第四話 基本的戦術!
ざわつく酒場の中で、俺と勇者達はお互いの出方を待つ。
どうしようかな。
ここで戦うとアンデッドを、召喚することができないから不利だ。
「お前は何者だ!?」
「俺の名はネク――」
勇者の問いかけに、思わず答えそうになったが、ちょっと待った。
顔と名前が割れてしまうと後々不便になる。ここは名乗らずにいよう。
「それよりも、ここで戦っても良いのか、勇者達?」
「何!?」
「罪のない……あー、罪のない一般住民を巻き添えにしてしまうのか!」
「くっ!」
勇者達は、後ろで騒いでいる住民達に視線を移すと、ここでは戦えないことを理解した。
「外に出ろ魔族!」
「いいだろう」
よし、引っかかった。正義感の強い勇者で良かった。
ここから更に街の外まで移動させたい。
街の外には部下達が待機している。
そこまで連れて行けば俺の勝ちだ。
「この場で貴様を始末してやる魔族め!」
「あーいいのかな。罪のない一般住民の、民家を壊しても平気なのか!」
「くっ!」
「ククク、街の外へ出るんだ勇者達よ」
よしよし、まんまと引っかかってくれた。
俺と三人の勇者達はトペスの街の外へ出た。
俺はすぐに部下達の姿を探す。
勇者と戦う事態を想定して、五十人程連れてきていたのだ。
さすがにこれだけ大勢いれば手練れ勇者とは言え苦戦するはず。
あれ、待機しているはずの部下達がいないよ?
皆どこに隠れてるんだろう?
「ちょっと待っていろ勇者達!」
「逃げるのか!」
「違う違う。貴様等を倒すための仲間を呼んでくるだけだ」
きょろきょろと辺りを見るが、やっぱり見当たらない。
ちょっと皆かくれんぼしてる場合じゃないよ。勇者来たよ。
よく探すと少し離れた木の陰に一人の部下が隠れていた。。
「勇者を連れてきた出番だ」
「は、はっ!」
どうやら緊張しているようだ。
このモンスターは新入りかな?
「ところで他の部下達はどこに行ったの?」
「は、はい! 先輩方はその……ガスト様が勇者の情報を、集めれるわけないからって言って帰りました。残ってるのは自分の同期が四人だけです」
「マジかー、酷いよ皆」
「はい、自分もそう思います……」
四十五名の部下が帰ってしまい、残っているのは新米の兵士だけ。
相手は手練れの勇者だから、新米を戦わせても無駄に命を落とすだけだろう。となると、残る選択肢は二つ。
一つは俺一人で戦う。もう一つは土下座する。の二択だ。
できれば後者を選択して穏便にことを済ませたいが……。
ちらりと勇者を見ると、もう武器を抜いている。
勇者達はやる気満々だった。
「じゃ、じゃあ、俺が戦ってくるから、仲間を集めていつでも逃げれるようにしておいて」
「しかし、相手は手練れだと聞いています! 自分達も共に!」
「だからこそだよ。君達は、これからの魔族を支えないといけないんだ。今ここで無駄に命を落とすことはない」
「りょ、了解しました」
よし、それじゃあ行こうかな……行きたくないなぁ。
勇者達の元へ戻っていく。勇者達は律儀に、俺が戻ってくるまで大人しくしてくれていた。
「待たせたな」
「モンスター共はどこだ!」
「帰りました」
「何?」
「皆帰りました! 俺以外には誰もいません!」
「お、おう……それは、なんというか、お気の毒に」
まったくだよ! 気の毒すぎて泣きそうだよ!
ええい、こうなったら当たって砕けろだ!
「それでは改めて……俺は魔王軍四天王ネクロマンサー不死のガスト! 貴様等を冥府へと連れて行ってやろう!」
「魔王軍四天王!?」
勇者達は驚いている。そりゃそうだろう。まさか四天王が、酒場で飯食ってるとは夢にも思わないはずだ!
