第九話 頭は武器だ!

 はっ!?

 気を失っていた。

 俺は一体どうなったんだ?

 斬られたところまでは、覚えているけどその後の記憶がない。


 あれ、首が回らないな。

 仕方ない目だけで状況を確認しよう。


 ん?

 すぐ近くに首のない死体が倒れている。

 コルペリアルがやったのかな?

 と、思うところだが、あの服俺のじゃん。


 ということは。

 今俺は首だけの状態である。


 ……ちょ、俺の頭単独行動してるよ!?

 なにこれ、こんな状態でも死なないの俺!?

 一見どう見ても死んでるだろうけど、生きてます。割と元気です。


 あ、戦況はどうなってるんだ?

 コルぺリアル一人で大丈夫なのか!?

 視界には、自分の体しか映ってないから、周りの状況は音で判断するしかない。

 激しい金属音や魔法を使ってるのだろう。岩が崩れる音などが聞こえてくる。

 その中でコルペリアルの怒りに震えた声が聞こえた。


「おのれ貴様等……よくもガストを!」


 あ、一応心配してくれるんだね!

 本気で嫌われてると思ってたからすごく嬉しいよ!

 死んでないけどね!


 しばらく激しい戦闘の音が鳴り響いていたが、その音も段々弱くなっていってる気がした。

 一旦音が鳴り止むと、誰かがこっちに歩いてきた。

 この足音は女だな。

 すると俺の視界にコルペリアルの姿が映る。

 彼女は一人で戦い怪我をしていた。

 頭から流れてる血が痛々しい。


「このバカが……あんたが先に死んだからこんな結果になったのよ」


 弱弱しい表情のコルペリアルが、俺の首を見下ろして話す。

 すみません、ほんっとすみません!


 それはそうと、コルペリアルの短いスカートの間から、白い布地が見えてます。

 キツイ性格の割に可愛い下着を履いてるんですね。ごちそうさまです。

 これ、見てることがバレたら死刑よりも怖いものが待ってそうだ。


 コルペリアルは踵を返して再び戦いの場へ赴く。

 また激しい音が辺りに響き渡る。


 困ったなぁ。放っておけば治るとは思うけど、すぐにはむりそうだしなぁ。

 なんとか体を動かせればもう一度戦えるんだけど。

 視界に入る自分の死体をじっと見つめる。


 あれ動かないかな。

 俺は手を動かすイメージをしてみた。

 すると、微かではあるが肩がぴくんと跳ねる。


 おお!?

 今動いたよね、もう一度試してみよう。

 動けーと念じていると、今度は腕が少し動いた。

 動く動く!

 でも自由には動かないな。


 何か方法はないかなぁ。

 頭の中で腕を組むイメージを浮かべて考える。

 今俺の体は死体みたいなものだ。

 首がないんだから死んでるも同然。

 死体を動かすのかー。

 ううーん。


 あれ、俺死体動かすの得意じゃないか。

 伊達にネクロマンサーやってないよ!

 じゃあ俺の体もアンデッドを操る時と同じようにすれば……。


 意識を集中して体に命令する。

 動け、動け、動け!


 すると俺の体はがばっと起き上がった。

 おお、やっぱりそうだ!

 アンデッド動かす感覚でやれば俺の体もちゃんと動くぞ!


「きゃあああああっ!?」

「なんだあれは!?」

「ガスト!?」


 視界の外から様々な声が聞こえた。

 しまった、派手に起き上がったから気付かれたか。

 仕方ない、ここは強硬手段に出よう。


 俺は自分の体を操作して俺という名の頭を抱きかかえる。

 覚悟しろ人間達め!


 これが、俺の戦い方だぁぁぁぁ!


 右手で頭を掴んだ俺は、女勇者目がけて思いっきり投げつけた。

 さぁ、受け取れ! 俺からのプレゼントだ!


 女勇者は俺の頭をしっかりキャッチすると、悲鳴を上げて真上へと投げ飛ばす。

 全員が頭に気を取られている隙に、俺の体は全速力で走り出した。


「な、なんだこいつは!?」


 今度は全員が俺の体に注目して武器を構える。

 しかし、良いのか?

 よそ見をしていて!


 その隙を逃すコルペリアルではなかった。

 魔法で巨大な氷の刃を、出現させた彼女は、俺の体に気を取られている大柄な男勇者に氷の刃を全弾食らわせる。

 男勇者がゆっくりと体を傾けると、残りの三人が振り返った。


 更に隙!

 俺の体は落ちてくる頭をキャッチすると、再び女勇者の腕へ押し付けた。


「いやぁぁぁぁぁぁ!?」


 悲鳴を上げて俺の頭を遠くへ投げようとする女勇者。

 しかし、そこをすかさずディフェンス!

 俺は再び体の手の中に帰ってきた。


 今までアンデッドと戦ってきた人間達でも、首が取れた魔族が動き回るのは怖いらしい。

 震えて尻もちをついた女勇者に、首から垂れ流してる血をぼたぼたとかけてあげた。すると一人目の女勇者は、泡を吹いて気絶する。


 ちらりとコルペリアルに視線を移すと、銀髪の男勇者と格闘戦をしていた。

 俺が言うのもなんだけど、あの勇者は強い。

 コルペリアルでも勝てるかどうかわからない。


 彼女の心配をしていると、俺の頭にぷすっともう一人の女勇者が剣を突き刺す。


「はぁはぁ、これでどう!?」


 女勇者は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべるが、急所が外れているのか、今回は気を失わずに済んだ。

 ここで動いては八つ裂きにされるだけだろう。

 ならば女勇者の注意をコルペリアルに移す!


 俺は倒れるフリをしてゆっくりと体を傾ける。

 女勇者はその様子を見て、勝利を確信しコルぺリアルと、戦っている銀髪の勇者の元へ移動を始めた。

 倒れる寸前に踏ん張って体を起こす。

 そして、背を向けている女勇者の頭を目がけて、全力で頭の俺を投げ飛ばした。


 俺の頭は女勇者の後頭部に直撃して、女勇者はバタリと倒れた。

 よし、残るは銀髪の勇者だけだ!


 コルペリアルは苦戦していた。

 彼女程の腕の持ち主を相手に、銀髪の勇者は互角以上の戦いをする。

 氷の刃を出して応戦するコルペリアルだが、銀髪の勇者の攻撃で、氷の刃を砕かれ後退していく。


 待ってろコルぺリアル!

 今助けるぞー!


 俺の体は彼女を助けるために頭を拾い上げて走った。

 丁度その時、コルぺリアルの体勢が崩れ彼女は転んだ。

 銀髪の勇者は、一度彼女の眼前で剣の切っ先を止めると、大きく振りかぶって横薙ぎにコルぺリアルを斬ろうとした。


 俺はぎりぎりのところで彼女の前に立ちはだかり……!

 ちょっと待って! どうやって防ぐのコレ!


 俺の体は頭を盾にして攻撃を防ごうとする!

 違う、逆! 立場が逆だから!


 大きく口を開けて、そして噛んだ!

 剣が俺の口を切り裂きいたが、切断までは至らず、俺は銀髪の勇者の剣を齧っていた。

 俺の横を氷の刃を持ったコルペリアルが通り過ぎる。

 この瞬間、俺は勝利を確信した。


 体が後ろに傾いていく。

 俺は最後の力を振り絞って、右手で自分の頭を掴み天高く掲げた。


「うおおおおおおおおおっ!」


 ポッコ達の勝鬨が聞こえる中、俺の意識は完全になくなった。

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