第55話 靴屋

壊した土壁がジャリジャリするので掃除をした。


ぼんやりと掃除しながら、グリム童話の「コビトと靴屋」を思い出した。

こんな話だ。

真面目に働く靴屋のおじさんが寝ている間に、なぜか靴が完成している。

それが何日も続くため、夜通し起きて見張っていた。

すると、裸のコビトが出てきて靴を作り始める。

コビトが作る靴は高く売れて靴屋はどんどん裕福になる。

おじさんは、靴のお礼にコビトの服を作って置いておく。

夜中に出てきたコビトは喜んで服を着て、二度と現れなくなった。


俺と豆腐小僧との(会話)があった時間帯は特定されている。

(会話)は決まって映画「●●●●●●●●」を見ている時間帯だ。

探査機の中で俺が仕事をしていたのも、その時間帯だ。

全く覚えが無いが、ログデータではそうらしい。

JASAの分析チームの結論はすでに出ている。

俺は毎日、仕事の時間になると決まって映画「●●●●●●●●」を流す。

数時間の仕事が終わると自分自身でその記憶を消してしまう。

作業の成果報告だけは豆腐小僧との会話の記憶として残るようにしている。

だから一日に数時間は作業時間があったはずだが、何もしていない記憶になった。


寝てる間に靴が完成しているグリム童話に例えるならば映画が睡眠だ。

コビトが人工知能。

いや、実際コビトはいないのだから、俺が作り出した妄想か。

コビトの服は何だろうか?

豆腐小僧というニックネームだろうか。

ニックネームというコビトの服を与えたからコビトは消えたのか?

やっとジャリジャリする砂を片付け終った。


夜中に出てきたコビトは喜んで服を着て、二度と現れなくなった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る