第七十二話 告白!

「ハーマイアが、最後に残された一人!?」


 俺達はハーマイアを見る。

 彼女はただ黙って俯いていた。


「そのことは知っていたのか、ハーマイア?」

「……ううん」


 つまりアズガント様は、俺達だけではなく、彼女にもその事実を秘密にしていた。


「私達が滅びる運命って……」

「そんな……」


 コルペリアルもフローネも言葉を失っている。

 落ち着け、冷静になれ。

 まだ何かあるはずだ。

 じゃないと、あんまりじゃないか。


 周りの様子を見ると、神官達が俺達を怪しんでいるようだった。

 此処は危険だ。

 とにかくこの場を去ろう。


「とりあえずここを離れよう」


 俺達は神殿から離れ、街の郊外へと向かう。

 その間、誰一人何も話さなかった。

 皆、何を考えているんだろう。


「私達は、何のために戦っていたの?」

「それは……魔王様の領土を取り戻すために」

「でも、魔王様は初めからいなかった!」


 コルペリアルが悲痛な声に、俺は黙り込んでしまう。

 魔王様の領土を取り戻すというのは嘘だった。

 それなら何故アズガント様は戦っていたんだ。

 まだ、まだ何かある気がする。


「落ち着きなさい、コルペリアル。魔王様がいなくとも、滅びる運命にあろうとも、私達はまだ生きているのです!」

「……オトラシオ」


 オトラシオは目に涙を浮かべながら、それでも強く振る舞った。

 そうだ、俺達はまだ生きているんだ!


「オトラシオの言う通りですね。アズガント様が残された言葉はきっとまだあります」

「俺もそう思う。残りのメッセージを探そう。そこに答えがあるはずだ」

「そうね……ごめんなさい」


 しかし残りのメッセージはどこにあるんだろう。

 一度拠点に帰って話し合おう。

 俺達は転送魔法を使い拠点へと戻る。


 あーしかし、過酷な真実って、最初のメッセージで書かれていたけど、こんなに重大なことだったとは。

 胃が痛くなってきた。


「この事実を部下の皆さんに伝えるべきでしょうか?」


 フローネの質問に皆それぞれ考える。

 知れば部下達は混乱するだろう。

 だけど、知らずに滅んでいくのは、果たして幸せなのだろうか。

 俺なら嫌だ。

 その事実を共有し、それまでの時間を大切にして生きていきたい。


「俺は伝えるべきだと思う」

「私もガストと一緒。知らずに終わるなんて嫌」

「では、全ての部下を一度魔王城に集めましょう。そして真実を話しましょう」


 結論を出した俺達はすぐに、部下達を魔王城へと準備に取り掛かった。

 オトラシオ、フローネ、コルペリアルは自分達の拠点へと転送する。

 俺もアシクを守っている部下達を、一度拠点に連れてきた。


「それじゃあ皆、これから魔王城へ向かう」

「何かあったのですか、ガスト様?」

「ああ、重大な話があるんだ。他の四天王もそれぞれ部下を連れて、魔王城へ向かっている。それじゃあ転送を始めるぞ」


 俺は何度かに分けて、部下達と人間兵達、それにメイド達を魔王城へと送った。


 魔王城の大広間に全ての部下が集まっている。

 俺達四天王が揃うと、ざわついていた部下達が静まり返った。


「これから話すのは、私達魔族の未来についてだ!」


 オトラシオが前に出てそう告げる。

 皆がオトラシオの言葉に耳を傾ける。

 彼女は続けた。


「私達四天王は、アズガント様の遺言を見つけ、とある真実に辿り着いた!」


 部下達が再びざわつく。

 真実という言葉の意味を互いに話合っていた。


「皆、静粛に。オトラシオの話を聞いてください」


 フローネの言葉に部下達は静けさを取り戻す。

 さて、この後だ……真実を知った皆はどんな反応を示すのか。


「我々が今まで戦ってきたのは、魔王様のためだった! しかし、アズガント様の遺言にはこう書かれていたのだ。魔王様は私達が戦いを始める数年前に、すでにお亡くなりになっていたと! そしてアズガント様も二年前の戦いでお亡くなりになっている!」


 集まった部下達全員が、俺達に向かって質問を投げかけてくる。

 声と声が重なり合って、どんな質問なのかわからない。

 オトラシオは更に続けた。


「そして、魔王様がいなくなった今、私達魔族の新しい仲間はもう増えることはない! 私達魔族は、いずれ滅びる運命にある! 私達はこの事実を受け止めなければならない!」


 オトラシオの声に段々と泣き声が混ざっていく。

 それでも彼女は最後まで言い切った。

 部下達や、人間兵達、メイド達はしんと静まり返る。

 皆、口を開けて言葉を失っていた。

 俺達だってそうだったんだから仕方ない。


「それって、どういうことですか……オトラシオ様」

「俺達はこれからどうなるのですか……?」


 また部下達が混乱して騒ぎ出す前に、俺は前に出た。


「どうなるかはわからない! それでも俺達はまだ生きている!」


 言葉が思いつかない。

 何て言えば皆を励ましてあげられるのだろうか。


「俺達はこれから何のために戦えば良いんだ……」

「魔王様がいない以上戦う理由なんて……」


 悲壮な声が聞こえてくる。

 誰もが、同じ言葉を繰り返し、魔王城の大広間の空気は、どんよりと暗くなっていった。


 アズガント様の残りのメッセージを見つけなければ。

 きっとそこに答えがあるはずだから。

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