第16話 終わりある世界
ガチャ
「ただいま」
「ただいま」
家に言ってるのか誰に言ってるのか。習慣なのかな。無人の家に二人で言う。「ただいま」と。
「なんか私達の家に帰ってきたって、感じがするね」
「そうだな。なんか匂い?」
「え? そこ?」
ソファーの定位置におさまる。うんうん。ここだな。
「唯。なんか僕に黙ってない?」
涼って相変わらず鋭いな。
「あ、はい。黙ってました。っていうか、確信持てないままだから」
「どんな話?」
「雪。雪の話」
あの日の雪を思い出す。もうすぐ十日経つ。明日の朝、夢を見なければ話そうと思っていた。今まで十日間夢を見なかった日はなかったから。
「雪?」
「クリスマスに雪が降ったでしょ?」
「あ、ああ。あれそう言えば唯、あの日終わりの日だとかなんとか言ってたよな」
「そう。この変な力で犯罪者が増え、凶悪になって行く最悪な未来。まるで世界の終わりでしょ?」
「ああ、って終わりの日なら最悪な未来なのか?」
涼が不安気になってる。
「その世界の終わりが終わったの。多分」
「唯、わかるように話をして」
涼は子供に言い聞かせるように言う。
「私や私が捕まえた犯罪者、まだ捕まえてない犯罪者達が持っていた能力が全て消えたの。あの雪の日に。多分だけど」
「唯、多分ってさっきから言ってるけど、あの日から夢を見てないのか?」
「うん。見てない。起きてる時に見るものもない」
「じゃあ、それって! もう未来や過去の夢を見ないってこと? 何が起きたんだよ?」
涼は興奮気味で聞いてくる。
「高校生くらいの女の子と男の子がやったみたい。彼女達が具体的に何をしたのかはわからないけど。ずっと計画していてその日に、雪の降るクリスマスに決行したみたい。もうどこにもこんな能力を持った人間はいない。世界中だって。男の子が呟いてたの雪の中『世界の終わりを終わりにしたんだ』って」
「じゃあ、もう唯!」
「そう、多分もうこれで終わり」
話さなきゃ。涼に。ちゃんと。
「涼、今まで私のこの能力で見たものに終止符を打つ為に協力してくれてありがとう。まだ手帳にはたくさん残ってるけど、なかなか難しいからね。犯罪を立証するのが。もう十分に助けてもらった。涼は涼の好きな道を選び直して」
ここまでしか言葉が出ない。涼は自分に付き合ってくれていた。あの日涼を助けて全てを話したあの日から。
「唯。僕がここまで唯ときたのは、恩返しのためじゃないよ! 自分の意思だよ。もう僕は自分の未来を選んでる。唯を選んでる」
涼は半分怒りながら、半分呆れて言ってる。
「うん」
不安で仕方なかった。はい。これで終わりなんだと言われるんじゃないかって。涼はそんな奴じゃないのに。やっぱり不安になる。出会いが出会いだったからだろうな。涙が頬を伝う。安心した涙、嬉し涙、その両方の涙。
「唯、あのさ……俺は唯が好きだ。だから、助けてあげたいし一緒にいたい。それじゃあダメか?」
「ううん。いい。いいです。涼の気持ち疑ってごめん。ごめんね」
***
唯って本当変わってる。出会いから何から何まで。能力があったせいって訳でもなさそうだ。もともとの性格なんだろう。今は横で静かに眠る唯。どうかこれから悪夢にうなされてる唯をそのまま抱きしめて過ごす日が来ませんように。世界の終わりは終わっといてください。
唯の手帳を見る。唯はこれからもこの難問に挑み続けるだろう。だけど、もうこれ以上増えないならまだ救いはある気がする。そう、終わりがあるんだから。
***
アリスへ
まだ幼いアリスを残して死を迎えるばかりか、あなたにこの研究を引き継がせるなんて、辛くて仕方がありません。そのためにアリスには厳しくしなければならなかったことも、そして千里眼を持ち苦しむアリスを見て、未来を変えようと何度もあがきました。
全てが無駄に終わり諦めた頃、あなたにヒントを残してる未来を見るようになりました。少しでも手助け出来ればと思い、色々な事をして来ました。それでもあなたを巻き込むしかなかった事を悔やんでいます。もう少し母親としてあなたに接してあげたかった。もっと一緒にいてあげたかった。
最後に出来る事は何か思い悩んでいたら、さっき未来を見ました。私の手紙を読むあなたを。アリス、クリスマスに発動させた計画は世界中に広まっています。もう大丈夫。
外に出てみなさい。お母さんからのクリスマスプレゼントです。
母より
これが私が見た雪の日の映像で少年が持っていた手紙だった。少女はアリスというんだろう。少女の母親は私と同じ未来を見る力があり、少女は千里眼を手に入れた。きっと少年達に協力してもらって、この力をなくす計画を実行したんだろう。母親は少女、娘が苦悩する姿を何度となく見てきたんだろうな。少女の涙がすべてを語っている。そして、それを見つめる少年達も。
【完結】世界の終わりの終わり〜雪が降る〜 日向ナツ @pupurin
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