第8話 俺と、この世界と。

 あの騒動が起こってから、もう半年は経っただろうか。

 あれだけ汚れていた街も前の状態に復興して、街中は人々で賑わっていた。

 この学校の教室の窓から見るだけでも、その賑やかさは伝わってくる。

この街の音が、響いている。

「レオ君……高浜レオ君!」

「は、はい?」

 呼ばれた声の方にとっさに振り向いた。

「今日は休日で天気が良いからと言ったって、ずっと授業を聞かずに空を見ているのは関心出来ないね」

「す、すいませんでした……」

 教室から笑い声が聞こえる。俺も照れ笑いしながら、教科書に目を戻す。

 俺の人生も変わって行った。

 今は定時制の高校に編入して、一年生として年下の連中と学んでいる。案外、人から聞いた話ってタメになるんだな、って思いながら毎日を楽しんでいる。

 普段は夜に授業するが、休日は昼間にもするらしく、まさしくその時が今だ。

 授業が終わると、校門を出て駅前へと向かう。学校に通い始めてから駅前でブラブラ歩くのが好きになった。今までは端末越しに見ただけで満足していた自分だけども、今では実際に目に焼き付けないと満足できない身体になっていた。だから、端末中毒は一応治ったという事で良いのかな。

 駅前からちょっと歩くと、目につく五メートルくらいのオブジェがあった。近づけないようにテープで囲われたそのオブジェクトは、奇妙な形をした抽象的なオブジェだった。俺は正面に回ってタイトルの書かれた石碑を見る。

『明日への光 ~○○騒動の犠牲者に捧ぐ~』

 そう書かれてあるとおり、騒動により犠牲となった街の人々のために造ったオブジェだ。最終的に三五〇〇人まで犠牲者の数は上ったが、これでも被害を最低限に留めたと世間では認識されている。

 それも全て『ライリア』のおかげ。

 俺と別れてから『データ』は無事に届けられて、すぐに『ライリア』が大量生産されて各地に配備された。そのおかげで、この街の平穏が取り戻された。こうしてオブジェが立てられて追悼されてるって訳だ。

 この犠牲者の中に、ソウラがいるという事。俺はその事実を決して忘れない。

 ……。

 そういえばミチルたちとあれ以来連絡を取ってないな。こちらから連絡するのは何か気が引けたから、相手から何か来たら反応しようという魂胆だった。

 果たして、今はどうしているんだろうな。

「それにしても……わけわからないオブジェだな……」

 回れ右をしてオブジェを背に向けて歩こうとした矢先、目の前に現れた少女を見て俺は立ち止まった。

「こんにちは、こちらのオブジェを見ていたのですか?」

「あぁ、まぁな」

「こちらは『明日への光』というタイトルです。半年前に起こったウイルス騒動の犠牲者を追悼しての作品でございます。騒動はもっと深刻化すると予想されていましたが、『ライリア』という高性能戦闘型ヒューマノイドの配備により事態が急速に収まりました。この事は世界でも絶賛されまして、これからの時代のヒューマノイドの活躍を願ってそう名前をつけられたらしいです」

「なるほどね」

「『ライリア』は数百体配備された訳ですけども、何を隠そう、わたくしはその『ライリア』の一人でございます。驚かれましたか?」

「いや、見た目で大体分かるさ」

「そうでしたか、申し訳ございませんでした」

「じゃあ、俺はこれで」

「それでは良い週末を」

 その少女は無邪気に笑っていた。その笑顔に顔をそむけるように、逃げるようにその場を後にする。

 そして少し振り返る。俺の目線は少女の背中。

『Soula』

 全てのライリアの背中には、その名が刻まれているらしい。

 この街を救った、親愛なる英雄の名が。


 END

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俺と、ヒューマノイドと、ゾンビと。 淡月カズト @awawan1123

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