第56話 タナカ
さすがに落ち込んで外部マイクで宇宙の風の音ばかり聞いていた。
心理担当チームのタナカ女医がミーティングの通信をしてきた。
地球との通信タイムラグも少なくスムーズだ。
タナカ女医「体の調子どう?ちゃんと食べてるの?」
俺「まあまあ調子良いですよ。心配無用です。」
タナカ女医「嘘つくな~。最近困ってる事あるんだけど聞いてくれる?」
俺「何ですか?困りごとって?」
タナカ女医「ウチの子、小6なんだけど、おねしょが治らないのよ。」
俺「お子さんもう小6ですか。早いもんですね。」
タナカ女医「そうなのよ、あなたが出発する時はまだ年中さん。」
俺「幼の中?」
タナカ女医「そうそう、幼の中。」
俺「小6ならまだみんな、おねしょ治らないんじゃないですか?」
タナカ女医「そうなんだけど、今度お泊り遠足があるのよ。」
俺「ああ、お泊り遠足は危ないですね、バーストしたら。」
タナカ女医「でしょー。それで相談しようと思って。」
(なぜ俺に?なぜ今?)
俺「えーと。オムツでもはいて寝れば良いんじゃないですか?」
タナカ女医「それは私も考えたわよ。」
俺「お子さんには?」
タナカ女医「言った言った。オムツどう?って。」
俺「どうでした?」
タナカ女医「オムツは赤ちゃんみたいで嫌だって。」
俺「小6男子か。うーむ。」
タナカ女医「それで私が怒ったらプンプンしちゃって。どうしよ。」
俺「本当に困ったな。どうしよ。」
タナカ女医「お泊り遠足休ませるわけにいかないし。」
俺「休ませるのも何ですよね。」
タナカ女医「バーストしたらトラウマにならないかしら?」
俺「心配ですね。それは。」
タナカ女医「・・・・」
俺「こういうのはどうですか?」
タナカ女医「どういうの?」
俺「子供っぽくない大人用オムツを持って行かせるのは?」
タナカ女医「大人用オムツ?」
俺「JASAでも開発してる大人用オムツが、たしかありますよ。」
タナカ女医「あー、宇宙博物館の売店で売ってるあれ?」
俺「そそ、SPACE STAR とかロケットの絵とか描いてあるアレ。」
タナカ女医「あれなら子供っぽくないわね。」
俺「子供っぽくないでしょう?」
タナカ女医「あなたよく思いついたわね。その方法やってみるわ。」
俺「ええ、まあ。ところでミーティングは?」
タナカ女医「じゃ、通信切るわよ。私もヒマじゃないから。」
人を元気づけるのに、こんな方法もあるのかなと思った。
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