多忙の日々
気がつくと私は四十歳を過ぎていた。地元の高校を卒業したあと東京の大学に入学し、そこを卒業して工業部品などを輸入販売する小さな商社に就職し、そのまま東京に残った。八年前に会社の同僚と結婚もした。その間中学一年生の時に父親を心筋梗塞で亡くし、祖父は二十一歳の時に肺癌で亡くした。
故郷に残っているのは百歳になった祖母と病弱な母親だけだ。会社では三年前から輸入製品のマニュアルなどを翻訳する部署の責任者になって数人の部下を持つようになった。
私は部下の席に印刷された翻訳文を持って行くと話しかけた。
「これ、誤訳なんだけどわかる?」
「いいえ」
「ここのuniqueって単語があるだろう? これを君は『面白い』と訳している」
「はい」
「辞書を引いた?」
「……いいえ」
「あのね、確かに辞書を引くのは面倒かも知れない。でも俺たちは辞書を引くのが仕事だから」
信じがたい翻訳ミスだった。と言うよりミス以前の問題である。怒鳴り飛ばしたい気分だったが、それをするとまだ若い彼は精神的に落ち込んで再び会社を休むかも知れない。
uniqueの本来の意味は『独特な』とか『類を見ない』などで、『面白い』と言う意味は無い。ところが日本語でユニークとなると面白いと言う意味でも通る。彼が誤訳したのは『unique profile』と言う部分で、本来は『独自の形状』と訳さなければいけないところを『面白いプロフィール』と訳していた。
「だいたい工業製品の翻訳なのだから前後の文を見ればわかると思うが」
「これからは気をつけます」
「ああ。それともう一つ、ここは『ひっくり返す』では無くて『裏返す』と書き換えてくれ」
そう言い残して彼の反対側で咳をしている女性の部下のところに行った。
「風邪をひいていると聞いたけど調子はどう?」
「いや、まだなかなか良くならなくて……」
「病院へは?」
「それがまだ……」
「症状が悪化してから病院に行っても遅いんだ。病院に行くなら初期段階で行った方が良い」
「仕事には差し支えないので大丈夫です」
「君が大丈夫でも他の人間に君の風邪が移ったら皆が困る。今日はもう帰っていいからその足で病院に行ってくれ。できればその咳が止まるまで休んでいてもらえると有り難いが」
彼女は困惑した表情をした。
「いや、君が必要無いとか、君の仕事ぶりが悪いとかと言う意味じゃない。仮に休んで帰ってきても仕事はあるから心配しなくていい」
彼女の表情がほっとしたものに変わった。面倒な話だ。
私は自分の席に戻った。
PCの画面はメールソフトが立ち上がったままだ。URGENT(大至急)とかASAP(早急に)などと題名に書かれている未読メールが五十通ほど並んでいる。それを見ていたらうんざりしてきた。
近年、会社はコスト削減のために翻訳部署の縮小に手を付け始めた。元々利益を生まない翻訳部署は真っ先に縮小されるのが目に見えていた。恐らく近いうちに翻訳部署は無くなり、社内で処理されているマニュアル系の翻訳はすべて外部に発注されるであろう。
そうなれば私の部下である社内翻訳者も必要無くなる。恐らく彼らは他の部署に転属になる。しかし部署が無くなったとしても私の仕事が無くなるわけではない。逆に増える可能性が高い。私は国外の製造元と連絡や社外翻訳者から戻ってきた翻訳文を校正する必要があるからだ。
この部署に配属されてからは毎日帰りが遅くなった。電話連絡が必要な国外にある取引先との時差の関係や、緊急の翻訳が入ることが増えたのが主な原因だ。月に二回は休日を返上して国内外の取引先に出張する必要も出てきた。これらが理由で専業主婦である妻との関係はあまりうまくいっていない。
最初のうちは妻を説得したりなだめたりしていたが、長期化するにつれそれが苦痛になってきた。会社でもストレスが溜まり、家でもストレスが溜まることに耐えられなくなってきたからだ。以前に比べて家に帰っても無口になることが多くなった。まだ私たちの間に子供がいないからいいようなものの、もしいたら妻のストレスがさらに増大することになるのは確実だった。
メールの返事を書いていたらいつの間にか腕時計は午後七時を指していた。もう部署には誰も残っていない。残業手当を支払う必要がある部下は六時で退社させるのが会社の方針だ。当然管理職である私がこき使われることになる。
十時にアメリカの取引先とテレビ会議が入っている関係で今日も帰りは遅くなる。すでに妻との間では、平日の夕食は外食が基本ということで合意している。私は背広とコートを着るとエレベーターに乗って一階に下りた。またいつもの定食屋で夕食を済ますことにした。
食事を終えると会社の前にある自動販売機で暖かい缶コーヒーを二本買った。すでに会社が入っているビルの入り口は閉まっているので通用口で暗証番号を押して中に入った。そしてそのままエレベーターへは向かわず廊下の右手にある『警備室』と書いてある部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
中からいつもの声が聞こえた。
「お邪魔します」
ドアを開けると作業服を着た源さんがテレビを見ていた。
「そろそろ来る頃だと思ってたよ」
「いつも同じですみませんが、これどうぞ」
缶コーヒーを源さんに渡した。
「ありがとうさん。まあそこに座ってよ」
源さんはこのビルの警備と保守を担当している。どこかの会社を早期退職し、このビルで働くようになってから十年だ。私が知り合いになったのは二年ほど前で、部署のLANケーブルを引き直す時だった。
何の気無しに話をしてみたところ、源さんが祖母の実家の村から数キロ離れた村の出身であることがわかった。そして仲良くなった私は残業が続くようになると、時折源さんの部屋で暇をつぶさせてもらうようになった。
「リョウちゃん、外は寒い?」
「ええ、今年は寒いです。耳がちぎれるかと思いました」
「そう。まあでも東京の寒さだからたかが知れているけどな」
「この時期、山は死ぬほど寒いですからね」
「ああ。滝も凍るから。今日は何の残業?」
「アホなアメリカ人とのテレビ会議待ちです」
「アホなアメリカ人ね……」
源さんは引き出しの中からノートを出すとボールペンで何やら書き出した。
「何ですか? それ」
「最近記録を始めた『リョウちゃん語録』だ」
「はい?」
源さんはノートを開いて読み出しだ。
「えーっと、『分からず屋のドイツ人』、『効率が極端に悪いイギリス人』、『いい加減なイタリア人』、『無茶苦茶なロシア人』、『インチキな中国人』……そして『アホなアメリカ人』と」
「そんなの記録しているんですか?」
「俺はさ、外国に行ったことが一回も無いんだよ。外国人は皆同じに見えちゃうし。だから友達とかと外国のことを話す時のネタにリョウちゃん語録を使わせてもらっているんだ」
「でも私は悪口しか言っていないですよ」
「それが面白いんだよ」
