第八話 ランガード防衛戦!
俺は続く腹痛を我慢してランガード洞穴防衛線に挑む。
「君達の役目は、俺とコルペリアルの後ろ、魔界への入口の防衛を任せる!」
部下達に今回の作戦を伝えると、彼等は珍しく真剣な表情をしていた。
ポッコ達を中心に編成したのが正解だったのかもしれない。
「コルペリアル様がいるのか……」
「これはサボれねぇな」
「怖いからなコルペリアル様は。その点フローネ様は優しくて……」
よーし! 我が部隊はいつも通りだ!
皆もうちょっと真面目に働こうよ!
給料貰ってるんだからさ!
ここは希望の新星ポッコ達に期待するしかない。
俺の期待通りに、ポッコ達は背筋を伸ばして俺の話を聞いていた。
「それでは、これよりランガード洞穴に移動する!」
「はっ!」
俺達は転送魔法を使いランガード洞穴に出る。
剥き出しの岩肌が、階段状の段差にになっていて、上の方に魔界へと続く扉が見える。洞穴自体は結構広めなので、派手な攻撃魔法を使われても、崩れることは無いだろう。
ただ、俺達が戦う位置から扉までの距離は近い。
しかし、ただここで待っているのも、それはそれで不安だ。
ここは誰かに戦況の調査に行ってもらおう。
先輩部下達を見ると、相変わらずやる気がなさそうなので、ポッコの同期であるアニフォレッドにお願いすることにした。
馬型のモンスターだからきっと脚も速いと思ったのだ。
「アニフォレッド!」
「はっ!」
「君は一時ここを離れフローネの戦況を見てきてくれ。人間達が何人フローネの誘導に引っかかるかの確認だ。誘導の開始か、君自身に危険が迫ったら、すぐに戻ってくるんだ」
「御意!」
「あの、俺もフローネ様の元へ……」
「却下だ!」
あのね、遊びじゃないんだよ。フローネ見たかったら城で思う存分見れば良い。もっともそんなことは彼女の部下が許さないだろうけど。
アニフォレッドは、華麗に段差を飛び降りて洞穴の外へと出て行った。
コルペリアルも外か。ちょっと様子を見に行って来よう。
洞穴の外に出ると、コルペリアルが自分の部下に指示を出していた。
部下達は二手に分かれて散開し、彼女は真剣な表情でこちらに近づいてくる。
「こんなところで何をしてるのガスト」
「コルペリアルの様子がきになって」
「そんなことより敵を倒すことだけを考えて! さ、私達は私達の持ち場へ戻るわよ」
「は、はい」
怖い。やっぱり怖いよ。
しかし彼女も必死なのだと思う。
ランガード砦に人間が近づいた時点で、応援を求めていればこんな大がかりな作戦にはならなかったはずだ。
だからこれは、コルペリアルのミスであって、彼女の責任でもある。
魔族のためにも、コルペリアルの名誉のためにも、この戦いは負けられない。
俺達が洞穴に向かおうとした時、背後から怒号が聞こえた。
どうやら戦闘が開始されたようだ。
俺とコルペリアルは急いで洞穴に戻った。
「しかし、強い人間が来るのかぁ」
「絶対に足を引っ張らないでよ!」
「は、はい」
そんなこと言われても、ランガード砦を落とした連中なんだから、俺なんかが相手をできるかどうか不安でお腹痛い。
とにかく持てる力全てを使って戦おう。
俺にできることはそれしかない。
フローネはうまくやってるだろうか。
四天王序列二番が、負けた場合俺達の士気はだだ下がりだ。
がんばってくれフローネ!
その後俺が話しかけても、コルペリアルは黙ったまま入口を睨みつけていた。
戦闘開始から十数分が経過した頃、アニフォレッドが戻ってきた。
「ガスト様、ご報告します! フローネ様の誘導に掛かった人間の数は十八。残り十二がこちらに接近してきています!」
「十八!?」
半数以上じゃないか!
部下がいるとはいえ、フローネだけでは厳しいんじゃないか?
「くっ……ガスト、人間達が入ってきたらすぐに片付けるわよ」
「お、おう」
更に数分後、洞穴の入口から、戦闘が始まりを告げる声が聞こえてきた。
もうすぐ人間達がここまでやってくる!
俺とコルペリアルは入口をじっと見つめた。
「ガスト様がんばれ~」
「俺達には無理っすから頼みますよ!」
うん、応援ありがとう。涙が出そうなくらい悲しいよ!
「先輩方! ガスト様は必ず勝利します!」
「んなこと言ってもなぁ……あのガスト様だぜ?」
「必ず勝ちます! 見ていてください!」
ポッコそう言ってもらえるのは、非常に嬉しいけどプレッシャーが半端じゃないよ!
「ふん、怠け者部隊だと思ってたけど、まともなのもいるのね」
「俺達の部隊は生まれ変わるんだ。彼はそのリーダーだよ」
僅かな会話の後、入口から怪我をしたコルペリアルの部下が駆け込んできた。
酷い怪我だ……今回の人間はそんなに強いのか!?
その後ろから四人の人間が入ってきた。
四人だけ? 他にはもう来ない?
人間達は俺達の前に立つと、武器を構え険しい表情を見せる。
男が二人に女が二人。
女勇者には負けっぱなしだから今回はがんばらないと!
「はあっ、はぁっ! お前達は……!」
「ランガード砦では世話になったわね。四天王が一人、冷酷のコルペリアル。今度こそ貴方達に引導を渡してあげる」
「四天王が一人、不死のガス――」
「滅びるのはお前だ! 冷酷のコルペリアル!」
ちょ、待って待って待って!
俺まだ名乗ってないよ!
無視しないでよ!
「見たか今の」
「だせぇ」
部下にも笑われてるよ!
今まで真面目にやってきたのがバカみたいじゃないか!
良いよもう、俺は俺のペースでやらせてもらうから!
「四天王が一人不死のガスト! お前等を冥府へ連れて行ってやろう!」
俺が駆けだすと、後ろからコルペリアルの叫び声が響いた。
「待ちなさいガスト! そいつらは――っ!」
俺の目の前には銀髪の男勇者。
距離を詰めると、銀色の剣閃が一瞬だけ見えた。
「え?」
「ガスト!」
「ガスト様!」
スパっと首に何かが当たる。
今のは、銀髪の勇者の剣?
ということは、俺の首は……。
ぼとりと音を立てて俺の頭は、地面に転がり首から鮮血を噴き出す胴体が、ぐらりと揺れてその場に倒れた。
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