第七十四話 託されたもの!

「何もないようにみえるわね」

「それがそうじゃないんだ」


 しゃがんで手をかざすと、やっぱり魔力が流れているのを感じる。

 順番に手をかざして確かめる。


「本当だね、ここだけ魔力が流れてる」

「ハーマイアはどうしてこれに気付いたのですか?」


 そういえばそうだな。

 なんで彼女にはここに何かあるとわかったんだろう。


「……ここだけ懐かしい感じがした」


 つまり、アズガント様の魔力を感じ取ったというのか。

 まだ小さな子なのに、実はすごい魔族なのかもしれない。


「でも、触れても何も起きませんね」

「……足りないのかも」

「ん? 何が足りないのー?」

「……魔力が足りないのかも」


 フローネはハーマイアの言葉に従って魔力を注ぎ込む。

 しかしやっぱり何も起こらない。

 まだ足りないというのだろうか?


 全員しゃがみ込んで床の一部に手を当てる。

 そして魔力を全力で魔力を流し込んだ。


 ごん!


 何か音がしたぞ?

 辺りを見てみると、アズガント様が何かをしていた部分が光を放っている。

 全員が手を離し光を見に行こうとしたが、すぐに光は消えてしまった。


「どうなってるんだ?」

「手を離すとダメみたいだねー」


 同じことを繰り返し、もう一度光を出現させる。

 次は俺が見に行くことになった。

 ゆっくり床から手を離すが、光はまだ消えていない。

 どうやら成功のようだ。


 光のところへ行くと、壁の一部が開き中に水晶が入っている。

 そっと触れて魔力を込めてみる。

 しかし何も起こらなかった。


「こっちも一人じゃダメみたいだな」

「まず何人が離れられるか確かめてみましょう」


 オトラシオとコルペリアルが床から手を離す。

 仕掛けは動いたままだ。


「大丈夫みたいだな」

「フローネちょっと待っててね」


 オトラシオとコルペリアルが水晶に触れる。

 すると水晶が輝きだして光が天井へ延びていく。

 次はあの部分に触れればいいのかな?


「今度は私が残るわ」

「じゃあ、ガスト持ち上げるから一緒に」

「ああ、頼んだ」


 オトラシオに抱きかかえられて、天井まで飛んで行く。

 俺とオトラシオが天井に触れると、そこからまた光が伸びて床の一部を照らした。

 天井から降り光る床に触れて魔力を流し込んだ。


 次の瞬間、部屋の奥にある遺跡の一部が光を放ち、文字が浮かび上がった。


「こんな仕掛けになっていたのか!」

「私達が揃っていなくては、動かない仕組みになっていたのですね」

「早くアズガント様の残した言葉を見るわよ」


 俺達は触れている手をを離して、文字の浮かび上がった床に近づく。


 ――ここに記すのは、私が部下達に隠していた秘密と真実――。


 あの神殿で見たものと同じ始まり方だ。

 間違いない、アズガント様の残したメッセージだ!


 ――魔族の未来が決定した時、私は一つの目的のためだけに人間達に戦いを挑んだ。それは魔王様が残した最後の光を、この世界で生きていけるようにするための戦いだ――。


 最後の光……ハーマイアのことだ。

 アズガント様は、ハーマイアのために魔王様の領土を取り戻した。

 俺達は彼女が生きていける場所を得るために戦っていたのか。


 ――我等魔族の運命はすでに決まっている。ならばせめて、その瞬間まで、あの子が生きていける場所だけでも守り抜きたかった。しかし私は、願いを成就する前に、この世を去っているだろう――。


「……アズガント」


 アズガント様の残したメッセージに、涙を流すハーマイアを抱き寄せる。

 魔王様のためではなく、全てはこの子のための戦いだったんだ。


 ――私が最後にできることは残された者達を自由にすることのみ……残された者達よ、これからはお前達自身で道を選ぶのだ。後悔のない道を――。


 残されたメッセージはそこで終わっていた。

 俺達は立ち上がりお互いの顔を見合った。


「これが、アズガント様の残した答え……」

「私達自身で決める、のですね」

「でも、何をすればいいの……?」


 アズガント様は、俺達に決めろと言っているんだ。

 じゃあ、答えは簡単じゃないか。


「俺は、アズガント様の意思を継ぐ!」

「……ガスト」

「それだけじゃない、残された部下や俺達が、楽しく生きていける未来にしてやる!」


 俺の言葉が皆にどう聞こえたかはわからない。

 でも、皆は俺の顔を見て答えを出してくれた。


「そうだね、楽しい未来が良いね!」

「例え、私達魔族が滅びる運命でも」

「そうと決まればここにはもう用はないわ」


 皆に伝えに行こう。

 俺達のこれからを。


 帰ろうと振り向くと、部屋の入口から声が聞こえてきた。

 この声は……聞き覚えがあるぞ。

 俺達はハーマイアを背中に隠して構える。


「フローネ、コルペリアル、ガスト、戦闘準備」

「はい、まさかここに現れるなんて……っ」

「今度は負けないわ。四天王が揃っているんですもの」

「ハーマイア、下がってるんだ」


 入口に現れたのは四人の人間。

 間違いない、四聖だ!


 四聖は俺達に気が付くと、すぐに武器を抜いた。

 また彼等と戦わなくてはいけないのか!

 でも、なんとしてでも勝たなければいけない!

 勇者四聖を倒すことが俺達の第一歩だ!

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