「まあ、お役に立ててうれしいです」
私は苦笑いしながら缶コーヒーの蓋を開けて一口飲んだ。
「でもリョウちゃんはスゲーよな。英文科を出たわけでも無いのに英語ができちゃうんだもんな」
「いや、仕事の分野だけですよ」
「前もそう言ってたけど、本当にそうなの?」
「ええ。エンジニア同士で使う英語ですからそれほど難しくは無いです。部品の名前も最初から英語だし。却って英語ができても部品の構造とかわからないとダメだったりします」
「そんなもんかねぇ」
「でも最近は仕事に疲れてきましたね。夕食が外食ばかりで飽きて食欲も出なくなってきましたよ。あ、それとも歳をとって脂っこいものがダメになってきたのかな?」
「歳から言ってそろそろ壊れる時期かもな」
「勘弁してくださいよ。この前の健康診断で再検査とか言われて近いうちに鼻から内視鏡は突っ込んだり、肛門から突っ込んだり、MRIとかで体を輪切りにされる予定なんですから。それはそうと、源さんがこの前携帯電話を買ってあげたお孫さんは元気ですか?」
「元気も元気、何だか部屋に籠もって携帯で話とか、何だっけ、あ、メールとかしてるらしいよ」
「でも子供も大変らしいですよ。学校から帰っても携帯電話のおかげで友達との関係が切れないから」
「娘もそんなこと言ってたな」
「私が十代の頃なんか好きな女の子に電話するのだって勇気が必要でしたよ。家に電話をかけても誰が電話に出るかわからない。まあ普通は父親とか母親が出るもんだから、そこを突破して彼女に取り次いでもらうためには丁寧に頼むしかなかったのですよ」
「俺の頃は戦後でその電話すらなかったけどな」
「それが今じゃ携帯に電話をかければ確実に本人が出るか、留守番電話に切り替わるわけです。世の中簡単になりましたよ」
こうやって源さんと話をするのはとても楽しかった。家に帰ったところで妻と話す話題は無く、かと言って仕事場では雑談をする暇などなかった。それは源さんも同じだったようで、私が訪ねるといつもうれしそうに私の話に付き合ってくれた。
「だいたいパソコンの存在が悪いと俺は思うんだけどね」
「と言いますと?」
「本当はさ、パソコンを使えば楽に早く仕事ができるはずだったんだろう?」
「え、まあ……」
「俺もさ、最初はパソコンを使えば今までの二倍の速度で仕事が処理できるって聞いたから、残りの半分の時間は遊んでいられていいよなと思ったのよ」
源さんは缶コーヒーを飲み干すと机の上に置いた。
「ところがさ、逆に仕事の量が二倍に増えちまった」
「その通りです」
「な、だからさ最初からパソコンなんか無ければリョウちゃんだってこんなに遅くまで働く必要は無いわけだ」
「まあそうですけど……というか今晩はテレビ会議なので、どちらかと言えば源さんの後ろにある電気の配電盤をショートさせるとか、その下にあるLANケーブルを斧で叩き切ってもらえれば私はすぐにでも家に帰れるのですが」
「ははは。そりゃあ簡単だけど無理だ」
しばらく源さんと他愛のない会話をして暇をつぶしていたら九時半になった。
「源さん、私はそろそろ戻ります。どうも長々とお邪魔しました」
「もう行くか。じゃあそのアホなアメリカ人とやらに俺がよろしくと言っていたと伝えてくれ」
「ええ、伝えておきます」
私は笑いながら立ち上がるとドアノブに手をかけた。開けようとした時、源さんに呼び止められた。
「リョウちゃん」
「はい」
「あのさ、さっきの検査の話なんだけど、念のため検査結果が出たら教えてよ」
「心配ないと思いますけど、わかりました」
私の体を心配してくれる源さんがうれしかった。
終電で自宅に帰ると電気は消えていた。
都心より確実に気温が二度低い郊外に位置するこの賃貸マンションはバブル期に建てられた。結婚を機に引っ越してきたがあまり住み心地は良くない。住人の生活音の反響が案外大きく、また近くにバイパス道路が完成した関係で車の音もうるさく感じられるようになってきた。それでも最近は疲れて帰宅することが多くなったので、寝てしまえばそれも気にならなくなった。
コートを着たままで部屋の灯りをつけてガスストーブを点火すると部屋は暖まってきた。空腹で胃痛がしてきたので台所に行って冷蔵庫から牛乳を出してカップに入れ、電子レンジで温めて一気に飲み干した。これで体の内部も温まる。冷蔵庫の扉には夫婦で使うメッセージボードが取り付けてある。
――オーセンティック自動車の小林さんから電話がありました――と、メッセージが書いてあった。メッセージは読んだあとに消せば読んだことを伝える意味になっている。
コートや背広を脱いで片付けると風呂に入り、パジャマに着替えて寝室に入った。隣のベッドの妻は寝入っているようだった。妻を起こさないように気をつけてベッドに入るとすぐに睡魔に襲われた。
数日後、出社すると上司である部長に呼び出された。
「すまんが至急シカゴに出張してもらえないか?」
「用件は何ですか?」
「IDS(Intelligent Diagnostic System)の日本語化したインターフェイスがうまく動かない」
「その件でしたら先週、担当のレイ マコーミックと電話で話をして何をすべきかを指示したのですが……」
「そのレイが二、三日前に解雇されたらしい」
「解雇ですか?」
「ああ。理由はわからん」
「彼は一人でやっていましたから、後任の担当者が何もわからない状態ですか?」
「とにかく日本で製品化する期日は決まっているから何としても間に合わせないといかん。電話会議とかメールでやりとりしていてはとてもじゃ無いが間に合わない」
「でしたら出張ついでにアトランティック シティの亀井のところへ顔を出そうと思うのですが」
「ならそうしてくれ。彼も喜ぶだろう」
「すぐに出張の手配をしてきます」
部長の席をあとにすると総務へ行って出張の手続きを始めた。
シカゴ オヘア空港からほど近い場所にNASS社 (North American Solutions and Services)の本社は位置している。NASS社は主に異なるハードウェア同士のインターフェイスの設計を業務としている。今回は私の方から工作機械の診断システムの設計を依頼していた。システム本体はハードウェア上で作動することが確認されてはいたものの、メニューなどを日本語化するにあたり、問題が発生していた。
本来ハードウェアのシステムは私の仕事の分野では無いのだが、人員が足らない関係で首を突っ込むハメになっていた。空港に到着すると荷物を持ったままタクシーでNASS社に直行した。会社に到着すると、受け付けでしばらく待たされたあとに担当者がやってきた。
「カークです、初めまして」
大学を卒業して間も無いと思われるやる気の無さそうな風貌の若者が右手を差し出してきた。
「リョウイチです、初めまして。レイの件は伺っています。空港から直行してきたのでスーツ ケースを預かってもらえる場所があると有り難いのですが」
