第十四話 彼等の仕事はこれ!

 俺は元勇者の三人を連れて館に戻ってきている。


「ここでメイドをすればいいんですか……?」

「そういうことに、なるのかな?」


 正直オトラシオが、何を考えてメイド服なんて、着せようと思ったのかわからない。多分、俺の身の回りの世話を、させようとしたんだろうけど。


「私は戦士なのに……なんて屈辱」

「転職したと思って諦めてください」


 とりあえず彼女達の仕事は大丈夫だろう。

 次にグルドンには何をしてもらおうかな?

 そういえば彼もすごく強かったな。


「グルドン、君には部下の訓練をしてもらいたい」

「断ると言ったら?」

「困る」


 まさか断られるとは思わなかった。

 部下達を強くすることができれば、エザラス奪還も楽になるんだけど。


「ガスト、そこはもう少し強く言っても良いのではないでしょうか」


 振り返るとフローネが転送魔法でやってきた。

 ふわりと地面に降り立ち俺と人間達に微笑みかける。


「はじめまして。私は魔王軍四天王フローネと申します。グルドン、貴方には今ガストが言ったように、兵の訓練をしてもらいます。貴方達人間と同じく我等魔族も必死なのです。わかってください」


 グルドンはじっとフローネを見つめていた。


「はい、喜んで!」


 どういうこと!?

 俺の時は断って、フローネのお願いなら即答で了承なの!?

 男女差別だよ!

 でも引き受けてくれたから良しとしておこう。


「では、私が彼の部下のところまで案内します」

「お願いするよ。俺が行くと、皆が本気で殺しにかかってくるから」

「それでは行きましょう。グルドン」

「はいっ!」


 フローネとグルドンは館から出て行った。

 彼もまたフローネの美しさに心を奪われたらしい。


「グルドン……」

「あの裏切り者……!」


 うわぁ!?

 二人とも顔が怖いよ!?


「と、とりあえず、お腹がすいたので食事の準備をおねがいします!」


 嫌そうな顔をする彼女達とキッチンへと向かう。

 なかなか広くて使いやすそうなところだった。

 もっとも俺は料理なんて作れないけど。


「何をお作りすれば……?」

「君達が食べたいもので良いよ」


 ユーリの質問に答えると、彼女達は驚く程てきぱきと動き始めた。


「それじゃ俺は館の中を、見てくるからできあがったら呼んでくれ」

「はい」


 二人に背を向けてキッチンから出ようとする。


 ぶすり。


 何かが俺の背中に刺さった。

 首だけ振り返ると、ロンダが手に包丁を握っている。

 刺された!

 きっといつか襲われるとは思ってたけど、いきなり刺された!


「痛ええええええ!」


 床を転がりまわる俺の体に更に包丁が突き刺さる。


「はぁ、はぁ……逃げるわよユーリ!」

「で、でも!」


 ロンダは逃げる気らしいが、ユーリは躊躇っていた。

 多分俺達に捕まった場合の処罰が怖いのだろう。

 どうする、このままでは逃げられてしまう!

 脳みそをフル回転させて俺は二人を脅すことにした。


「に、逃げたら頭の刑にします……」


 その言葉にユーリはびくっと体を震わせる。


「頭の刑……いやああああああっ!」


 あの時の記憶が蘇ったのかユーリはその場に座り込んだ。

 効果抜群じゃないか!

 ユーリにはこれからも頭の刑で働いてもらおう。


 しかしロンダは動じない。

 このままでは逃げられてしまう。

 彼女はユーリを置いてキッチンのドアから外に飛び出した。


「きゃああああああっ!」


 直後にロンダと思われる女の叫び声が聞こえる。

 一体何があったんだろう?


 ずりずりと匍匐前進でキッチンから出ると、そこにはロンダを捕まえているコルペリアルの姿があった。


「ごふぅ……コルペリアル、どうしてここに?」

「ガストのことだから、刺されたりしてないか心配で来てあげたのよ。はぁ、やっぱりこんなことになってるのね」


 コルペリアルは包丁を奪い、右手でロンダの首を締めあげている。


「このバカ女……よくもガストを」

「ぐっ……!」

「ガスト、こういうバカは恐怖で躾ないとダメよ」


 魔力がコルペリアルから流れてくるのがわかる。

 彼女はロンダを少し浮かせると、足の先からじわじわと凍らせた。

 膝の上まで凍ったところで、コルペリアルはロンダを脅す。


「このまま床に叩きつければ、貴女の脚は砕けるけど、私達の言うことを聞くのと、脚が無くなるの、どっちがお好みかしら?」

「ひっ!?」


 ロンダの顔が恐怖に凍り付く。


「わかった?」

「わ、わかりましたっ! すみませんでした!」


 答えを聞いたコルペリアルはにっこりと笑う。

 今のやり取りをドアの陰に隠れてユーリがこっそりと見ていた。

 えっとですね。

 踏んでます。ユーリさん、俺の体踏んでますよ!


「そこに隠れてるメイドさん。私は炎の魔法が使えないから、お湯を持ってきてあげなさい」

「ひぃ!? は、はいぃ!」


 ユーリは走ってキッチンに戻っていく。

 だから俺を踏んでいかないでください。お願いします。


「次、ガストに何かしたら、殺すからね」

「は、はい!」


 コルペリアルは、ロンダをゆっくり廊下に横たえると、俺の前でしゃがみ込む。それから傷の程度を見て、安心したようにため息をついていた。


「このくらいならすぐ治るんでしょ?」

「ああ、大丈夫だ。痛てて」

「それじゃ、私は帰るから」


 そう言い残してコルペリアルは転送魔法を使って帰っていった。

 もうこんなことがないように、上手くやっていかないとなぁ。

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