第3話  彼女の魔術は


 ヘイ、スティーブ、ごきげんかい?

 今日は3人目の仲間を紹介しよう。


 彼女の名前はフリージア、意外と話せる魔術師さんだ。

 そして僕の孤独を終わらせた救世主と言ってもいい。

 居眠り歩行で僕により孤独を味合わせていた本人のような気もするが、もはや過去の話だ。


「どうかしました?」

「気にしないで。色々感動しただけなので」


 ともあれ、話し相手が出来た事を喜んでいるのは本当だ。

 あの2人とは話題が続かない。

 話をすればそこから「きゃーんダーリン素敵」ルートか「君ほどじゃないさハニー」ルートに派生する確率が高すぎる。


 嫌な思い出に蓋をして、改めて彼女と挨拶を交わす。


「念のため自己紹介を。トート村のブロウ、旅の原因を作った男です」

「ご丁寧にどうもです。王立魔術院のフリージア、リーズと呼んでください」


 リーズ、おお、リーズナブル!

 少し前までは胸焼けでなくなっていた食欲だが、今は感激で胸が一杯になりそうだ。


「では改めて、ご飯いただきます」

「はい」


 雑談を交えながら進む食。


「ラーララル~♪、2人の~、せ~かいは~♪」

「そうなんだよ、うちには妹がいてね。リーズよりは少し小さいかな」

「いいですね、兄妹。わたしは一人っ子でしたから」


 もし彼女が覚醒してくれていなければ、幸せな2人の築き上げた砂糖の楼閣を見せ付けられながら砂を噛むところだったのだ、危機一髪である。


「満足満足」


 1時間も経たない間に用意された食料は残らず平らげられた。

 お互いに食べさせ合うというミラクル食事風景を展開していたダンスパートナー達は、あれで驚くほどに素早く手早く食事が成立していたのだから凄い。

 無駄な凄さだけど。


 食料は残らなかった、それでも問題は残る。


「この食器はどうすれば?」


 そう、食べ物は無くなっても器は残る。

 高級食器の代表格な銀製品というわけではなく、金の装飾が施されているわけでもない、僕から見ても安っぽいお皿に木製のナイフ&フォーク。

 放置しておけば自然に還りそうな素材であるからして、


「これは捨て置けって事なのかな」

「いえ、ちゃんと始末しますよ」


 僕の疑問に答えたのはリーズ。例の2人はララルーと食器を積み上げている。

 それはあれかね、共同作業による愛の塔なのか。


「始末って、燃やすとか?」

「近いですけど、もっと細かくします」

「細かく……?」


 僕の持っていた食器を手に取って、彼女は集められた食器の上に積み重ねる。

 そして手をかざし


「『分解リ・ゾルブ』」


 聞き慣れない掛け声を合図に、食器類は塵の山へと変化した。


「愛の塔が粉々に……ナイス!」

「え?」

「いやいや、こっちの話」


 突然物が風化する、一介の木こりには縁遠い神秘の現象。しかし彼女が魔術師、魔法魔術の使い手だと知っていれば想像は容易だった。


「今の、魔法?」

「はい。『分解』の魔術といいまして」


 魔法、魔術、その違いはよく分からないけど凄い力。

 トート村にも時々訪れて炭を買っていく魔術師がいたのだけど、お供が人間じゃなく人形で驚いた覚えがある。

 ああいうのがいれば切り出した木材運びも楽なんだろうなと羨ましく思った事も。


 そんな憧れの的、あったらいいな的能力を発揮した少女がここに。


「凄い、凄いぜリーズ」

「いえ、そんな。破壊系統の魔術は創成系に比べると構成が単純で」

「『ゴミを残さず処理できる』、この能力でサンジカンは君をメンバーに加えたのか、凄いぜ!」

「違います! そんな理由じゃありませんから!?」


 僕の絶賛を、彼女は何故か全力で否定した。


******


 食後にすぐ歩くのは身体に悪いとの事でお茶など啜る時間。

 今使っているコップやお茶の道具も出立時には分解される運命なのだろう。

 余計な荷物が増えないというのは実に喜ばしい事なのだが。


「あんな便利な魔法なのに、リーズは違うという……」

「便利かどうかではなく、抜擢理由は別って話です」


 どうやら謙遜ではない模様。


「第一、それだとわたしが『省エネモード』で歩いてた説明がつかないでしょ?」

「しょうえね……居眠り歩行の事かな」

「そうですけど、寝てるわけじゃありませんよ」


 ぶちぶちと抗議の言葉を紡ぐリーズを見ながら思い出す。 

 彼女が居眠り歩行をしているのは何かの魔法を使っている最中だからとサンジカンから聞いていたような無かったような。

 ただし素人目ではあの行動に魔法要素を感じる事が出来なかったので、まるで信じてなかったのだが。


「わたしが省エネしてたのは、もっと重要な魔術をですね」

「ふうん。で、どんな魔法なの?」


 そう、そこに誤解があるのなら晴らすべきだろう。

 正直何の魔法を使っていたのか気になってはいたのだ。

 僕をひとりで砂糖塗れの環境に放置する理由ある魔法だったのか。


「セバス様から聞いてなかったですか?」

「聞こうとしたんだけどね」


 それ以前の問題提起、「こんな人達が旅の道連れで大丈夫ですかハハーン?」という訴えをスルーされて聞く暇が無かったのだ。


「一言でいいますと、わたしが道中使っていた魔術は」


 彼女は自身の頭を指先でトントンと叩き、


「『』です」


 妹よ、魔術師の珍しい辺鄙な村にいる妹よ。

 お前も占い好きだったなあ。


 ちなみに魔法と魔術は規模で呼び方が違うらしい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る