「それなら受け付けのジェーンに預けてください」
荷物を預けると早速カークのオフィスに向かった。オフィスではカークが机の上のPCを操作していた。
「プログラムが正しく作動しないとのことですが、二週間ほど前にレイと同じような用件で話をしました。ひょっとしてそれと同じ症状なのでしょうか?」
「レイは何も言わずにデータだけ残して会社を去ったので私には良くわからないのです」
カークは首をすくめて口をへの字に曲げた。
レイは物わかりが悪い部類のアメリカ人で、何かと言えば屁理屈をこねて仕事を遅らせていた。実を言えば二週間前のあの晩もわざわざテレビ会議で話す必要は無かった。メールのやりとりでは埒があかないことに業を煮やした私が無理矢理テレビ会議をセッティングしたのだ。
「その作動しないプログラムの画面を見せてもらえますか?」
「どうぞ」
カークは机の上のノートPCを私の方に向けた。止まっているプログラムの画面を見ると日本語の一部が文字化けしていた。
「カークさんは日本語がわかりますか?」
「いいえ。高校時代に第二外国語でスペイン語をちょっとかじった程度です」
「では二バイト文字は?」
「すみません、それも良くわかりません」
「簡単に説明しますとアルファベット文字は一バイト、日本語は二バイトです。コードにするとアルファベット文字は二桁で日本語は四桁です」
「それがプログラムが正常に動かない原因なのですか?」
「そうです。恐らくこの診断プログラムは英語では正常に作動していたはずです」
「そのようでした」
「実は最初に私がレイに渡したシステム操作メニューの日本語に問題ありまして、その問題を修正した日本語訳をレイに送信したのが十日ほど前です」
「ということは、私が英語と入れ替えた日本語に問題があったのですね」
「恐らく。ちなみにその元となった日本語メニューのテキストファイルのバージョンは?」
「ちょっと待ってください……」
カークは自分の方にノートPCを向けると操作した。
「えー、4.03です」
「それは修正する前の日本語訳のバージョンです。最新は4.10です」
「そうだったのですか」
「想像ですが、レイは日本語の修正バージョンの入れ替えをせずに退社したのでしょう」
「レイはそこまで説明しませんでした」
「とにかくその日本語訳を入れ替えないことにはプログラムは走りません。訳文は私が持ってきています。これに入れ替えてください」
私は鞄の中からDVDを出すとカークに渡した。
「これは単純なテキストファイルですか?」
「いや、コピーマークは打ったままなのでそのまま変換プログラムで読み込めば大丈夫です」
カークはそのDVDを自分のPCに挿入した。
「念のためウィルス チェックをしてもよろしいですか?」
「ご自由にどうぞ」
パーティションで仕切られたカークの席から部屋全体を見渡すと半数の席は明らかに誰も使用していなかった。
「レイの話ではこのセクションには二十人ほどいたと聞いていましたが」
カークは変換作業をしながら少しだけ私の方を向き、また視線をPCの画面に戻した。
「インドが原因です」
「インド?」
「正確にはインドの安い人件費とインターネットです」
「外注と言う意味ですか」
「まあそんなところです。プログラムなんて所詮電子データですから、回線さえあればデータのやりとりは海を越えたところで何の問題もありません」
「それが原因でレイは解雇されたのですか?」
「詳細はわかりませんが、それもあると思います。ですが、このセクション自体が近い将来インドにすべてを任せることになるかも知れないという噂です」
「どこの世界でも同じですね」
「日本もそんな感じなのですか? あ、プログラムが正常に走り出したようです。確認して頂けますか?」
PCの画面をのぞき込むと、正常な日本語が表示されていた。
「とりあえずこれで大丈夫です」
「ちなみに原因を教えてもらえますか?」
見かけとは違い、カークに向上心があるのが意外だった。
この問題の原因は文字コードであった。特定の漢字に含まれる文字コードの一部が、英語のプログラム言語で使用される『意味のある文字』を含んでしまっていることに起因していた。例えば『構』と言う文字に含まれる二桁のコードの組み合わせはアルファベット文字で『バックスラッシュ』と同じであり、『バックスラッシュ』はそれ単体でプログラム上において意味を持っている。従がって翻訳文に『構』を含む文字列があると、プログラムが動いた時に余分な『バックスラッシュ』と認識されて不具合が発生する場合がある。このような漢字は他にいくつも存在するので、日本語の翻訳文すべてをチェックして他の言葉に置換したものがバージョン4.10であった。
「なるほど、そう言うわけだったのですか」
「これは他の言語でも発生する可能性があるので、チェックすると良いかも知れません」
「ありがとうございます。案外簡単な話だったのですね」
「ええ。他には何かありますか?」
私は持ってきた荷物を片付け始めた。これで仕事の九割は終了した。これからホテルにチェックインしてから三泊の滞在を一泊に変更し、飛行機も変更すれば明日の夕方には亀井のところに行けるはずだ。
「今のところはそれだけです。あなたがホテルに到着する前に解決してしまいましたね」
「そんなものです。しかし明日の午前中の会議には出席します。まだ他の細かい打ち合わせが残っていますし。それで明日の夕方にはアトランティック シティに向かおうと思っています」
「了解しました」
シカゴに三日間の滞在は覚悟してきたのだが、予定よりかなり早く終わったことで気が楽になった。あとはホテルで部長に報告メールを送信すればもうシカゴに用は無い。
「リョウイチさん、私がホテルまで車で送りましょう」
「それは有り難い。よろしくお願いいたします」
「それにホテルはここから近いですから私の出勤ついでに明朝八時半にホテルに迎えに行きますよ」
「それはさらに有り難いです」
「いや、私もこの件で上からプレッシャーをかけられていましたから、肩の荷が下りて今は楽しい気分なんです」
カークの顔は第三者が見てもわかるくらい安堵した表情だった。
ホテルにチェックインして手荷物などを片付け、飛行機の変更や亀井に連絡をしていたら午後十時を回っていた。機内食などの脂っこい食事ばかりで胃痛がしてきたのでホテルのラウンジに降りてみたものの、レストランはすでに閉店していた。あとはスナック程度の軽食を売っている店があるのみだ。
部屋に戻って近くのレストランでも探そうかと思い、部屋に置いてある案内をめくっていたら、中華料理の出前の案内が挟まっていた。電話してみたところ三十分で来るとのことなので、これで済ますことにした。
出前が来るまでの間、PCを出してメールをチェックしてみると案の定未読メールが三十通ほど溜まっていた。私の判断を緊急に必要とするもの以外は放置した。
