第十話 俺達勝ったんだよ!
うう~ん。
なんだろう、この妙に安心できる感覚は。
ずっとこうしていたいなー。
でも起きないと。
まだ戦いは続いてるんだから。
意識が戻ってくると、自分の頭が柔らかいものの上に、乗っていることに気付いた。
ゆっくり目を開ける。
最初に飛び込んできたのは、涙を流しているコルペリアルの顔だった。
「あ……」
コルペリアルは目を開けた俺の顔を見てそっぽを向いた。
頭を動かしてわかったが、どうやら俺は彼女の膝の上に頭を乗せてるらしい。
もっと筋肉質だと思っていたけど、結構女の子らしい柔らかさをしている。
いやいや、女の子の太ももの感触を、楽しみたい気持ちもあるが、今はそれどころではない。
「起きたなら、どきなさいよ」
「んあ、ああ、ごめん!」
横を向いたままの彼女の顔を、ちらりと見てから上体を起こす。
周りを見回すと俺の部下達が人間達を捕まえていた。
「勝ったのか?」
「見ての通りよ」
コルペリアルは素っ気なく言った。
あの瞬間、俺は勝ちを確信したけど、本当に勝ってたんだなぁ。
立ち上がって首を回す。
うん、ちゃんとくっついてる問題なしだ。
「どうして生きてるの?」
俺が生きることは悪いことですか!?
と、勘違いしそうになったが、コルペリアルの言っているのは、不死の能力のことだろう。しかし、どう説明すればいいんだこれ。俺にもどういうことなのか、さっぱりわからないしなー。
「とにかく生きてるから安心してくれ!」
「誰があんたの心配なんかするもんですか」
コルペリアルも立ち上がり俺達は、これからのことを話し合う。
「戦況は?」
「入口付近は制圧したわ。後はフローネの方ね」
そこではっと思い出す。
フローネに誘導された人間達は十八人もいるのだ。
「なんでコルペリアルはフローネの加勢に行ってないんだ!」
「それは……な、なんでもいいでしょ! ほらさっさと行くわよ!」
コルペリアルに促されて俺達はランガード洞穴から外へ出た。
外の光は眩しく思わず目を細めてしまう。
洞穴の外ではコルペリアルの部下達が待機していた。
「これよりフローネの加勢に向かう! 動ける者はついてきなさい!」
彼女の部下達は、すぐに隊列を組むと俺達の後追ってくる。
すげー。俺の部下達と全然違う。
フローネ達がいるのはここから向かって左側に見える森。
ここからでも彼女達が戦っている姿が微かに見える。
とにかく俺達はフローネの元へ急いだ。
うわぁ!
辿り着いた時、俺は正直驚いた。ぶったまげた。
今回の作戦でフローネは、保険として部下のほとんどを、魔界に置いてきている。ここに連れてきている部下はごく少数だった。
にも関わらず、彼女達は十八人もの勇者の内すでに十五人を倒していた。
「すげー」
「これは、見てるだけで良さそうね」
フローネは俺達の方を見て微笑んだ。
それから彼女は戦う者の表情に変わった。
三人の勇者が一斉に襲い掛かるが、フローネはまるで踊るように攻撃を避けていく。彼女も俺と同じく接近戦は、あまり得意ではなく主に魔法を使っての戦い方だ。
風の魔法で勇者を宙へ浮かせたところを、水の弾で打ち抜く。その後、勇者は風から解放されて、地面に激突して動かなくなった。
「もう、降参したほうがいいですよ」
彼女は残り二人の勇者に対して静かに告げる。
彼等も俺達に取り囲まれている状況で、最後まで戦う気力は残っていないようだった。
武器を地面に落とし彼等は降伏した。
こうしてランガード防衛戦は幕を閉じた。
「二人共、ご苦労様でした。どうやら二人もしっかり戦えたようですね」
「俺はいきなり首を斬られて動けなくなったけどね!」
「その後、いきなり動き出したのにはびっくりしたわ」
「俺も動けるとは思わなかった!」
フローネは俺とコルペリアルを見てくすくすと笑う。
何かおかしいことを言ったかな?
「でも、普通に戦ったら多分勝てなかった。あんたの奇妙な攻撃のおかげだわ」
「お、おう」
なんだなんだ、コルペリアルらしくないぞ。
いつもなら嫌味が連発するのに!
「コルペリアルも少しガストを見直したと言ったところですか」
「ば、ばか! そんなんじゃないわよ!」
「では、そういうことにしておきましょう」
フローネが悪戯っぽく笑うと、コルペリアルはぷんぷんと怒っていた。
あの、置いてけぼりなんですが、俺。
「フローネ様、帰還の準備が整いました」
「ええ、わかったわ。それじゃあ帰りましょう。私達の城へ」
城に戻った俺と部下達は大広間でのんびりと時間を潰していた。
「見ましたよね、先輩方! ガスト様の雄姿を!」
「あ、ああ……」
「やはりガスト様は我等の誇りです!」
ポッコ達が先輩部下に先の戦いのことを熱く語っている。
こうして褒められるのはやっぱり気分が良いなぁ!
「ガスト様の雄姿を見て、先輩達は何を思いましたか」
詰め寄るようにポッコ達が先輩部下に聞くと、彼等はこう答えた。
「すっげぇ、気持ち悪かった」
「いくらなんでもあれはちょっと……」
「潔く死んだ方が美しかった」
ちょっと待って!
俺、すごいがんばったんだよ!
そりゃ確かに頭持って走り回ってたけど、言い過ぎじゃないかな!?
傷ついた! 今俺すごく傷ついたよ君達!
「あんなの見せられたら飯がまずくなるんで」
「もっとちゃんとした戦い方を、身に着けてくださいガスト様」
普通に戦ったら負けるんだよ!
君達知ってるでしょ!
でもまぁ、今回も無事に勝てたし、コルペリアルも、普通に話してくれるようになったし、これで良かったことにしておこう!
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