WAGAMAMAだもん
蒼ざめた顔のクロー魔が、信じられないと言った表情で
「
クロー魔の声は僅かに震えています。彼の取ろうとしている行動は、それ程までに無謀で常軌を逸している物でした。
彼の左手に嵌められているネイルの種類とその構えの意味を察して、クロー魔は後退る程動揺しています。
そして直仁様はその問いに答えず、彼女にただニヤリと意地の悪い笑みを向け……。
―――能力を発動しました……。
「
彼の能力発動と共に、小さな小さな親指の爪程しかない火の玉が一つ出現し、彼の手を離れ緩やかな放物線を描いてターゲットの元へと飛んでいきます!
「ばばばばばばっ!」
即座に腕を上げたクロー魔は、その火球が飛んで行った先に 「ばばばば」 の乱射を行いました。彼女の放った無数の弾丸はターゲットの男がいる付近に幾つも着弾します!
「ひっ! ひ―――っ!」
依頼主でもある男が情けない悲鳴を上げていると言うのに、クロー魔が 「ばばばば」 を止める気配はありません!
―――キンッ!
そして彼女が放った弾丸の一発が、運よく飛んでいた火の玉を弾きました! 弾かれた火球は進行方向を変え、灯していた火を掻き消されて黒い塊となり地面へと落ちてそのまま霧散しました……。
それを確認したクロー魔は大きく安堵の溜息をついた後、キッと鋭い目つきで直仁様を睨み付けました。
「ちょっと、スグッ! あんた、正気っ!? アレを使えばここがどうなるか、あんただって解るでしょうっ!?」
クロー魔の語調に冗談は含まれておらず、それが本気で
彼女の剣幕などどこ吹く風の直仁様は、その顔に怪しい微笑を浮かべたままでした。
「……なんだよ、クロー魔。お前でも死ぬのは怖いってのか?」
「そんな話じゃないっ! こんな結末は、あたしが納得出来ないって言ってるのよっ!」
憎まれ口の様な口調の直仁様に、心底イラつきを隠せないクロー魔が語調を荒げて反論します。
―――ネイリー・ナパーム。
先程直仁様が使った 「異能力」 の名称です。
左手に嵌めた “特注品” である真紅の付け爪は、彼の有する能力の中でも強力な威力を持つ焼夷弾を具現化し放ちます。その火力、殺傷力は異常な程高く、「普通の着こなし」 でもこの部屋はおろか、この基地全体にも被害を及ぼしかねない力を秘めています。今日の最悪ファッションでさえ、この部屋の中を焼き尽くす等造作もない事でしょう。
火球の大きさが十円玉の大きさ程しかなく、彼の手から放たれてしまえばそれを防ぐのは至難です。先程はクロー魔の乱れ撃ちが運よく HIT した事で未発になりましたが、次は上手く行くとも限らないでしょう。
そして、「異能者」 を傷つける事が出来るのは 「異能力」 だけ。しかしそれは何も、他者の 「異能力」 に限った物では無いのです。
自身が発した 「異能力」 でも 「異能者」 は傷つき、容易に死に至るのです。
先程直仁様が放った 「ネイリー・ナパーム」。これが発動していれば、威力の
―――そして、直仁様も焼け死んでいた事に間違いないのです……。
「じゃあ、どうするんだ? ここは俺に譲ってくれるのか?」
「それも NO ね。あんたに勝ちを譲るなんて、まっぴらゴメンだわ」
「なんだよ、それ。我が儘かよ」
呆れた押し問答ですが、今の直仁様を止める事が出来るのは、残念ながらここにはクロー魔しか居ません。そして、ボックとしても、まだ直仁様に死んで欲しくはありませんでした。
「そう。あたしは
悪びれた様子も無く滅茶苦茶な持論を展開するクロー魔に、流石の直仁様も閉口しました。
クロー魔の両手は直仁様に狙いを付けており、次に彼が動きを見せればすぐにでも 「どん」 と言いそうな雰囲気です。直仁様もそれが解るのか、流石に今は指一本動かせる状況ではないようです。
しかし先に隙を見せたのはクロー魔でした。腕を下ろしクルリと踵を返して、直仁様に背中を見せたのです!
その余りに無防備な行動には直仁様も理解出来ず、彼女の動きを見守る事しか出来ませんでした。先程の発言と今の行動に、全く整合性が取れないからです。
「あーあ……ほんっと最悪……ホントは見せたくなかったのになー……」
「……あ? クロー魔、お前何言って……」
「ぼっかーんっ!」
彼女が背中を向けて大きな声で独り言ち、その意味が解らない直仁様がクロー魔に問い質そうとしたした瞬間、彼女が大きな声で 「ぼかーん」 を発動しました!
―――ボカーッン!
「なっ!?」
その直後、直仁様のすぐ隣で爆発が起こりました! 余りにも突然起こった爆発に不意を突かれ、直仁様は瞬時に顔を隠すしか出来ず、威力の殆どを浴びて数メートル吹き飛び壁に激突しました!
彼が意表を突かれたのも無理在りません。彼女の 「異能力」 は腕や指で標的を付けている先に発動されると、今の今まで思い込んでいたのです! 直仁様も! ボックも!
壁に激突した直仁様はピクリとも動きません。どうやら気絶してしまった様です。ボックは退避していた部屋の上方から、直仁様の体へ舞い降りました。
守ろうなんておこがましい事は言いませんが、せめて最期は共に在りたいと思ったのです。
戻って来たクロー魔は、直仁様を見下ろしています。今の直仁様なら、すぐに止めを刺す事等彼女にとっては造作も無い事でしょう。
「ほんっと、
しかし彼女に直仁様を仕留める意図は無いようです。
「……お……おい、おいっ! クロー魔ッ! そいつを早く始末しろっ!」
騒ぎが治まり部屋の隅で固まっていた男が這い出して来て、汚い唾を飛ばしクロー魔に命令しました。
でもクロー魔はその言葉で動こうとはしません。
「おいっ! どうしたっ!? 俺の命令が……」
「……るっさいねー……どんっ!」
―――ブシュッ!
ターゲットの男が全てを言い切る前にそう呟いたクロー魔は、男に向けて 「どん」 を使いました! 彼女から放たれた弾丸が彼の右脚に着弾し、彼の体から引きはがされたのです!
「……な……っ!? な――――――っ!」
「さっきの話……聞いてなかった? あたし……
サディスティックな光を湛えた彼女の瞳が、ターゲットの男が見た最後の記憶でした。
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