丁度三十分で中華料理が届けられ、アメリカ人向けに大味に味付けされている料理を食べてしばらくしたら睡魔に襲われた。
翌日、午前中の会議が終わると、カークに頼んでオヘア空港まで送ってもらった。飛行機の搭乗まで時間があったので昨日処理しきれなかったメールの処理をすることにした。二十四時間だけ全米主要空港で有効な無線LANサービスを購入して接続してみたところ、未読が五十通に増えていた。
――件名:再検査について(総務)
安田です。再検査を受けていないのは倉田さんだけになりました。出張中とのことなのでメールでお知らせします。以下の日時のうち、ご都合のよろしい日を選択して返信してください。日時……
――件名:ハードウェア トラブル解消について
今井です。先日到着したIDS搭載マシンのトラブルが解消しました。原因はマシンに付属していたケーブルのプローブの不良でした。プローブは新たに発注しておきました。倉田さんが帰国後にもう一度テストを行いますので、取引先での立ち会いをお願いいたします。
――件名:Re:用語統一について
指示通りに用語を統一しておきました。ただ、すでに慣例として使用されているものは混乱を招く恐れがあるのでそのままにしてあります。
一応全部に目を通したが、搭乗までに返信できそうも無い。あとはアトランティック シティに到着後だ。
夕方、フィラデルフィア国際空港に到着してゲートを出ると亀井純一が待っていた。亀井は隣の州であるニュージャージー州のアトランティック シティから車で迎えに来てくれていた。
「倉田、久しぶりだな」
「ああ」
「何だそのシケたツラは?」
「とにかくアメリカの飯がマズ過ぎて死にそうなんだ」
「ははは。明日からもう少しマシなものを食わせてやるよ。そう言えばアトランティック シティは初めてだったよな」
「ベガスだったら二回ほど行ったことはあるけどな」
亀井は私と同期入社だ。亀井の大学の専攻は数学で、入社当時から変わり者で通りっていた。彼の話によれば自分には数学のセンスが無いらしく、研究者としての道は大学を卒業する前に捨てたと言っていた。とは言え彼の計算能力や分析能力は常人のそれでは無く、凡人の私では到底太刀打ちできるものは無かった。
彼は入社して十年以上その才能を生かすような仕事に恵まれなかったが、五年ほど前に日本におけるカジノ論議が盛んになってきた頃、会社が来るべき日本のカジノ産業に他社に先駆けて参入するべくニュージャージー州アトランティック シティに本社があるカジノ ゲーム マシンを製造している会社に亀井を派遣した。亀井は持ち前の物怖じしない性格とその頭脳を駆使し、たちまち派遣先でも一目置かれる存在になった。
アトランティック シティはラス ベガスには規模で遠く及ばないもののカジノがある街として有名であり、主にアメリカ東海岸の人々が訪れる。
空港の駐車場で亀井の車に乗り込むと、そのまま亀井の運転でアトランティック シティのホテルに向かった。
「国会じゃカジノ法案は通過するのか? もうここに住むのもいい加減飽きてきた」
「通過したところで、そこからがまた時間がかかる。それに政治はそれどころじゃない。もう与党も野党もやることがメチャクチャだ」
「俺はいつまでここにいればいいんだ?」
「俺に聞かれてもな……」
車は高速道路に乗った。
「できれば日本に帰国したいところなんだ」
「今頃ホームシックか?」
「まさか。実は今度日本に帰ったらまた恭子と一緒に住もうと思っているんだ」
「何故?」
「最近日本にいる息子の義正が母親に反抗しだすわ、学校へも行かないとか言い出すわで……」
「反抗期か?」
「反抗期だったら一過性だから簡単なんだが、もう一年間くらい続いているらしい。結局男の子は父親がいないとダメかもわからん。例えそれが俺みたいなダメな父親でも近くにいれば多少は違うと思うんだ。とりあえず成人になるまでは一緒に住もうかと考えているところだ。元々ケンカ別れしたわけじゃないし」
「子供がいると大変だな。それに人間は計算通りに動かない」
「まったくだ。計算なら毎日嫌になるくらいやっている俺でも、人間の次の行動はまったく予測できん。お前のところはどう?」
「翻訳部門に異動してからすっかり冷め切っている」
「そんなに忙しいのか?」
「忙しいのもそうだが、最近面と向かって話をするのも億劫になってきた」
「好きとか嫌いとかそう言う話じゃ無さそうだな」
「まあな。自分でも良くわからんが、近いうちに何かの話し合いをしなければならないのは確実だ」
車は海岸近くを通りってカジノ街にある大きなカジノ ホテルの正面入り口に到着した。
「会社からの指定が特に無かったから、俺の顔が利くこのホテルにしておいた」
「すまん。恩に着る」
「今日はまだやることがあるから明日の昼飯を一緒に食おう。今晩の飯はホテルの中をうろつけばシカゴよりまともなものにはありつけるはずだ」
ホテルの駐車場係員が運転席の窓を叩いたので亀井は窓を開けた。
「カメイさーん、コンバンハ。パーキング?」
ヒスパニック系の係員は片言の日本語で亀井に話しかけた。
「ノー。ジャスト ストップ バイ。俺のフレンドがここにステイするからよろしく」
亀井は胸ポケットから一ドル札を数枚取り出すと係員に渡した。
「オー、ワカリマーシタ」
係員は口笛で離れた場所にいる荷物係を呼んだ。
「彼はホセ。仕事ぶりは真面目だが、深刻なギャンブル依存症だ。もし駐車場近辺でトラブルがあったら彼を呼べばいい。じゃあ明日の十一時にそこのチェックイン カウンターで待ち合わせだ。何かあったら携帯に電話してくれ。それと飯は全部部屋に付けてくれ」
「何から何まで済まんな」
私は亀井から名刺を受け取ると車を降りた。トランクの荷物はすでに下ろされ、係員がホテルの中へ運んでいる。ホセから荷物のチケットを受け取り、チェックイン カウンターへ向かった。
部屋に入って荷物を片付け、PCを接続しようとしたがLANケーブルの差し込み口が無い。ダイアルアップで接続する気は無かったが、メールのチェックはする必要がある。ホテルの案内を見たら無線LANで接続できることがわかった。ただ、私が持っているPCのセキュリティ設定の関係で接続がうまく行かず、サポートと一時間電話するハメになった。
そうこうしているうちに腹が空いてきたのでホテル内のレストランを探そうと部屋を出た。カジノが併設されているホテルは食事が二十四時間提供されている。決して美味くはないが、それでも一般的なアメリカのレストランで食べるよりはマシである。
時差ボケの影響で翌朝七時に目覚め、窓のカーテンを開けると快晴の空の下に冬の大西洋が広がっていた。昨日は夜で気がつかなかったが、亀井が景色の良い海側の部屋を取ってくれたに違いなかった。
下の階に降りて朝食を済ませ、部屋に戻ってPCで日本のニュース等を見てからシャワーを浴び、一階のチェックイン カウンターに降りると亀井が待っていた。