それにしても……すごい筋肉。
運動を全然してこなかった俺とは、全く違う体格だなぁ。
魔法使いの人も、ローブが体に張り付いて、腹筋とか浮かび上がってるし。
もう一人の戦士も筋肉の鎧って感じだし、こんなのに勝てるのかな。
しかし、ここまで来たら戦うしかない!
俺は早速呪文を唱えてアンデッド達を召喚する。
大勢の死せる戦士達が、土の中から這い出てきた。
とりあえず十体で様子を見よう。
「さぁ行け我が下僕のアンデッド達!」
「来るぞ!」
俺の合図と勇者の合図が重なる。
アンデッド達は勇者達の肉を食らおうと近づいて行くが……。
「ふん!」
戦士の斧での一撃で三体のゾンビの胴体が真っ二つになった。
「おりゃぁ!」
勇者の攻撃でも同じく三体のゾンビが首を飛ばされて動かなくなった。
「これでも食らえ!」
最後に魔法使いが炎の魔法で残りのゾンビ達を焼き払った。
この間、僅か五秒だ。
無理です!
強いとは聞いてたけど、こんなに強いとは思ってませんでした!
「もう終わりか? 不死のガスト!」
「ま、まだまだぁ!」
ええい、こうなったらやけくそだ!
俺は再びアンデッドを呼び出し勇者と戦士にけし掛ける。
その間に魔法使いを攻撃だ!
呪文を唱えて、魔法使いとは思えない魔法使いに向かって、闇魔法を発動する。俺の手のひらから黒い雷が迸った。
魔法使いの男は、対抗するために魔法を使ったが、魔力は俺の方が上だ!
いける、物理攻撃されなければこの魔法使いには勝てる!
そう確信した俺は、更に威力を上げていく。
俺の放った闇の魔法は、魔法使いの男の雷の魔法を押し切って、バチンっと大きな音と共に魔法使いに直撃すると、魔法使いは前のめりに倒れる
そこで気付く、この勇者達は、筋肉はすごいけど魔法耐性があまりないことに!
調子に乗ってきた俺はゾンビを倒した戦士にも闇の魔法を放つ。
不意を突いた形で、戦士は避けることもできずに、俺の魔法の前に倒れた。
なんだなんだ、圧倒的な強さじゃないか俺!
このまま勇者もやっつけてしまおう!
同じ魔法を勇者にも使うと、勇者は筋肉で俺の魔法を打ち消した!
「えぇぇぇ……」
「おのれ不死のガスト、よくも俺の仲間を!」
勇者は剣を振りかぶって走ってくる。逃げる間もなく間合いを詰められた俺は、両腕で頭を庇って剣を受け止めた。
ぼとぼと。
何かが地面に落ちる音が聞こえて、恐る恐る目を開けると、俺の肘から先がなくなっていた。
「痛いいいいいいいいいい!」
数秒遅れて痛みがやってくる。めちゃくちゃ痛い!
俺の叫び声を聞いても、勇者の攻撃は止まらず次の一撃がきた。
肩からお腹の辺りまでを切り裂かれて、血がどばどば噴き出す。
「痛っ……ヒュホー……コホー……!」
もう声にすらならなかった。
でも、死なない。俺は生きている!
意識がなくなりそうになるが、アズガント様が言ってた力を使いこなすのは今だと思った。
ガクガクと震える足で前進して、俺は勇者に近づいていく。
「な、なんだこいつは!? まだ死なないのか!」
後退る勇者に対して、俺は最後の力を振り絞り、走り出した!
「うわぁぁぁぁ!?」
勇者にとってはとてつもなくホラーだろう。ゾンビですらここまでボロボロになると、倒れるのに、俺はその状態から走り出したのだから!
何度斬られても殴られても俺は勇者を追い掛け回した。
正直、魔法が通用しないとなると、お手上げだからこれくらいしかできることがない!
しかし、この攻撃は効果ばつぐんだった!
勇者は武器を捨てると仲間を担いでトペスの街へと逃げ帰っていった。
「ヒュコー……ヒュコー……」
俺の活動限界も近づいてきた。
でも、勝った!
俺は勇者達に勝てたんだ!
遠ざかる意識の中で、体は動かないが、俺はガッツポーズを決めていた。
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