第二章

第十一話 拠点が欲しいです!

「今回の会議は以上ですが、質問等ある方はいますか?」


 フローネが会議の最後に全員に確認を取る。

 来ました! やっとこの瞬間が来ました!

 俺はそっと手を上げる。


「はい、ガストなんですか?」

「現在俺は拠点が無く、魔王城で退屈な日々を過ごしています。そこで、拠点を設けたいのですが!」


 オトラシオ、フローネ、コルペリアルの三人は、顔を見合わせて相談を始めた。

 お願いします! 俺も四天王なのに、すでに隠居生活みたいになってるのが嫌なんです!


「ランガードの修復をしているので、そんなに予算は出せませんが」

「まー、最近ガストも活躍してるからいいでしょう」


 フローネとオトラシオが承諾してくれた。

 俺は今にも踊りだしたい気分でいっぱいになる。


 どんな拠点にしようかな?

 今度は俺が倒れても崩れない拠点にしよう。

 勇者というのは、何故か都合よく仲間が現れて助かるからね!


「それでは後でガストの部屋に伺います」

「はい!」


 会議が終わると、俺はすぐに自室へと戻った。

 紙とペンを用意して未来の自分の城の紙に書いていく。

 迷路のような拠点が良いかな?

 城のように堂々としてるのも良いかもしれない。


 あれこれと考えていると部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼します」


 きたきたきたきた!

 ささ、フローネ、俺の拠点はどんなのが作れるのか教えてくれ!


 彼女をソファに座らせ、対面のソファに座る。

 フローネは拠点カタログを机の上に乗せて、パラパラとページを捲った。


「今ガストのために造れるのは……この辺りです」


 どれどれ?

 どんな拠点だろう。

 フローネが用意してくれるんだから、きっと綺麗な建物に違いない。

 体を乗り出してカタログを見てみると、そこには一件の館が載っていた。


 うん、綺麗な館だね。

 綺麗なことには違いない。

 でも、違うんだ。俺が求めてるのはもっと堅牢な建物なんだよ。


「フローネ、これは?」

「素敵な館だと思いませんか?」


 もう一度開いているページを眺める。

 うん、そうだね。素敵な館だねー。

 フローネを見るとにこにこと微笑んでいる。


 念の為もう一度カタログに目を通す。

 もしかすると、見た目は館だけど機能的には砦なのかもしれない。

 そこにはリビングやキッチン等の、詳細が書かれていた。


「これ、砦じゃないよね?」

「はい」


 困った笑顔で即答するフローネ。

 もしかするとなんて思ったけど、もしかすることなんてなかった。


「欲しいのはもっとロマン溢れる建物なんだけど」

「ガスト、貴方はこれまでにいくつもの拠点を制圧されました」

「う……」

「それに会議の時にも言いましたが、ランガードの修復でそれほど予算が出せません。納得がいかないようであれば今回は見送りに――」

「気に入りました! これが良いです!」


 あまりの拠点欲しさに思わず返事をしてしまった。

 しかし例え建物が、ダンジョンではなくただの館でも嬉しい。

 フローネは俺が承諾すると、次の話題に移った。


「ガストなら、快く受け入れてくれると思っていました。次に拠点をどこに配置するかですが、希望はありますか?」


 どの地域に拠点を設けるか。

 これは非常に悩む、というのも場所によっては、あっという間に勇者に占拠されてしまうからだ。

 かと言って僻地を選ぶと今度は仕事がない。


「おすすめはどこがある?」

「やはり、過去ガストの拠点があった場所。エザラス地域に配置し、あの地の奪還が望ましいですね」

「エザラスかー」


 正直あそこは良い思い出が無い。

 同じ勇者に三回負けたのもエザラス地域だ。

 今やあの地は人間達が支配している魔境と言っても過言ではない。


 できれば他の地域が良いが、それだと皆の拠点とかぶてしまう

 同じ地域に二つ拠点があっても仕方ないからね。

 それならエザラス地域に拠点があった方が色々便利だし!


「オーケー、エザラスで良いよ」

「わかりました。細かい場所はアズガント様と、相談して決めますね」


 できれば勇者の弱いところでお願いします!

 とにかく、これで後は拠点が完成するのを待つだけだ!


「そういえば部下達はどうするんだ?」

「その点はご心配なく。ちゃんと考えてありますよ」


 さすがフローネしっかりしている。


「では、私はこれからアズガント様の元に行ってまいります」

「はい、よろしくお願いします!」


 フローネが退室した後、俺は早速今回の件を部下達に話に行く。

 この時間はポッコ達が、他の部下を集めて訓練をしているはずだ。


 訓練場に行くと、丁度部下達は休憩をしているところだった。


「ガスト様!」


 ポッコが俺に気付いて駆けつける。

 今までほとんど、何もしてこなかった俺の部下達が、ちゃんと訓練している。これもポッコ達新米部下の指導のおかげだな。


「今日はいかがされましたか?」

「ふふふ、聞いてくれ、俺は再び拠点を持つことになったんだ!」

「おめでとうございます!」


 ポッコは部下達を呼んで俺のことを祝ってくれた。

 ただひとつ気がかりなことがあるようだ。


「我々はどうなるのでしょうか?」

「そこもフローネがちゃんと考えてくれているから安心してくれ」

「はっ」


 まだ詳しくはわからないが、部下達と離れることはないはずだ。

 俺の言葉を聞いたポッコ達は安心した表情を浮かべていた。


「ガスト様ともお別れか」

「長かったな」

「やっと転属できる!」


 勝手にお別れしないでよ!

 しかも寂しさとか全く感じないんだね!


「拠点の場所はどこになるのでしょうか?」

「エザラスだ」

「マジかよ……」

「また負け戦しないといけないのか」


 だから君達勝手に決めないで!

 今度はしっかり勝つようにするからさ!


 俺と部下達は、新しい拠点に胸を膨らませて今後のことを話し合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る