「昨日は良く眠れたか?」
「ああ。それと多少はまともな飯にありつけて落ち着いた」
「そりゃ良かった。昼飯を食いに行こう」
亀井はカジノ フロアを通り抜け、海岸に続くボードウォーク方面に向けて歩き出した。そしてボードウォークを通り過ぎて建物に入り、エスカレーターを上るとボードウォークと大西洋が見渡せるフード コートに出た。
「何を食う?」
「昨日は中華料理だったからサンドイッチ程度で十分だ」
「わかった」
二人で適当に頼んだ軽食を持つと、窓側に面して設置された椅子に並んで座った。椅子の下には砂が敷き詰められ、ビーチ風になっている。
「しかし亀井、何だこのインチキな砂浜は?」
「ベガスのホテルにあるベネチア風味の水路よりマシだろう」
亀井はそう言うとピザの切れ端を口に入れた。
「ああ、あれな。何で水路の底を青色にするのか意味がわからん」
「青にするものだから、まるでプールに浮かぶ船だ。日本人だったら確実に緑色にするだろうな」
「まったくだ」
大きな窓から見下ろす大西洋は冬場なので誰一人泳いでいない。私はサンドイッチを一口頬張ってオレンジ ジュースで胃に流し込んだ。
「下の娘は相変わらずアメリカのアニメに夢中なのか?」
「ああ、日本で夢中になってるよ」
「ありゃどう見ても俺たちが言うアニメとはほど遠いよな?」
「アニメはアニメでもストップモーション アニメだな」
「粘土の人形とかをコマ撮りするヤツか?」
「そうだ。あれをCGで作っているのとほとんど変わらん。三次元アニメなんか作ろうとしたらそうなるに決まっている」
「ああ、それで違和感があるわけか」
「多分な。別にストップモーション アニメがつまらないわけじゃ無いが、二次元のアニメを見慣れている俺たちには違和感がある。それに声優も大げさでつまらん」
亀井は炭酸飲料のコップの蓋にストローを乱暴に刺すと一気に飲み干した。
「倉田よ、日本はどこまで本気でカジノを作る気なんだろうな?」
「良くわからん。収入を増やしたい地方自治体が中心になって政府を動かそうとしているのだろうが、公営ギャンブルもあるし、パチンコもあるし、そうまでしてカジノを作る意味がわからん」
「そもそも国会議員どもはカジノがどうやって儲けているのかわかってるのか?」
「さあな。でも控除率+期待値=1といった公式すら理解してないと思う」
「そんなもんだろう。ベガスあたりの巨大ホテルで一日に動く金が数十億円程度だ。現金で二億円くらいの収入ってところかな。これが恐らく最低の採算ベースだ。仮にアメリカ式でカジノを作るなら莫大な投資をして大量の客に金を使わせないとカジノ ホテルを維持することはできない」
「ずいぶんと金が動く商売だな」
「だいたい二言目には『カジノは大人の社交場』とか言ってる連中がいるけれど、それはヨーロッパの金持ちどもが渦巻いているモナコあたりのカジノの話であって、一般的な貧乏人にとっては単なる『鉄火場』だ。それに家族をターゲットにするなら子供が遊べる場所を作らないと、いつまでたってもカジノから帰ってこないお父さんに嫌気がさして二度と一緒に行ってくれなくなる」
「俺もそう思う」
「別に日本にカジノなんか作らなくてもさ、パチンコに税金かける方がよっぽど手っ取り早くて確実な収入になる。仮にそれでパチンコが下火になったらその時点でカジノ論議をすればいい。玉のレートの上限を撤廃して1個四十円にしてもいいな」
「パチンコは素晴らしい現金回収システムだって前に言っていたよな」
「だいたい世界に名だたる日本の家電メーカーが大量生産すれば一台数万円で作れるパチンコ台を、独占企業体が三十万以上でパチンコ ホールに売っているんだぜ」
「しかもホールは半年単位とかでごっそり新機種に入れ替えている」
「パチンコ台の代金をすべて回収して尚かつ儲けているんだからさ、パチンコで勝てるか負けるかなんて複雑な計算なんかしなくてもわかりそうなものだ」
「俺も『良く回らない台は早く負け、良く回る台はゆっくり負ける』ってお前から聞かされてから、遊びでもパチンコをやる気が失せた」
「どうだ倉田、ここのカジノでもやりに行くか?」
「今から?」
「別にやることがあるのか?」
「特に無いが……でもカジノの予定は無かったから現金は二百ドルくらいしか持ってないぞ」
「大丈夫、俺が高金利で貸してやるよ」
「いいよ。とりあえず今はこの二百ドルが終わったら今日は終了ってことならカジノに行こう」
「よし、出発だ」
亀井は立ち上がるとテーブル上の後片付けを始めた。
「亀井、このマシンの一等賞は何分の一だ?」
私は一等賞金が千三百ドルほど貯まっているスロットマシンを指さした。
「うちのマシンじゃないからわからないが多分三千分の一、またはそれ以下」
「じゃああっちの派手なマシンは?」
「それもうちで作っている機種じゃないからわからんが、一等は数万……、いや二十万分の一くらいだ」
「どれがいい?」
「スロットマシンは控除率が高いからあまり薦めないが、それでもやりたいなら確率が高いこの千三百ドルのマシンだな」
私はスロットマシンの前の椅子に腰掛けると百ドル札を入れた。
「お前はやらないのか?」
「会社の内規でマシン系のギャンブルはできない」
「内規?」
「いや、遊ぶことはできるが、万が一当たってしまうと面倒なことになる」
亀井の話によれば、会社がスロットマシンを開発している関係で社員はカジノで機械系のギャンブルで遊ばないようにとの通達が出ている。何故ならスロットマシンで遊んで負ける分には構わないのだが、勝った時にカジノ側からいらない詮索を受ける可能性があるからだ。亀井のような社員は普通にカジノに出入りしているので、顔は割れている。その社員が大当たりを出したとなればまず不正が疑われる。
「ちょっと向こうで飲み物をもらってきてやるから、何がいい?」
「牛乳にしてくれ、グラスに入った冷えたヤツ」
「牛乳だ? カジノで牛乳なのか?」
「健康に気を遣っているのでな」
「相変わらず良くわからないヤツだな。わかった」
亀井は早足でどこかに去っていった。
スロットマシンで遊ぶなど数年振りの話だった。ラス ベガスで遊んだ時は日本円で十万円ほどが小一時間ほどで無くなって嫌気がさして止めた。
(久しぶりだな)
リールを回すボタンを押してみたら懐かしい音がしてリールが回って止まった。
(外れ……当然だ)
スロットマシンはボタンを押した時点で当たり外れが決定するので、惜しかろうが何であろうが外れは外れである。そのまま続けてボタンを押す。また外れる。はっきり言えばスロットマシンはカジノの稼ぎ頭であり、逆に言えばそこに座って真剣に遊んでいる人間はカモ以外の何者でも無い。
三十回ほど回して残り数ドルになったところで何かが三つ揃ってマシンが止まった。同時に音楽が鳴り出した。
(あ、当たった!)
