第七話 いきなり魔界がピンチだよ!

 会議室の中にはアズガント様、オトラシオ、フローネの三人が席に着いていた。

 おや、珍しくコルペリアルが遅れてるな。

 いつも俺より早く来ていて嫌味を言われるのに。


 とにかく、いつもの席に座って会議の始まりを待つ。

 コルペリアルが姿を見せたのは、それから数分後だった。


「コルペリアルが一番遅いなんて珍しいな」


 声をかけるが、彼女は俺の言葉を無視して席に着いた。

 やっぱりまだ怒ってるのだろうか。

 いつもの澄ました表情じゃない。


「遅れてしまって申し訳ありません」


 彼女はそう言うとした下唇を噛んで俯く。

 一体どうしたというのだろうか?


「先程入った情報です。ランガード砦が陥落しました」


 フローネが静かに何が起こったのかを答えた。

 ランガード砦と言えば、コルペリアルが担当しているところだな。

 今までどんな勇者も落とせなかった砦だ。

 それが、落とされただって?


「砦の先のランガード洞穴には、魔界へ通じる扉があります。人間達はすでにランガード洞穴へと、向かっているという情報が入っています。ですがそれ以上進ませるわけにはいきません」


 そりゃそうだ。人間界と比べると魔界は狭い。

 魔界にさえ入ればすぐに、この魔王城を襲撃することだって可能だ。

 フローネは続ける。


「そこで、今回人間達を確実に仕留める為に、コルペリアル、それとガストの二人でランガード洞穴で守りを固め人間達を撃退していただきます」

「え? 俺がですか!?」

「これまでの戦いで、砦を全て失っているから、今自由に動けるのはガストだけです」


 オトラシオが会議中真面目モードで、俺が出撃する理由を述べた。

 確かに俺の担当してた砦は全部落とされたね。

 おかげで最近はのんびり過ごさせてもらってます!

 予算全部使っちゃったからね! 


「わかりました! お任せくださ――」

「私は反対です! こんな役立たずと一緒に作戦に参加するなんて……っ」


 きっぱりはっきり役立たずって言われちゃったよ!

 コルペリアルは、机に身を乗り出して異議を唱えるが、あの優しいフローネが、無感情にコルペリアルに告げる。


「ランガードを落とされたのは誰の責任ですか、コルペリアル」

「くっ……」

「異議は?」

「……ありません」


 コルペリアルは座り直すと、俺をすごい形相で睨みつけてきた。

 怖いです、すごく怖いです。


 彼女は悔しそうに拳を握りしめている。

 そんなに俺と一緒に戦うのは嫌なのだろうか。

 うん、嫌だろうなぁ。

 先日初めて勝利したけど、それまで負け続きで砦全部壊した男だし。

 俺だって猛反対するね!


「それでは作戦内容を伝えます」


 フローネはランガード洞穴周辺と、内部の書かれた地図を広げた。


「まず今回の作戦にオトラシオは参加できません」

「私は現在人間達の進攻を受けている三つの拠点を守りに行きます」


 オトラシオは同時に三つも防衛するらしい。

 一つ守るだけでも大変なのに、最年少なのに相変わらずすごい。


「コルペリアルとガストの配置は洞穴の入口です」

「そこまで人間達を野放しに?」


 俺の質問にフローネは首を横に振った。


「ガストはまだ情報を聞いていませんでしたか。敵の数はおよそ三十。ですから私がまず先陣を切り人間達の戦力を削ります」


 え、勇者が三十人もいるのか……勝てるのそれ?

 いくらフローラでも三十人はさすがに無理なんじゃないだろうか。

 地図に駒を置いてフローラの説明は続く。


「ガストの考えていることはわかります。さすがに私では三十人も相手にできません。ですから、三十名の何割かを誘導し……近くの森に待機させている部下と共に撃破します」

「残りを私達二人で倒せと?」

「いえ、まだです。この段階で何割が、洞穴に向かうかわかりません。次に洞穴の外にコルペリアルの部下達を二手に分けて配置し、洞穴入口付近で挟み撃ちにします」


 ふむふむ、フローネの部隊がこっちの森で、洞穴入口付近……こことここにコルペリアルの部隊か。


「おそらくこれでも、突破されると私は見ています。残るのは特に強い人間です。これをコルペリアル、ガストの二人で撃破していただきます」

「あの、俺が誘導に回った方が良いんじゃないでしょうか?」

「ガスト、誘導した敵を必ず撃破できると誓えますか?」

「無理でした。すみません!」


 魔王軍がフローネを失うと損害は大きい。

 人間達もそれをわかっているはずだから、十人以上がフローネを狙う可能性もある。相手にされない可能性がある俺では囮は向いていないということか。

 悲しいけどこれが現実だ。


「二人には、一番強い人間の相手をさせることになって、申し訳ないと思います。ですが、この作戦が最良の選択だと、私は信じています」


 フローラはすまなそうに眉をひそめる。

 困ってる顔も可愛いなぁ。

 いや、そうじゃない。

 とにかく俺もこの作戦が一番良いと思えてきた。


 ちらりと向かい側に座っているコルペリアルに、視線を向けると彼女は洞穴内部の地図を指差す。


「私達が突破された場合、後ろは誰が守るの」


 言われてみればそうだな。

 俺達の後ろががら空きだ。


「そこには、ガスト貴方の部隊に担当してもらいます」

「えっ」


 俺の部隊がそこに配置されると、俺達の戦いが丸見えじゃないか。 

 情けない姿は見せられない……。


「何が何でも、私達は負けられないってわけね」

「同感だ、コルペリアル」


 負けたらポッコ達に顔向けできない。

 コルペリアルと一緒にうまく戦えるかわからないが、負けるわけにはいかなくなった。

 ああ、お腹痛くなってきたよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る