第十二話 新しい任務はエザラスで!

 俺の拠点の建設が始まってしばらくが経つ。

 もうすぐ俺の拠点が復活する。

 会議中にそんなことばかりを考えていた。


「ガスト、聞いてますかガストー?」

「はっ!?」


 オトラシオに注意されて、俺の意識は妄想の世界から、現実世界に帰ってきた。

 全然聞いていませんでした。すみません!

 俺は背筋を伸ばして椅子に座り直す。


「これが今のエザラスの状況です。以前ガストが守っていた砦を、人間達が修復、利用しています。ガストの当面の目的は、この奪われた拠点の奪還となります」

「それをガスト一人で成し遂げるのは、正直難しいかと思います」


 コルペリアルが厳しい指摘する。

 実際その通りなので、俺はうんうんと頷いた。


「もちろん私達もバックアップします」

「私もできる限り協力します」


 コルペリアルが、自分から手伝うなんて言うとは思わなかった。

 例のランガード戦以降、少し優しくなった気がするのは気のせいかな?

 なんて彼女に言うと怒られそうだから聞かないでおこう。


「続けます。ガストの新たな拠点はここになります」


 オトラシオはエザラスの一点に四角い駒を置いた。

 エザラスの南の山の中だった。

 こんなところから、攻めていかないといけないのかー。

 部下の不満が爆発しそうだ。


「どこをどのように攻略していくかは、ガストに一任します」

「マジですか」

「マジです」


 俺の作戦は今までことごとく失敗してきたからなぁ。

 不安でお腹が痛くなってくる。

 でも皆がバックアップしてくれるなら、なんとかなるかもしれない。


「それと、ガストにはもう一つ新しい任務に就いていただきます」

「え、新しい任務?」


 なんだろう?


「先のランガード戦で捕らえた人間と共に行動してもらいます」

「え、何のためにですか?」


 俺の質問にはアズガント様が答えてくれた。


「人間を兵として扱うのだ」

「兵士ですか」

「そうだ、我等魔族は人間達によってその数を減らしつつある。そこで人間を兵として扱い魔族の被害を、最小限に抑えるのが今回の試みだ。そのためにまず人間達と共に行動し奴等のことを知らねばならぬ」


 人間と一緒にか。

 嫌な予感しかしないです。


「しかし、それは危険ではないですか?」


 コルペリアルがもっともな質問を投げかける。

 俺も危険だと思うけどなー。


「もしもガストが、寝込みを襲われて殺されたりでもしたら……あ」

「そうだ、コルペリアルも、もう知っているだろう。ガストは死なん」

「あの、拘束された場合はどうすれば?」

「そのためにお前の部下が近くにいる。安心するが良い」


 部下達の普段の態度を鑑みるに、あんまり安心できないんですが。

 でもポッコやアニフォレッド達がいるから大丈夫か。


「これは不死であるお前にしか頼めないことなのだ」

「御意」


 他ならぬアズガント様の頼みなら、断ることなんてできない。

 しかし人間と一緒にかー、部下達が短気を起こさないように、気を付けないといけないなー。


「では、今回の会議はここまでだ」

「はっ」


 俺達は会議室から退出して、堅苦しい空気から解放された。


「ガスト、本当に大丈夫だと思う?」

「何がだ、コルペリアル」

「人間と一緒に行動するというあれよ」


 いやー、不安だけどやるしかないよね。


「何かあったら私が助けてあげるから、安心して掴まって良いよ!」


 オトラシオは笑顔でとんでもないことを言う。

 俺、捕まることが前提なんですね!

 まぁ、それでもオトラシオが、本気で助けに来てくれれば安心だ。


「そういえば、拠点に来る人間は何人なんだ?」

「予定されているのは、まず試験的に三人です」


 フローネが資料を見ながら答える。

 三人か、それなら危険は少なそうだ。


「ガスト、何かあればすぐに連絡をするのよ」

「お、おう。ありがとうコルペリアル」

「ふふ、コルペリアルも素直になってきましたね」

「だから、そんなのじゃないって、何回言えばわかるのフローネ!」


 俺達は解散してそれぞれの持ち場に戻る。

 と言っても、拠点が完成しないと俺の持ち場は無いのだが。





 二ヶ月程が経過した。

 季節は春から夏に変わり暑い日が多くなってきた。

 とうとう拠点も完成して、俺と部下達の移動も完了。これから新しい日々が始まろうとしている。


「これが、俺の拠点かー」


 うん、どう見てもただの館である。

 まさかこの館に、四天王の一人がいるなんて誰も思わないだろう。

 とりあえず中に入ってみよう。


 両開きのドアを開けると、二階まで吹き抜けの広いロビーが待っていた。勇者を倒すためのトラップがないか調べながら慎重に中に入っていく。どうやら罠も何もないらしい。つまりただの館だ。


「どう? 気に入ったガスト?」


 後ろからオトラシオが声をかけてくる。


「ああ、なかなか良い建物だ」


 後で人間をはめる罠を仕掛けないといけないな。


「でもほんとにいい雰囲気の館。私もここに住みたいな」

「俺はもっとロマンのある拠点がよかったよ!」

「あはは、エザラスを奪還できればすぐだよ。それじゃあ私も仕事があるから帰るね」

「ああ、またいつでも遊びに来てくれ」


 オトラシオは俺に手を振ると転送魔法で帰っていった。

 今日からここが俺の拠点だ。

 エザラス奪還のためにがんばらないといけないなー。


 俺は一度外に出ると、次に部下達のところに行くことした。

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