係員を探そうと振り返ったら、亀井がグラスに入った牛乳とビールを持って走ってくるのが見えた。
「呆れた野郎だ! もう当てやがった」
「これって一等賞でいいのか?」
「そうだ。約千三百ドル。課税対象にならないからそのままもらえる」
しばらくしたら係員が寄ってきて機械を止め、また立ち去った。
「これって支払いは現金だよな?」
「ああ、すぐに持ってきてくれるよ」
すると今度は違う係員が現金を持ってやってきた。
「カメイさん、お友達はラッキーな方ですね」
亀井に話しかけた係員も亀井の知り合いらしい。係員は百ドル札を一枚一枚数えながら私に手渡した。
「サンキュー」
現金を受け取ると、その中から亀井に百ドル札を一枚渡した。
「ほれ、牛乳の代金だ」
「格好つけやがって、でも有り難くもらっておく。じゃあ俺はこれでポーカーをやってくる」
亀井はビールを片手にポーカー ルームの方に歩いていった。
その後しばらくスロットマシンや他の機械で遊んでいたら所持金が二千ドルを超えた。カジノに人が増え出したので何気なく腕時計を見たらすでに午後五時を回っていた。カジノには時計と窓が無いので時間の感覚が無くなる。
機械が吐き出したチケットを現金化すると、亀井を探しにポーカー ルームに向かった。亀井は入り口のすぐ近くに位置した年寄りまみれのテーブルで、渋い顔をして場に配られているカードを睨んでいた。亀井の番になると持っていたカードを伏せてディーラーに投げ、そのゲームを降りた。そして顔を上げると私を見て手元のチップを持って私の方にやってきた。
「年寄りばかりだから、舐めてかかって突っ込んでみたらタイト(辛抱強い)なプレイヤーばっかりであまり勝てなかった。お前はどうだった?」
「俺は二千まで増えた」
「良くマシンで増やしたな。俺はやっと五百ってところだ。どうする?」
「どうせ無かった金だからもっと増やそうかと思う」
「わかった。何にする?」
「面倒なことが無いバカラにする」
「バカラか……この時間でテーブルが開いているかどうかが問題だな」
亀井はテーブル ゲームが多く配置されているセクションに向かって歩き出した。
バカラのテーブルはカジノのゲームの中でも比較的レートが高い。それだけに金持ちが集まってくる。そして金持ちは昼間ホテルの外のリゾートなどで遊んでいるので、夕方以降にテーブルが立ち始めることが多い。亀井は丁度開いたテーブルに私を案内した。そのテーブルにはまだ客が一人も座っておらず、ディーラーが客を待っていた。
「倉田、このテーブルしか空いていない」
私はテーブルに置いてあるレートのプレートを見た。
「二十ドル(下限)から千ドル(上限)か……」
「どうした?」
「上限が低過ぎる。時間がかかって面倒だ」
「お前、一体いくら勝つ積もりなんだ?」
「上限を五千にしてもらってくれ」
亀井はヤレヤレという風に首を横に振ると、少し離れたところに立っていたピットボス(そのセクションの責任者)を呼んで交渉を始めた。
私としては短時間で勝負を終わらせたかった。もし多く勝とうと思ったら賭ける金額を上げる方法が一番早い。上限が千ドルでは最大一勝負千ドル単位でしか勝てないことになり、仮に一万ドル勝つためには最低でも十回勝たねばならない。
「倉田、話がついた。客はどうせお前しかいないから上限を五千にしてもらった。その代わり下限も五百だ。確認するが、お前の持っている二千ドルではチップ四枚にしかならないぞ」
「わかっている」
ピットボスはテーブルに置いてあるレートのプレートを『二十ドル~千ドル』から『五百ドル~五千ドル』に変えた。私はポケットから現金を出し、百ドル札を二十枚数えてディーラーに渡し、椅子に座った。
「二千ドル程度でレートを上げろとは呆れたヤツだ。これじゃあ五百ドルしか持っていない俺は一回しか賭けられない。お前だって下手をすれば四連敗して終わりだ」
亀井は笑いながら私の隣に座った。
ディーラーは後ろに立っているピットボスに現金を確認させると、四枚の五百ドルチップを私の前に差し出した。
「始めてよろしいでしょうか?」
私がディーラーの問いかけに頷くと、テーブルの上でゲームに使用するカードをかき混ぜ始めた。
バカラは通常『プレイヤー側』または『バンカー側』に賭ける。カードはそれぞれの側に最大三枚まで配られ、一~九までの数字はそのまま数えて十と絵札はゼロとして足し算し、九に近い方が勝ちである。オイチョカブを二人でやっているところに外から賭けるようなものだ。配当はプレイヤー側が倍、バンカー側が〇.九五倍。同じ数字の場合はタイ(引き分け)で、ここに賭けていれば配当は八倍である。
ディーラーはかき混ぜ終わったカードを揃えると、私にプラスチックのカードを渡した。
「この辺かな」
私はプラスチックのカードを揃ったカードの適当な位置に差し込むと、ディーラーはそこから半分に分けてカードを格納する容器に入れた。
「では、賭けてください」
カードを配る準備ができたディーラーがそう促した。
私が四枚のチップを躊躇無くプレイヤー側に置くと、亀井が私の顔を見て叫んだ。
「おい!最初から全部賭けるのか?」
「悪いか?」
私たちがもめているのかと思ったディーラーがカードを配るのを途中で躊躇したが、勝負が始まったら置かれたチップには誰も触れないのがルールだ。
最初にバンカー側にカードが二枚配られ、両方とも九で合計十八、つまり八だ。
――バンカー、ナチュラル 8
ディーラーがそうコールした。二枚で八または九が出るとナチュラルと呼ばれ、もう片方の側はどんなに数字が低くても三枚目を引くことができない。
「倉田、もう終わりかよ」
亀井は肩を落とした。
「まだだ」
私の手元にはプレイヤー側のカードが二枚配られていた。一枚目は絵札、二枚目は伏せてある。カードが伏せてあるのは特に意味は無いが、大金を賭けている者に開ける権利を与えて楽しみを増やすといった目的のカジノ側のサービスである。
「こいつが八なら引き分けで九なら俺の勝ちだ」
私は伏せてあるカードを人差し指で上から押さえた。
「そんなことより、無理言ってこのテーブルのレートを上げてもらった俺の立場はどうなる? お前そのカードが九じゃ無かったら俺の面目は丸つぶれだぞ!」
「大丈夫、九だから」
「何だその根拠の無い自信は!」
いつの間にか騒ぎを聞きつけたピットボスがディーラーの後ろに立っていた。
「大丈夫、お前の面目はつぶさない」
私は頭を抱えている亀井を尻目に人差し指と親指で伏せてあるカードつまんで表にした。
「ほら見ろ、スペードの九だ」
亀井はほっと溜め息をつき、ピットボスは『ブラボー』と言いながら拍手をした。
ディーラーが『PLAYER』と書かれている上に置いてある四枚の五百ドルチップに、二枚の千ドルチップを加えた。私はそのすべてのチップを自分の手元に持ってきた。テーブルに複数の客がいればすぐに次のゲーム開始となるところであるが、客は私だけなので私が賭けるまで次のゲームは始まらない。次はどちらに賭けようかと迷い、顔を上げてディーラーの後ろにいるピットボスに話しかけた。
「次はどちらだと思いますか?」
ピットボスは笑顔で答えた。
「またプレイヤーでしょう」
「グレッグ!お前までそんな根拠の無いことを……」
「カメイさん、カジノにおけるギャンブルは単なる偶然によって成立しています。それはカメイさんも良くご存じでしょう。偶然に根拠などありません。ただ、賭けるには理由を必要とする場合があります。お友達は迷って私に意見を求めました。私は自分の意見を述べただけです。これでお友達には理由ができました。私を信じればプレイヤー、そうでなければバンカーに賭けるでしょう」
私は手元の四千ドルをプレイヤー側に置いた。
「あなたを信じましょう」
私がそうピットボスに言うと彼は笑いながら亀井を見た。
「また全部かよ……」
亀井は再びガックリと肩を落とし、ディーラーは事務的にカードを配り始めた。
