第32話 狂乱

狂乱の宴(うたげ)が始まった。

数か月ぶりの白米の香りだ。

伴奏は、ふりかけ「ひよこのり」。

作って、食べる。

食べたら、作る。

給水器のお湯で白米をふやかす間に無意味に、おどる。

食べたら、おどる。

また作る。

作って、食べる。

食べたら、おどる。


モジュール6からノート型PCは持ってこれなかった。

でも大丈夫。

ヒゲソリなどの備品と同様、物入れに予備のノートPCが入っている。

モジュール8へ移動できた喜び。

生きている喜び。

数か月ぶりの、まともな食事の喜び。

ドン、ドン、ドン、ドン。

ノートPCの音量を最大にして。

民族音楽をガンガンにかけて踊る。

ドン、ドン、ドン、ドン。

幸い近所に人は住んでいない。


ノートPCのモニターには人工知能からのメッセージが来ている。

CPU「モジュール移動ミッションは成功です。」

ドン、ドン、ドン、ドン。

CPU「地球への報告は完了しました。」

だってよ。

知らねえよ。

俺は今、踊るのに忙しい。

踊らずにはいられない。

たぶん今、手足を拘束されたら俺は死ぬだろう。

踊らずにはいられない。


ドン、ドン、ドン、ドン。

救助船が来るまで5年。

ドン、ドン、ドン、ドン。

食糧は2年分しか無い。

ドン、ドン、ドン、ドン。

今は踊る。食べて踊る。

ドン、ドン、ドン、ドン。


まだ全裸だったと気づき、物入れから新しいTシャツを着て、また踊った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る