第五話 勝利の報告!
あの世に逝きかけてた俺の意識が、体に戻ってくる。
ゆっくりと目を開けると、綺麗な三日月が見えた。
「ガスト様! お気づきになられましたか!」
上半身を起こしてまずは体の様子を見てみる。
うん、あれだけやられたのに、もうしっかり治ってるぞ。
それから周りを見てみると、五名の新米部下が、安心した笑顔で俺を囲んでいた。
「あれ? 君達どうしてまだここに……逃げなかったのか?」
「我々の心配をしてくれたガスト様を、置いて帰ることなどできません」
な、なんて暖かい言葉なんだろう。
他の部下達にも聞かせてやりたい。
「それよりも、見ていました。ガスト様の雄姿を!」
「あの屈強な勇者達をたった一人で、お見事でした!」
前半は調子良かったけど後半は、斬られながらただ走ってただけなんだが、彼等の目には俺は立派な四天王の一人として映っていたようだ。
それでもやっぱり褒められると嬉しい。
「ん、それは……?」
「如何なされましたか?」
よく見ると彼等の体にはいくつもの傷があった。
「その傷はどうしたの?」
「これは……倒れているガスト様を、狙う小賢しい人間共と戦闘をしまして、その時に」
俺が意識を失ってる間、彼等は俺を守ってくれていたのか!
ヤバい涙が出てきた!
「ありがとう君達、助かったよ。とにかくこの場を離れよう」
「はいっ」
転送魔法を使い俺達は魔界に戻ってきた。
新米部下五名は、怪我をしているので城の医務室に連れて行った。
彼等は怪我をしているにも関わらず、笑顔で全員が無事に帰ってこれた事実を喜んでいた。
俺の気分はすごぶる良かった。
四天王になってからというもの、褒められたこともなければ、慕われたこともなかったから。
勇者の情報は、マッチョであるということしか入手できなかったが、撃退できたので、しばらくはあの勇者達も活動できないだろう。
早速皆に報告しよう。
城の廊下を軽快に進みまずは、アズガント様の元へ向かった。
ドアをノックすると「入れ」という声が聞こえたので中に入っていく。
部屋の中は豪華な装飾で飾られている。何度も来たことがあるので、別段驚きはしないがいつかはこんな部屋で仕事をしてみたいと思った。
「失礼しますアズガント様。四天王が一人不死のガスト戻りました!」
「ガストか、首尾はいか程だ?」
「はっ、トペスにてマッチョな勇者と遭遇、魔族だと知られたので、早急に撃破致しました!」
「ほう、これまで負け続きだったお前が、とうとう勇者を負かしたか。自分の戦い方は身に付けれたか?」
「はいっ、不死の体の使い方が少しわかりました!」
アズガント様は満足そうに頷く。
「お前には他の者にはできぬことができる。勇者が今よりも力を付けた時、お前の力が必ず役に立つだろう」
「はいっ!」
「良くやった、下がって良いぞ。他の者にもお前の勝利を話してくるが良い」
「はっ! 失礼します!」
一礼して部屋から退出すると、俺は廊下で小躍りする。
褒められた! 褒められた!
「おい、ガスト様が怪しい動きをしてるぞ」
「バカ、見るな! きっと頭がおかしくなったんだろう」
だから聞こえてるぞ君達。
でも今の俺は気分が良いから気にしないんだ。ふふーん。
よし、皆にも報告しに行こう。きっと皆喜ぶぞー。
次に訪ねたのは四天王序列一番オトラシオの部屋だ。
「開いてるよー」
ノックするとオトラシオが応えたので中に入る。
彼女は机で、仕事をしているフリをしてお菓子を食べていた。
オトラシオは四天王の中で最年少だが、その類い稀な才能で四天王序列一番の地位に立っている。会議の時等は真面目な姿をしているが、実態はまだまだ子供だ。
「なんだガストかぁ。どうしたの?」
「聞いてくれよオトラシオ! 俺、遂に勇者を倒したんだ。それもマッチョな勇者を!」
オトラシオはぽかんと口を開けて、持っていたお菓子を床に落とした。
「マジで?」
「マジで!」
「おぉー! よかったねガス……コホン、よくやったガストよ。褒美を取らせよー」
「ははーっ!」
全然似ていないアズガント様の物まねをして、オトラシオはお菓子を差し出してきた。俺はそれを恭しく受け取ると、彼女と一緒に笑った。
受け取ったお菓子を食べ終わり、オトラシオの部屋を後にすると、今度は四天王序列二番フローネの部屋へ向かう。
フローネの部屋の前には常に見張りがいる。本人はいらないと言っているのに、彼女の部下達が不届き者からフローネを守っているのだ。
俺が近づくと彼女の部下は一例する。
教育が行き届いてるなー。俺の部下とは大違いだ。
フローネの部屋に入ると、彼女はベランダの花に水を与えていた。
「あら、ガスト。どうしたのですか?」
「聞いてくれ! とうとう勇者達を倒すことに成功したんだよ!」
「おめでとうございます。ふふ、ガストもやればできるじゃありませんか」
優しい笑みを浮かべて、フローネは俺の勝利を喜んでくれる。
この笑顔だよ、この笑顔を見るために皆がんばってるんだよ!
「でも、うかれてばかりではいけませんよ。勇者は日々力をつけてきていますから」
「わかってるよ」
厳しいところは厳しいが、でもそれがまた彼女の魅力でもある。
俺は、フローネに抱きつきたい衝動を抑えて彼女の部屋から出た。
仮に彼女に変なことをした場合、俺は魔界の全ての男から、日々命を狙われることになるだろう。
最後にコルペリアルの部屋を訪ねる。
例の一件以来口を聞いてもらえてないからなぁ。
不安な気持ちでドアをノックした。
「どうぞ」
彼女の冷ややかな声が部屋の中から聞こえてくる。
ドアを開けて俺の姿を確認したコルペリアルは、露骨に嫌そうな顔をしていた。
「何の用よ?」
「あ、その……この前はごめん」
「ふん、次にあんなことしたら殺すわよ」
コルペリアルの機嫌は悪いが、謝ることはできた。
次は勇者を倒したという報告をするだけだ。
「それを言いに来たわけ?」
「えっと、謝りたいのもあったけど、もう一つ朗報があるんだ。俺勇者達を倒すことができたんだよ!」
「ふーん」
冷たい、コルペリアルの反応は氷のように冷たい。
「そんなの勝って当たり前なんだから、一々報告しなくてもいいわ」
「でも、アズガント様が皆に報告しろって」
「アズガント様の言いつけなら仕方ないわね」
彼女はやれやれと両手を広げる。
いやー、とことん嫌われたもんだなー。まぁ、仕方ないんだけど。
「ちゃんと聞いたわよ、もういいでしょ。早く出て行って」
「あ、うん」
俺はコルペリアルの冷めた反応に、肩を落として部屋から出ていこうとした。ドアを開け廊下に出てドアを閉める瞬間、コルペリアルがぼそっと一言漏らした。
「おめでとう」
パタンとドアを閉めてしまったから、コルペリアルがどんな表情で、その言葉を口にしたのかはわからなかった。
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