――バンカー、ナッシング
バンカー側は二枚の絵札だった。
私も手元の二枚のカードを開けた。
――プレイヤー、オールソー ナッシング
プレイヤー側も五と五でゼロだった。勝負は三枚目に持ち越された。
――バンカー、4
バンカー側の最後のカードは四。私のカードが五以上九以下なら私の勝ちだ。私は手元の三枚目のカードをつまんで表にした。横で亀井が声にならない声を喉から絞り出すのが聞こえた。
――プレイヤー、6、プレイヤー ウィン
表になったカードはダイヤの六だった。
私は胸に溜めていた息を吐き出すと、四千ドルが追加されて八千ドルになったチップを手元に引き寄せた。
「倉田、こうなったら行くところまで行く気だろう?」
「最初からその積もりだ」
もう迷う必要は無くなったと感じた。あとは自分の好きな側に賭け、負けた時点で終了だ。
「今度はバンカーだ」
私はテーブルの上限である五千ドルをバンカー側に置いた。
――バンカー、ナチュラル 9
絵札と九の一撃で決まりだった。プレイヤーは絵札と一だ。バンカー側に賭けて勝ったので五パーセントが引かれた四千七百五十ドルの配当が戻ってきた。手元には一万三千ドルを超えるチップが集まった。そのチップの中から五千ドルを今度はプレイヤー側に置いた。
四対七でプレイヤーが勝ち、また五千ドル増えた。
「亀井、ギャンブルなんて簡単だな」
「お前を見ているとそう思う」
そう話していると私たちが座っている反対側にアジア系の新しい客が座り、プラスチックのカードを出すとディーラーに渡した。
「二万……千ドルチップで」
客がそう言うとディーラーからカードを受け取ったピットボスは、カードを機械に通して頷いた。ディーラーは客の前に二十枚の千ドルチップを押し出し、同時に客はディーラーが差し出した紙にサインをした(大金で遊ぶ客はあらかじめカジノに現金を預けている)。
「いきなり二万ドルか」
「お前がチマチマ稼いだチップの額を超えているな」
新規の客が入ったことで私の賭けるリズムが邪魔され、勢いが削がれたような感じがした。アジア系の客はプレイヤー側に五千ドル賭け、ディーラーは私が賭けるのを待っている。私の横に移動してきたピットボスは、あらぬ方向を見ながら私と亀井に聞こえるようにつぶやいた。
「このテーブルでは昨晩、新しいお客様が入る度に『タイ(引き分け)』が出てあまり盛り上がらなかったのですよ。まあ私の独り言ですが」
私はそれを無視してバンカー側に五千ドル置いた。
「ま、待て、俺も賭ける!」
亀井が突然そう叫んで胸ポケットから出した五百ドルを『タイ』に置き、その百ドル札をディーラーがチップに交換して置き直した。
「どうしたんだ? タイは確率からいって賭けるものじゃないと言ったのはお前だぞ」
「お前を見ていたら気が変わった」
ディーラーはバンカー側のカードを私に、プレイヤー側のカードをアジア系の客に配った。
私は何の躊躇も無く、二枚目のカードを表にした。八と一で九だった。
――バンカー、ナチュラル 9
「ほら見ろ。どうせなら俺に乗れよ」
プレイヤー側のアジア系の客は伏せられた二枚目を端からゆっくり絞りながら見ている。表に見えているカードは六だ。
「倉田、俺が満を持してタイに賭けたのだからあのカードは三に決まっている」
「何だその根拠の無い自信は?」
「お前の真似をしてみただけだ」
アジア系の客は絞り終わったカードを安堵の表情を見せながらディーラーに向けた。そのカードは亀井の言う通り三だった。
――プレイヤー、オールソー ナチュラル 9、タイ ハンド
「カメイさん、私を信じてくれたのですね」
ピットボスが笑顔で亀井に話しかけた。
「グレッグ、俺はカジノで人を信用するほどお人好しじゃ無い。自分を信じただけだ」
ピットボスは首をすくめると立ち去っていった。勝負が引き分けだったのでバンカー側、プレイヤー側に賭けられたチップはそのまま戻ってくる。タイに賭けられたチップは四千ドルになって亀井の手元に戻ってきた。
「亀井、今のタイで気が抜けた。これで終了だ」
「わかった。俺もこれ以上やる気は無い」
私はゲームを止めることをディーラーに伝え、手元のチップをすべて千ドルチップに両替してもらい、残った百ドルチップの中から二枚をディーラーの手元に指で弾いて飛ばした。
――サンキュー、サー
ディーラーは私が渡したチップを持ち、テーブルの角で叩くとそのチップをチップ収集箱の中に入れた。箱に入ったチップはあとでディーラーたちによって分配される。
「亀井、お前の分のチップも払っておいたよ」
「ああ、すまんな。夕飯でも食いに行くか」
「そうするか」
私たちはテーブルを離れてレストランに向けて歩き出した。
「このパンツの両方のポケットにジャラジャラ入っているチップだけで日本円に直すと百八十万ってところだな。良く二百ドルから増えたものだ」
「ちなみにその金をどうする気だ?」
「車の部品代にするかな。夏のボーナスで払う積もりだったが」
「車って……まだあの車は走らないのか?」
「ああ、でも今年こそは走らせようと思っている」
「お前も気が長いな」
チップを現金化したあとレストランに入り、運ばれてきたビールで乾杯しながら食事を待つことにした。
「倉田、今の気分はどうだ?」
「最高だ。周囲にいるすべての人間が俺の現金を狙っている強盗に見えて仕方がない」
「ははは。確かにお前を強盗した方が簡単に儲かる」
胃痛で止めていたビールを久しぶりに飲むと頭の裏側で冷たさを感じた。すでに夜の七時を回っているのでカジノには客があふれている。
「しかし亀井よ、良く飽きずに皆カジノに来るものだ」
「カジノは非日常の世界だから現実逃避には持ってこいだ。でも良く考えてみればベガスにあるエッフェル塔は偽物、ベネチアも偽物、エジプトも偽物、作られているのは何もかも偽物だ。あそこで本物なのは現金だけだ。この前俺はベガスから来た連中とケンカをして頭にきたものだから、どうせベガスなんか『フェイクシティ』(偽物の街)だろうが! と言い放ったら収拾がつかなくなった」
「お前は相変わらず言いたい放題だな」
「性分でな」
「ところでJFK(ニューヨーク)から帰国するって言っていたよな?」
「マンハッタンに二泊してWTC(貿易センタービル)の跡地でも見てから帰ろうと思ってな」
「マンハッタンなんか行ってもお前が見るような物とか何も無いぞ? いや、あるにはあるがあんな街はタクシーにでも乗りながら窓から眺めるだけで十分だ」
「それはお前から聞いてわかっているが、WTCで大学時代の女友達が一人死んでいるんだ」
「そうか……じゃあマンハッタンのホテルまで送ってやる」
「すまんな」
「お前のおかげで四千ドル勝たせてもらったからそれくらいはさせてくれ」
あの日の晩は自宅で翌日会社で使う資料の整理をしていた。一息ついたところで何気なくテレビをつけてみたらニューヨークの貿易センタービルから煙が出ていた。最初は火事か何かと思っていたが、二つ目のビルに飛行機が突っ込むのが見えた時点でテロであると確信した。
同じ年の八月末、大学時代に付き合っていた彼女がアメリカに渡って貿易センタービルにあるオフィスで働いているとの葉書を突然受け取った。彼女は父親が商社にいた関係で小さい頃から外国生活が長く、三カ国語を話す聡明な女性であった。
私より一つ年上であった彼女とは私が大学一年生、彼女が二年生の時に付き合い始めた。人生のすべてを日本国内で過ごしていた私にとって、彼女の考え方や立ち振る舞い、人との接し方などすべてが新鮮で魅力的に見えた。アメリカ映画を一緒に見に行けば字幕を読んでいる日本人より先に笑い出し、愛情は口に出して表現してくれと私を困らせ、理不尽な要求に対しては断固とした態度を崩さない彼女と付き合うのは自分の考え方の領域を広げるようで楽しかった。
――どうせなら楽しくやらない?
