第七十六話 戦いの果てに!

 俺達の攻防は続いている。

 誰一人気を抜かずに一撃に全身全霊を賭けて戦う。

 俺達四天王はもちろん、勇者四聖もまた全力で戦っている。


「はぁぁぁ!」

「んぎぃ!」


 四聖サリーシャの一撃を受け止める。

 俺の両腕に深い傷が出来あがった。

 これで少しの間、腕が使い物にならない!


「もらったわ!」

「なんのぉぉぉぉっ!」


 魔力を解放してサリーシャの剣を頭で弾く。

 こめかみから飛び散る自分の血が一瞬見えた。


「くっ! どうして倒れないの!?」


 サリーシャはいくら攻撃しても倒れない俺に、不気味さを感じているようだ。

 疲れはあるが、傷ができてもすぐに治るからね!

 そう簡単には倒れないさ!


「昔の俺とは違うんだよっ!」


 闇魔法を使用し地面から現れた大きな黒い鎌で攻撃する。

 少しずつではあるが、こっちの攻撃は確実にサリーシャにダメージを与えていた。

 このまま押し切れそうだぞ!


 俺は勝てる予感がしてきていた。

 しかし、傷を負っているのは四聖側だけじゃない。

 俺を除く皆が、時間と共に傷ついていく。


 特に四聖アルトと戦っているオトラシオの消耗は激しいだろう。

 加勢しに行きたいが、まずは目の前のサリーシャをなんとかしないと!


「どこを見ているの!」

「あぶふっ!」


 皆の様子を確かめようとした隙に、腹を思いっきり蹴られた。

 いかんいかん、集中して魔力解放を使わないと負けてしまう。

 痛む腹を押さえて前に出る。

 同時に黒い矢を放ち攻撃した。

 数本避けられたが、また少し傷を負わせることができた。


 せめて一人でもやっつけれると良いんだが。

 エレナが一番の狙いどころだけど、守りが硬すぎる。

 アルトとライカはそう簡単には倒せないだろうし。

 となると、やっぱり俺がサリーシャを倒すしかない!


 まだ傷はあるが、もう動かせる。

 片手で持てる大きさの黒い鎌を出して、俺はサリーシャに接近した。

 とにかく攻撃を当てろ!

 そうすれば勝てるんだ!


 がむしゃらに両手の鎌を振り回す。

 避けられ弾かれ、なかなか攻撃は当たらないが、それでも手を止めない。

 やがて俺の持つ鎌が彼女の太ももに突き刺さった。


「痛ぅぅっ!」


 サリーシャがバランスを崩す。

 よし、勝った!

 もう片方の手に持つ鎌を、高く振り上げた瞬間、腕が飛んだ。

 背後を振り返ると、いつの間にかライカの姿があった。


「ざ~んねんだったな。四天王最弱」

「四聖……ライカっ!」


 ライカとサリーシャに挟まれた!

 まずい、逃げないと!

 地面に落ちる腕を無視して、俺は横に跳んで転がった。


 すぐにフローネが、風の魔法で援護してくれたおかげで、とどめを刺されずに済んだ。

 体勢を立て直したサリーシャも標的を俺からフローネに移す。

 ライカとサリーシャの攻撃を凌ぐフローネの元にコルペリアルが加勢に向かう。


 くそっ、やっぱり強い!

 でも皆がんばってるんだ、俺もがんばらなきゃ!


「きゃあっ!」


 背後からオトラシオの短い悲鳴が聞こえて振り向く。

 エレナの魔法なのか、アルトが先程までよりも鋭い攻撃を繰り出し、オトラシオは体勢を崩す。

 俺はオトラシオの方へ向かって走りだし、彼女に体当たりした。


 次の瞬間、ぶんっと剣を振るう音がして、体に痛みが走った。

 魔力解放は完璧だったはずだが、俺の体が両断される。


「ぐああああああっ!」


 上半身がぐしゃりと地面に落ちる。

 でも、終われない、ここで終わるわけにはいかない!

 俺はアルトの両足をがっしりと抱え込む。


「くっ、何がお前達をそこまで……! お前達魔族は何のために戦ってるんだ!」


 アルトが逃れようともがくが離さない。

 何のため?

 そんなの、決まっている!


「残された者の……未来のためだぁぁぁぁっ!」


 俺が叫ぶのと同時に、オトラシオがアルトに飛びかかり、彼に渾身の一撃を食らわせた。

 四聖アルトの体が傾き、背中から地面に倒れる。

 勝った、この戦い俺達の勝ちだ!


「ガスト!」


 ハーマイアが泣きながら駆け寄ってきた。


「ガスト! 死んじゃダメ!」

「はぁはぁ……大丈夫、すぐにくっつく」


 俺は下半身と上半身をくっつけて仰向けに寝転がる。

 ハーマイアが俺にしがみついて大声で泣き出すと、辺りから聞こえていた激しい戦いの音が消えた。


「……どうして皆、傷つけあうの……どうして……」

「……ハーマイア」


 首を動かして辺りの様子を伺う。

 四天王も四聖もハーマイアを見つめていた。


「皆、終わりにしよう。ハーマイアが泣いている」


 俺達の死闘はハーマイアの涙によって終わりを迎えた。





「それでは、魔王軍が戦いを始めたのは、その子のためだというのか?」


 意識を取り戻した四聖アルトの質問に俺達は頷く。


「私達も知ったのは戦いが始まる直前です」

「魔王様が、すでにお亡くなりになっていたと知ったのも最近のことよ」


 俺達は四聖に全てを話した。

 魔王様は始めからいなかったこと、アズガント様はハーマイアのために戦いを始めたこと、そして魔族が滅びる運命にあること全てを。


「人間と魔族は、戦う必要なんてなかったのかもしれませんね」


 エレナがハーマイアを見てそう言った。


「でも魔族が戦いを仕掛けてきたのよ。私達は世界を守る為に戦って……」

「どっちも間違っていたんだろう」


 サリーシャの言葉をアルトが遮る。


「初めから無益な戦いだったんだ。人間も魔族もそれを認めなければならない」


 アルトの言う通りかもしれない。

 俺達魔族にも悪いところがあったんだ。


 俺はハーマイアを抱きしめる。

 どうすれば良いんだろうか。

 ハーマイアを泣かせないようにするにはどうすれば。

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