最終話 ふしぎな関係
青年は首筋に少女のキスを受けて、体の一部分を膨れ上がらせる。
その様子に気付いた少女は、ふんわりと笑った。
「ねえ、興奮してる?」
その甘い声に、青年は酔いしれ、彼女を自らのベッドへと押し倒す。
「サキさん! 俺……」
ここは青年の家の彼の部屋。
邪魔するモノはなにもない。
押し倒されたサキは微笑んだ。
「私、いいよ……あなたになら、ささげてもいい」
サキの言葉に男が心の中で雄たけびを上げるのが聞こえるようだった。
部屋の屋根で聞いている眞白に。
「全く、サキはすごいよな」
眞白はそうつぶやいて、携帯している血液をごくりと飲む。
それはもちろん、彼の恋する者の血だ。
「じゃあ……服、ぬごっか」
強化された耳を通してなおも、聞こえてくる青年とサキのやり取り。
「うん。でもね、ちょっと怖いからこれ、付けてくれない?」
サキがあるものを手渡す。
小さくて少し厚みのあるアレだ。
差し出された青年は、少し悲しそうな様子だった。
「出さないからさ、直接……」
「ごめん、怖いよ……。つけてくれないなら、私帰る」
サキはそう宣言して立ち上がろうとするが、男にがっつりと肩を掴まれて動けない。
「俺の子供は、いや?」
「ううん、そうじゃないの。そうじゃないんだけど。お友達がね、去年あのこわいウイルスでなくなっちゃったの。その……エッチしてうつるやつ」
「俺のこと疑ってるの?」
「そんなことないよ、ただ私、怖くて」
泣き出す、サキに青年は優しく語りかける。
「わかったよ、サキがそう言うなら俺、そういうのの検査受けてみるよ。ほら、この間家にポスター入ってたんだ。だからさ、一緒に受けに行こう?」
ここで、トウマの普段のチラシ配りの努力が生きてくる。
サキがごねると、すぐにアレをつけること了承したところを見ても、優しい性格だったんだろう、と。
そして眞白は、ウイルスの効かないサキュバスであるサキのみが出来る芸当に感心していた。
青年に対する一仕事終えたサキはほっと一息ついていた。
そして、自らの食事のためにギアを入れる。
「ありがと♡ じゃあ……する?」
「え、あ、うん!」
サキの急な発言に、一瞬しどろもどろになった青年だったが結局はやる気満々になって同意した。
サキの最中の声など聴きたくはない。眞白は、見ていたレンズの映像を止めて、空をじっと見上げた。こうしていると、なにも聞こえなくて、青空に自分が解けていくようだった。
「青空の下のヴァンパイアか」
世間一般で想像されるヴァンパイアとは全然違うな。
眞白は小さく笑う。
そして、恋敗れたのに恋する者の血を手に入れることになった自分を嗤う。
ユリアはサキが好き、そして、眞白はユリアが好き。
奇妙で不思議な三角関係、お互いがお互いを利用しあう関係。
眞白はウイルス撲滅のためにサキを利用し、
サキはサキュバスである自分の渇きをいやすために眞白を利用し、
ユリアはサキへの思いのために眞白を利用し、
眞白はヴァンパイアの発明家として生きるためにユリアを利用する。
眞白を中心として出来上がる利害関係。
それに辟易しながらも、眞白はどこかほっとしていた。
自分のこれからについて、考える。
「この二人とならやれる」
眞白はそうつぶやいて、いつのまにか仕事を終えてこちらに手を振っているサキを
迎えに行く。
『このやれるがどんな意味なのかは、皆さんのご想像にお任せするぜ』
眞白は、キーンとした耳鳴りとともに通信してきたワトソンに、苦笑いを浮かべた。
吸血鬼(ヴァンパイア)の三つの危険 篠騎シオン @sion
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