それが彼女の口癖であった。
私より一年先に彼女は大学を卒業し、合格したいくつかの会社の中から大手外資系を選んだ。就職した彼女は私が想像するより遥かに速い速度で会社に適応していった。まだ学生であった私にとって、毎週末会う度に社会人として成長していく彼女は羨ましくもあり、また私との距離が遠くなっていくようで悲しくもあった。
そして私の就職が決まって卒業を控えた二月の寒いある日、彼女からイギリスに行くと告げられた。会社から言い渡された期間は三年間で、その後は日本に帰ってくるかどうかはわからないと言う。すでにその頃は彼女と疎遠になりがちだったので、それを期に二人の関係は解消することにした。ただし将来再び出会い、お互いに結婚している人や恋人がいなかったらまた付き合おうと約束した。
翌日の夕方、アトランティック シティから三時間かけて亀井にマンハッタンまで送ってもらった。宿泊するホテルはタイムズスクエアに近い場所を取った。
――倉田、この街は飯がクソ不味いから気をつけろよ
そう言い残すと亀井はアトランティック シティに戻っていった。私はいつも通りにメールのチェックをすると、早めの夕食を済まして明日に備えることにした。
午前十時頃に遅い朝食を済ましてホテルの外に出ると薄曇りの天気だった。東京と比較すると気温は低めだ。ただ、湿度があるので呼吸をしても乾いた感じが無い。タイムズスクエア周辺には観光客と思われる人々が多く歩いていた。荒れた舗装の道路を渡って反対側に渡るとタクシーを拾って貿易センタービル跡地に向かうことにした。
タクシーの窓から見る街の風景はアメリカ西海岸のそれとは異なっていた。街を行く人々に西海岸の陽気さは無く、一様に暗い色彩の服を着ている。さらに人種の数が遥かに多い。アメリカの大都市で常に感じるのは寂寥感だ。道を行き交う人々は自らを積極的に主張することは無く周囲に溶け込んでいる。そして常に警戒を怠らない。それが排他的な印象を生むことになっている。簡単に言うと人と人との距離が遠い。どんなに人口が多い都市であっても、まるで荒野を歩いているような感覚に襲われ、西部劇の時代と大差は無いように思うことがある。
跡地に数百メートルと近づいたところで渋滞に遭って動かなくなったのでタクシーを降りて歩いて跡地に向かった。跡地はすでにテロから年月が経ち、広大な工事現場の様相を示していた。現場を一通り見たあと、通りの反対側にある教会に足を運んだ。それほど広くない教会の中には当時の写真や遺品が置いてあった。
教会の建物から外へ出て墓地にあるベンチに座り、貿易センタービルが建っていた空間を見上げていると隣に疲れた身なりの七十歳前後の白人男性が座って話しかけてきた。
――あんたは中国から来たのか?
――いいえ、日本です
――わざわざここに何を見に来た?
――テレビに映らなかったことを見たくて来ました
――私の息子はあの時、ここで死んだ
――残念としか申し上げられません
――私は息子を殺した奴らを殺してやりたいと思うが間違っていると思うか?
――復讐をしたところで何も解決しないと思います
――あんたの国には正義はあるのか?
――個人レベルでは正義をあまり必要としません
――もしあんたの国が同じように攻撃されたらどうする?
――仮定形の質問にはお答えしづらいですが、ただ言えるのは六十年前に日本に原爆を二発投下して数万人の非戦闘員を一瞬で殺害し、その後放射能によりさらに多くの人々に苦しみを与えたこの国は、今では日本の友好国であるということだけです
老人は黙ってしばらく空を仰いでいたが、ゆっくり立ち上がると教会の方に歩き出した。
私は再び貿易センタービルの跡地にある空間を見上げ、上着の内ポケットから彼女からの葉書を取り出した。
――皆様いかがお過ごしでしょうか? 私は去年からニューヨークで働いています。私も時々日本が恋しくなりますが、今年の年末まで帰国はできそうにもありません。機会があったら皆さんとお会いできたら良いと思っています。
プリンタで印字された文章に目を落とした。最後の方にはオフィスがある貿易センタービルの住所と並んで、彼女の自宅住所と電話番号とメールアドレスが書いてある。一見ありふれた挨拶状であるが、この葉書は私宛てにしか出されていない。
私と彼女が別れたあの日、念のため私の提案で二人にしかわからない符丁を決めていた。文章中に『日本が恋しい』と書いてある場合は『会いたいので連絡が欲しい』と言う意味だ。恐らく彼女は何らかの方法で私の住所を調べてみたものの、私がすでに結婚していることを知ってこのような手紙を出したのだ。
葉書に書いてあったメールアドレスに連絡をすると二日ほど経って返信があった。
――良一、結婚したのね。私は去年離婚したところです。九月末に一時的に帰国するのでその時に会って長い話をしましょう
そして九月十一日、貿易センタービルに二機目の飛行機が突入するのを見た直後に彼女の会社用メールと私用メールに送信した。
――無事だったらいつでもいいので返信してくれ
サーバー側のエラーでメールが戻ってくるかと思ったが、五分待っても両方のメール アドレスから戻ってこなかった。そして一ヶ月経っても返信はなかった。
恐らくあの日、今私が見上げている空間のどこかに彼女がいたのだ。飛行機が突入した場所にいたのか、衝突から免れて逃げ回っているところでビルが崩壊したのか、それともビルの屋上で助けを待っていたのかは今となっては知る由もない。
ただ言えるのは彼女はどんな時でも取り乱すような女性では無かった。自分が無事であれば他の人を助けたであろうし、負傷していれば他人の助けを断って自分で何とかしようと努力する人物であった。
当日、私の目の前にある墓地にはまるで積雪があったかのように辺り一面書類が散乱していたと言う。その書類の中に彼女が見ていた書類があったかも知れない。彼女がサインした書類があったかも知れない。それを思っていたら気管の奥から何かがこみ上げてきた。
――何をどう考えても私にできることは無かった
自責の念に駆られそうになった私は自分にそう言い聞かせ、ベンチから立ち上がった。教会の中に戻ると寄付金を入れる箱に百ドル札を二枚入れ、跡地の地下にある地下鉄の駅に向かって歩き出した。
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