いていた
やがてにこにこと
「山神様!こちらです!」
誰かがこの事を伝えたらしく、
山神様が皆の元にやってこられました。
山神様は、
にこにこと嬉しそうに笑う
とても悲しそうな顔をしました。
「この
この
子供を欲しがっている優しい人間の夫婦に、
私が
山神様はそうおっしゃって、
しかし
「嫌です。
私の足元に捨てられていたのだから、
これは私の物。
だから、
私がこの
この言葉に、
他の精たちは
「
人間とお前は住む世界が違う。
・・それに、
育てる事は出来ないだろう。」
山神様もそうおっしゃいましたが、
やはり
「そうか。
ならば、勝手にするがいい。」
静かな声でそれだけを伝えると、
山神様は山の奥におもどりになりました。
「勝手にするわ。
この子は私の物なのだから、私の好きなようにする。」
そう言いました。
それからは毎日、
ずっと欲しかった物が、
手に入ったからです。
他の仲間達は少し心配そうでしたが、
それでも赤子が楽しそうに笑っていると、
それを嬉しそうに見ていました。
次の日も、
「何だか、少し元気が無いんじゃない?」
誰かが言いましたが、
その次の日も、
「昨日よりも、元気が無いんじゃない?」
誰かが言いましたが、
その次の次の日も、
「何だか、顔色が悪いみたいよ?大丈夫なの?」
誰かがまた言いましたが、
他の精に赤子の
そちらに気を取られていたからです。
(赤子が笑っているから、大丈夫。
泣きさえしなければ、大丈夫よ。)
そう考えていました。
ある朝、
いつもの
「おはよう。よし、よし。」
そう声を掛けて優しく揺らすと、
しかし、今日は笑いません。
不思議に思い、
そしてその顔は、
その体もとても熱く、
小さく震えていました。
異変に気付いた仲間たちが側にやってきました。
「どうしたの?」
「あ、
仲間達はその様子に
この森で一番物知りの、杉の木の精を呼んできてくれました。
「うぅむ・・。」
そう
「この
本来、人間である
この
しかし、
この山が聖域だったことが
この赤子は今まで寒さから守られ、
なんとか生きておった。
・・だが、
ここに
食べ物を食べず、
寒い風にさらされ続けていた事で、
病気になってしまったようじゃな・・。」
それを聞いた
大変
病気になる事はありません。
それに、水とお日様の光さえあれば、
食べ物を食べる必要もありません。
だから
それを伝えると、
杉の精は驚いた顔をして、次に怒って言いました。
「なんと!
お前さんはそんな事も知らぬのに、
この
このままでは、
この子は死んでしまうぞ!」
とうとう泣きだしてしまいました。
「どうしたのだ?」
皆が驚いて声のした方を見ると、
そこには山神様が立っておられたのです。
弱っていく
そして、
「
と願ったのです。
しかし、
山神様は静かに
「
とおっしゃいました。
「お前は、
責任を取ると言っただろう?
お前のした事がその
それを受け入れ、
・・まさか、
そこまで考えていなかったと言うのではないだろうな?」
「わ、私は・・。」
「それに、こうも言ったはずだ。
『赤子を(物)というお前には、育てる事はできない』と。
・・赤子は、命を持った生き物だ。
話す事や、歩く事が出来なくとも。
苦しみ、痛みを感じとる事が出来るのだ。
それすらも
自分の事しか考えない
自分の事を、子供の
そう、冷たい声でそう
山神様は後ろを向いてしまわれたのです。
(どうしよう!私のせいで、この子の命が・・!)
苦しそうにしている
「ひとつだけ。」
と、山神様の声が聞こえました。
「一つだけ、その子を救う方法がある。」
山神様はこちらを振り向いておっしゃいました。
「その子の人間としての体は、
もう
・・しかし、
お前達と同じ精霊になれば、その命は助かるだろう。」
「では・・!」
「ただし!」
希望に明るい表情をする
山神様は続けられました。
「この
その体は幼い木の芽となる。
雪と吹雪の時期であるこの
1人で
・・そこで。」
山神様は
静かに
「お前の木に、
この赤子を芽として
そうすれば親子の精となり、
その
お前の力で寒さから守れるだろう。
・・だが、2人の精を無理に一つの木に
お前の木の姿はとても
人間達には
それに、芽を守る
それでもよいのかな?」
その言葉に辺りは静かになりました。
他の精達は、
風が
仲間達が心配そうに見守る中、
「それでもかまいません。
この子をお助け下さい。
私は、責任を取ると言いましたから。
・・それに、
この子が苦しんでいるのを見た時、
私は気付いたのです。
何をしてでも、
この子を守りたいと思う気持ちに。
この子の笑った顔が見られるのならば・・
他に
優しい顔ではっきりと
山神様は静かに微笑んで、
すると、
揺れていた枝は天に向かって
その先に白い
そのあまりに変わった姿に皆は
弱っていた
元通りの
その体が芽と同じ暖かそうな真白い
小さな精霊となったのです。
今まで見た事も無いくらい嬉しそうに笑いました。
「奇妙な
旅人たちの間で、
姿の変わった
元々お化け
彼らはすぐに
「とうとうあの
本物の妖怪になり、化け物になってしまったのだ。」
と心無い事を言うようになったのです。
中には、
本当に退治しようとやってきた者もいましたが、
そんな
怒った他の精や、山神様に追い返されるのでした。
しかし、そんな事になっても、
大事な
そんなある日、
若い女と年上の女の2人の旅人が、
年上の方の旅人が足を止め、
「本当に、変な姿ねぇ。
他の人の言う通り、なんて気味が悪いのかしら。」
しかし、
いつも通り、嬉しそうな
すると、
それを聞いた若い方の旅人が言いました。
「そんな事をいうものではないわ、母さん。
この
私達と同じで傷つくのよ。
皆がそう言ってるからといって、
悪口を言うなんて
その言葉に驚いて、
若い旅人は優しく
静かに言います。
「確かに少し変わっているけど、
私はこの
この芽を見ているとね、
幸せそうに
私には、そう見えるわ。」
すると、
年上の旅人もまじまじと枝を見つめ、
優しく笑っていいました。
「本当ね。
白い
この
・・いつもお
2人の旅人は
仲良く去っていきました。
その日から少しずつ、
「化け物
と呼ぶものは減っていきました。
何があったのかは、
山から動けない木の精達にはわかりません。
代わりに、
嬉しそうに
そんな旅人達を見て、
そんな
泣いてぐずる人間の
それを見た親達も、
同じ様に嬉しそうな笑顔になるのでした。
そのうち、
旅人達の間で、こんな噂が広まるようになりました。
「
こうして、
柳はいつしか「
「ねこやなぎ」
と呼ばれ、いつまでも、
親子の旅人に愛されるようになったのです。
柳と赤子 空木真 @utugimakoto
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