第十六話 爽やかな朝だよ!

 魔王城から拠点に移動して一日が経った。


「じゃあ、まだ建ったばかりだけど、掃除をしてもらえるかな」

「はい」


 ユーリとロンダは、今のところ俺の言うことを聞いている。

 二人共怖いものがあるから、そう簡単には逆らったりしないだろう。


「じゃあ、俺は部下達のところへ行ってくるよ」

「いってらっしゃいませ」


 館から部下が駐屯している場所までは徒歩だ。

 転送魔法を使っても良いのだが、拠点周辺の地理を覚えるためにも歩いて向かう。

 涼しい風が頬を撫でる。

 気持ちの良い朝だ。

 今日は良い事がありそうな気がする。


 舗装されていない坂道を下っていくと、部下達が駐屯している場所が見えてきた。


 がちん。


 音と共に足に激痛が走る。

 慌てて下を見ると、そこにはトラバサミが仕掛けられていた!


「捕らえたぞ!」

「奴は今動けない! 全軍突撃!」

「うおおおおおおっ!」


 ちょっと待って!

 今日はやけに早くない!?

 朝だよ! まだ朝なんだよ!

 君達何やってるの!?


 十数名の部下達が叫びながら突撃してくる。

 トラバサミを外そうとするが、焦って上手くいかない。


 くそう、せっかくの爽やかな朝をぶち壊されてたまるか!

 俺はトラバサミに挟まれたまま構える。


「目標が戦闘態勢に入った! 注意! 注意!」

「構わん突撃だ!」


 接近されると厄介だ。

 ここは魔法で片付けてやる!


 標的、つまり突撃してくる部下達に向かって手を伸ばすと、すかさず雷の魔法を放った。

 閃光が迸り直後にバチっと激しい音が鳴り響く。

 まずはそれで先頭を走っていた四名の部下を沈黙させた。

 よし、次だ!


 俺がもう一度魔法を放とうとすると、部下達は倒れた仲間を盾にして突撃してくる。


「接近すれば俺達の勝ちだ!」

「進めぇぇぇぇっ!」

「そうきたかーっ!」


 今度は得意とする闇の魔法を使う。

 俺の背後に現れた黒い球から黒い矢が放たれる。

 矢は曲線の軌跡を描いて部下達を襲った。


「ぐわぁぁぁ!?」


 狙ったのは前ではなく、後ろを走る盾を持ってない部下達だ。

 また四人が倒れ、残り四人となった。

 しかし、俺は彼等に接近を許してしまう!


「殺ったぁぁぁぁっ!」


 俺は頭を左腕で守るが、部下の持つ斧は軽々と俺の腕を切断した。


「痛えぇ! おのれーっ!」

「今がチャンスだ!」

「一気にカタをつけろぉぉっ!」


 四方向からの同時攻撃。

 トラバサミに足を挟まれている俺は、避けることができない!


「この愚か者共がー!」


 俺の足元にもわもわと黒い瘴気が漂う。

 部下達はが気付いた時には、もう遅かった。

 黒い瘴気は、四本の巨大な鎌の形になり部下達を切り裂いた。


「ぎゃあああああっ!?」

「ぐわぁぁぁぁぁっ!」


 ばたりと倒れる部下達を見下ろして、決め台詞を放つ。


「これが四天王が一人、不死のガストの力だ! 愚か者め!」


 決まった……。

 勇者相手には効果が薄い攻撃魔法も、部下が相手ならこんなものである。

 さて、倒した部下達を治療するために、誰かを呼んでこないと。


 片腕でトラバサミを無理やり外して移動を開始する。

 危うく爽やかな朝を、めちゃくちゃにされるところだった。


 部下達が駐屯している場所に到着すると、早速救急班を向かわせた。

 それから周りにいる部下達に挨拶をする。


「おはよう、爽やかな朝だな」

「チッ、先行部隊は失敗したか」

「使えない連中だ」


 君達は相変わらず酷いね!

 仲間を何だと思ってるんだ!

 後、俺を何だと思ってるの!?


「ガスト様! おはようございます!」

「おはようポッコ」

「そのお姿! 如何なされたんですか!?」

「ああ、そこでバカ達に襲われたんだ」

「先輩達ですか……」


 ポッコは理由を聞いて深いため息をつく。

 リーダーではあるが、先輩部下達は、なかなか言うことを聞いてくれないのだろう。

 おまけにグルドンという、強力な味方をつけたのだからますます手に負えない。


 でも、俺が今後しっかりすれば、いつかはわかってくれるだろう。

 その後、エザラス奪還の作戦を練るために、ポッコ含む数名の部下を連れて館に戻った。


「おかえりなさいませ、お館様」

「お館様?」


 館に戻った俺にユーリ達は王言って出迎えてくれる。

 しかしなんだろうお館様って?


「呼び名がないと不便だと思い、ロンダと二人で考えたんですが……気に入らないなら別の呼び方に変えます!」


 館の主だからお館様か。

 皆俺のことを四天王だと忘れている気がするが、せっかく彼女達が、選んでくれたんだから素直に喜んでおこう。


「わかった、今日から俺はお館だ」

「はい、お館様」


 ユーリがにっこりと笑う。

 少しだけ彼女との距離が近づいた気がした。

 それに人間の笑顔もなかなか良いものだと気付く。

 やっぱり笑顔って大切だなぁ。


 俺達は館の一室の広い部屋を、作戦会議本部と名付けて使用することにした。


「それじゃあ、エザラス奪還の会議を始めよう」

「はっ」


 ポッコ達部下数名が敬礼して席に着く。

 するとユーリとロンダはすぐにお茶の用意をしてくれた。


「ありがとう」


 俺が礼を言うと彼女達は、ぺこりと頭を下げて退室する

 うん、美味しいさすが元勇者。


「ガスト様、最初に攻め込む場所は、もうお決まりなんでしょうか?」

「ああ、同時に攻略して、早くケリをつけたいところだけど、やっぱり順番に、確実に攻略していこうと思う」


 まずは現在地から東にある、アシクから攻めることを説明した。

 そのためには先に偵察をした方が良いという意見もありそれも取り入れる。

 偵察には逃げ足の速い先輩部下から選ぶことになった。

 彼等だけに任せるのは不安だが、偵察だけだからなんとかなるだろう。


 こうして俺達のエザラス奪還作戦が始まった。

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