第2話 一応の選択肢は2種類
かくして部屋に残ったのは王様の衝撃発言が脳裏に焼きついた僕と、王様がセバスと呼んでいた執事っぽい人、騎士と神官らしき数名である。
「では、ポッコ村のブロウ、であったなか」
「ト、トート村です。トート村」
「ではトート村のブロウ、陛下の名代としてこの筆頭参事官セバス・チャンドラーがお主の今後について説明致す」
「は、はあ」
王様の脇に控えていた、いかにも切れ者っぽい風貌のお人。
彼は執事ではなくサンジカンという役職の人らしいが、執事と何が違うのか僕には分からない。
「先に陛下がおっしゃったように、あの『選定の剣』は本物であった。それは理解しているな?」
「た、多分。実感ありませんけど」
「聖剣が折れるなどという変事を受け、我らは『神殿』にお伺いを立てたのだ。古より選定の儀式を取り仕切っていた『エルネーキア大神殿』にな」
エルネーキア大神殿。
『選定の剣』に並ならぬ思い入れをしていたスティーブから聞いた事があった。
建国王がまだ王子として魔王に抗する力を探していた頃に旅の仲間とした神官がいたのだとか。
その神官と供の騎士が見守る中、王子は聖剣を見事引き抜き、魔王を倒す力を得たのだと。
その由来に従い、今現在も続いていた『選定の剣』には騎士と神官の見守りがセットになっていたのだ──儀式化した現代の見守り役は当直の騎士と神官らしいのだが。
「そしてついぞ先、大神殿よりの『神託』が下されたのだ」
ごくり、僕は緊張のあまりに唾を飲み込む。
神託、神のお言葉。
僕の身に下される処分内容が含まれているに違いない、雲の上の判断。
それがどのような代物なのか、僕の事であるにもかかわらずまったく想像がつかない、つかなすぎて恐怖すら覚える。
「聞くがよい、トート村のブロウよ。その内容とは」
「……っ」
「『折れた剣を携えて、大神殿まで旅をせよ』との事である」
「…………は?」
******
神託の内容。
聖剣をへし折った僕に下された神サマのお言葉は、僕に大神殿へと来るよう申し付けるものだった、らしい。
「お主への最終的な沙汰は大神殿にて直接言い渡す、だそうだ」
「は、はあ」
意図の分かり辛い内容にちょっと面食らいながらも、意外と早く終わりそうな用事に僕は安堵する。
魔術師の珍しい田舎ならともかく、王都なら大神殿に通じる転送門のひとつやふたつ用意されているだろうし。
──と、思っていたのだけど。
「なお『出頭には転送門などを使わず、当人の足で』との但し書きを補足しておこう。神託は“旅をせよ”との事だ、納得ではあるが」
「……はい?」
「さながら巡礼のようだが、それがお告げであるのなら是非もない。お主には大神殿まで徒歩で移動してもらう事となった」
巡礼の旅、それは敬虔な神の使徒が信仰心を証明する苦行だったような。
「わざわざ時間をかけて歩いて来いって事ですか?」
「それが神託の結果であれば従う他にあるまい」
無表情に見えていたサンジカンさんの顔に覗く、僕と同じ困惑の色。王様に仕えて色々な難事を取り仕切ったであろう文官さんですら戸惑っているのだ、これはもう考えて結論の出せる問題ではなさそうである。
「神殿の真意は分からぬが、おそらくはお主の旅路が、一挙手一投足が最終的な裁定のための判断材料なのだろう。心するといい」
ありがたいお言葉をいただいたが、何に気をつければいいのか具体的なアドバイスは一切含んでいない、実にふんわししたもので不安がいっぱい。
この時点で既に僕には拒否権が無いんだろうな、とは思っていた。理性はそう判断すべきだとも告げていたが、色んなプレッシャーによる圧力と僅かばかりの好奇心から一応聞いておこうと思ったのだ。
「あの、ちなみに『行きたくない』っていうのは……?」
「その場合、お主を待ち受ける運命は2種類だな」
王様の代理人は拒否される事も想定済みだったのだろう、まるで動揺する事なく解決策のあることを示して見せた。
「それは、その、生きるか死ぬか、って感じで?」
「いや、もっと単純な選択だ」
僕が本気で断ろうとしていないのを分かっているのかいないのか、こともなげに選択肢は開示される。
「与えられた使命を果たしたくなる『クエスト』の魔術か、告げられた命令を己が意識の外でこなさざるを得なくなる『ギアス』の呪いか。お主はどちらが好みかね?」
にこりともせず、サンジカンはどちらを選んでも代わり映えしない結果を選んでもいいよと言ってくれた。
妹よ、世界には優しさが満ちていると信じている妹よ。
洗脳には「なんだかやりたくなる」系と「意識しないうちにやってしまう」系の2種類があるらしい事を兄は知った。
前者の方が前向きに思えるのは、きっと気のせいだ。
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